第76話「協力」
次の日、五時間目は生物の授業だったので、僕と絵菜が早めに第一理科室に行くと、杉崎さん、木下くん、大島さんがいるのが見えた。
「おっ、二人ともお疲れー、なーなー、なーんか二学期も力入らないなー、勉強ばっかで疲れてんのかなー」
「お、お疲れさま、うーん、たしかに疲れはあるかも……」
「お疲れさま、まぁたしかに勉強ばかりだよね、でも大人になるためには仕方ないんだよ」
「お、お疲れさま、そうだね、ここで頑張っておかないと落ちちゃうもんね……か、花音も一緒に頑張ろう?」
「そうだなー、あたしは大悟がいてくれれば頑張れるっつーか、マジで何とかなりそうみたいな!?」
「ふふふ、杉崎さんと木下くんも、仲が良いわね。羨ましいわ」
ふと見ると、杉崎さんと木下くんを笑って見つめる大島さんがいた。昨日は大変なことがあったが、気持ちの切り替えはできたのだろうか。
「おっ、大島も彼氏ほしいんだろー? そうだよなー大島みたいな美人が彼氏なしっていうのも寂しいしなー、誰か釣れないかなー」
「そ、そんな魚じゃないんだから……まぁ、大島さんもいい人が現れるはずだよ」
「そ、そうね、まぁ、私は可愛いからね、周りの男が放っておかないというか、もうモテモテよ」
「……自分で言うセリフじゃないな」
「さ、沢井さん!? くっ、沢井さんより私の方が可愛いんだからね、今に何も言えなくしてやるわ……!」
結局いつものようになってしまう絵菜と大島さんだった。う、うーん、昨日の件で仲良くなってくれたらいいなと思っていたのだが……。
「ま、まあまあ、落ち着いて……大島さん、元気出たみたいだね」
「あ、そ、そうね、今は落ち着いているわ。日車くんも沢井さんも、あ、ありがとう」
「ん? ひ、日車くんと大島さん、な、何かあったの?」
「あ、い、いや、僕と大島さんというわけではないんだけど、その、あの……」
「……大丈夫よ、何でもないわ。私が日車くんにテストで勝ったから浮かれていたのよ」
「おおー、マジかー、ついに大島が日車を超えたかー、やっぱ頭いい奴らはすごいなー、あたしなんて物理も生物もヤバかったよー」
「ま、まぁ、杉崎さんはもうちょっと真面目に生物の授業受けようか……でも負けるのってこんな感覚なのか、やっぱり悔しいなぁ」
「や、やっぱり上から目線でムカつくわね……そうだ、私が勝ったから日車くんに望みを叶えてもらわないとね。こうかしら」
大島さんがそう言って、僕の右腕に抱きついてきた。
「え!? お、大島さん!?」
「……団吉?」
「ああ!! い、いや、これは突発的というかなんというか……ご、ごめん!」
「ふふっ、慌てる団吉も可愛い。まぁ大島が近いのは仕方ないしな」
「さ、沢井さん!? ま、まぁいいわ、このまま日車くんをいただいてやる……!」
「ひ、日車くん、腕引っ張られてるけど大丈夫?」
「うん、木下くん、助けて……」
いつものようにぐいぐい来る大島さんだった。まぁ、元気が出たならいいかと、ちょっとホッとしていた。
* * *
放課後になり、さて帰るかと準備をしていると、
「――あ、日車先輩!」
「――あ、だんちゃん!」
と、教室の入り口の方から声がした。見ると橋爪さんと梨夏ちゃんが手を振っていた。後ろには恥ずかしそうにしている黒岩くんもいる。
「あ、あれ? みんなどうしたの?」
「えへへー、暇だから遊びに来ちゃった!」
「こ、ここが三年生の教室なんですね! なんかカッコいい!」
「い、いや、一年も二年もあまり変わらないと思うけど……あれ? 天野くんはいないんだね」
「ああ、天野くん、生徒会室でなんか難しそうな言葉ブツブツ言いながらパソコンに向かっていて、呼びかけても反応がなかったので置いてきました!」
「そーそー、そーとん全然話聞いてくれないんだもん、つまんないよー」
「ええ!? い、いや、生徒会の仕事やってるんじゃないの!? み、みんなでフォローしながらやらないと……」
「……すみません、自分は止めたんスが、どうしても日車先輩のところに行きたいって……」
「なにー!? しょーりん、自分だけいい子でいるつもりかー!」
「なんだとー!? 日車先輩に気に入られようとしてー!」
橋爪さんと梨夏ちゃんがポカポカと黒岩くんを叩いている。
「ま、まあまあ、落ち着いて……でもほんと、みんなちゃんと協力し合ってね」
「――あら? みんな集まってどうしたの?」
「――あ、みんないる」
声をかけられたので見ると、大島さんと九十九さんがいた。
「あ、さとっこにれいれいだ! こんちわ!」
「おお! 大島先輩と九十九先輩じゃないスか! こんにちはっス!」
「……こ、こんにちはっス。すみません押しかけてしまって」
「い、いや、いいんだけど、みんな生徒会の仕事ちゃんとやってるのかしら?」
「そ、それが、今天野くんが一人でやっているようで……」
「ええ!? だ、ダメよみんな、一人でやらせては。ちゃんと協力してやらないと」
「だってぇ~、天野くん全然こっちの話聞いてくれなくてぇ~」
「そうだよぉ~、そーとん冷たいんだよぉ~」
「な、なんでそんなギャルみたいなしゃべり方なのよ……くっ、やっぱりバカにされてる気分だわ……!」
悔しがる大島さん……は置いておいて、九十九さんがコホンと咳をして、
「みんな、生徒会は四人で運営するものです。たしかに天野くんが一人で何でもやろうとするのはよくないけど、他の三人も協力しやすい雰囲気を作らないといけません。真面目にするときは真面目にして、楽しくするときは楽しくして、四人で支え合っていきましょう」
と、真面目な顔で言った。はしゃいでいた橋爪さんと梨夏ちゃんがしゅんとなった。
「は、はい……すみません、ちょっとはしゃいじゃって……」
「ご、ごめんなさい……だんちゃんに会いたくて、そーとん一人にしちゃって……」
「ま、まあまあ、遊びに来るのは全然かまわないから、みんなでやることやってからにしない? そしたらもっと楽しめると思うよ」
「はい! ちょっと天野くんに一人でやるなって言ってきます!」
「うん! そーとんが話してくれるように頑張る!」
「……す、すみません先輩方、自分も二人が暴走しないようによく見ておくっス」
黒岩くんに背中を押されるようにして、三人が生徒会室へ戻って行った。
「な、なんか私の話あまり聞いてないのは気のせいかしら……!?」
「お、大島さん? それにしても、天野くんも一人でやっちゃうのはよくないなぁ。僕たちからも言っておいた方がいいかもね」
「う、うん、もう少し生徒会室に顔を出すようにした方がいいかもね……」
たしかに九十九さんの言う通り、生徒会室に顔を出した方がよさそうだなと思った。みんなで支え合って頑張ってほしいな。
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