第72話「新学期」
九月というと秋のようなイメージがあるが、まだまだ夏が終わっていなくて暑いと感じる。
今日から二学期が始まる。まぁ三年生は夏休みの課外授業があり、八月後半もずっと学校に来ていたので、あまり久しぶりという感覚はなかった。
今日は絵菜と真菜ちゃんが一緒に行こうと言っていたので、リビングでのんびりしていると、インターホンが鳴った。絵菜と真菜ちゃんが来たようだ。
「お、おはよ」
「お兄様、日向ちゃん、おはようございます」
「絵菜さん、真菜ちゃん、おはようございます!」
「おはよう、じゃあ行こうか」
母さんに「いってらっしゃーい」と見送られ、僕たちは学校へと行く。
「日向ちゃん、課題終わった?」
「うん! お兄ちゃんに教えてもらってなんとか終わったよー、危なかったー」
「まったく、課題の範囲を間違える奴がいるなんて思わなかったよ……って、あ! 全然関係ないんだけど、今大事なことを思い出した……!」
「ん? 団吉、大事なことって?」
「あ、そ、その、夏休みに絵菜と一緒にどこか出かけようって言ってたのに、どこにも行ってない……ご、ごめん!」
「ああ、いや、団吉と一緒にいることが多かったし、それだけで十分だよ」
「そ、そっか、でも約束したのになぁ……今度一緒にどこか行こうね……はっ!?」
ふと振り返ると、日向と真菜ちゃんがニヤニヤしながら僕たちを見ていた。う、うう、そんな目で見ないで……。
玄関で靴を履き替えて、日向たちと別れて、僕と絵菜は教室に行く。まぁ昨日も学校に来ていたし、やはり久しぶりという感覚はない。
「おっ、二人ともおはよー、なーんか二学期が始まっちゃったなぁ」
「お、おはよう、ふ、二人とも今日も仲が良いね」
教室に入ると、杉崎さんと木下くんが話しかけてきた。
「お、おはよ」
「あ、おはよう、な、仲良いかな、普通だと思ってたんだけど……」
「あははっ、その普通がいいんだよー、やっぱ日車と姐さんは仲良くないと! ですよね、姐さん!?」
「あ、う、うん……」
「そ、そっか、あ、二人とも課題終わった?」
「あーなんとか終わったよー、もーマジしんどくてさ、最後は大悟に教えてもらってなんとかなったよー」
「ぼ、僕も終わったよ、課外授業もあったのに課題まであるとしんどいね……か、花音と一緒にやったけど、花音がすごく近くてビビりまくってたよ……」
「なんだよー、大悟も嬉しかっただろー? あたしが一緒なんだぞー」
そう言って杉崎さんが木下くんに抱きついた。木下くんは「ええ!? あ、う、うん……」と言って顔が真っ赤になっていた。
「あはは、杉崎さんと木下くんも仲が良いね、いいことだよ」
「やっぱり杉崎と木下も仲良くないとな」
「姐さ~ん、やっぱりそうですよね! 二学期が始まるのもマジしんどいけど、大悟がいれば怖くない! みたいな!」
「おーい、みんなそろそろ体育館へ行ってくれー」
大西先生の一言で、みんなが体育館へと移動する。まぁ、仲が良い人がいるというのは大事なことだ。僕も絵菜と仲良く過ごしたいなと思った。
* * *
「よーし、新学期恒例の席替えをやるかー!」
始業式が終わって、ホームルームで大西先生が大きな声で言った。そうだ、新学期となると席替えをするのが大西先生だ。
「あ、この席ともお別れなんだね……寂しいな」
「ほんとですね……楽しかったのになぁ……日車さんも九十九さんも、ありがとうございました……!」
隣の席で九十九さんと富岡さんが寂しそうな声を出した。
「あ、いえいえ、こちらこそありがとう、楽しかったよ」
「うん、私も楽しかった。また近くの席になるといいな……」
「そうですね、まぁクラスは一緒ですから、また楽しんでいきましょう……!」
九十九さんと富岡さんが笑顔になった。たしかに、席は離れることになってもクラスは一緒だから、また一緒に楽しめばいいのだ。
「今回は出席番号順にくじを引いていってくれー」
なるほど、出席番号順か、僕はけっこう後の方だ。いい席が残ってくれるといいなと思った。
どんどん進んでいって、僕の番がやって来た。
「日車は三十三番だなー、よし次ー」
三十三番か、今度は廊下側から二列目、前から三番目になった。まぁけっこういいところなのではないだろうか。
「みんな終わったなー、よーし移動してくれー」
みんながわいわいと移動する。他の人の席はあまり聞いていなかったが、近くに誰か話せる人がいるだろうかと思っていると、
「日車くん隣ね、よかったわ、よろしくね」
と、声をかけられた。なんと右隣が大島さんになった。
「あ、大島さんが隣か、よろしく。よかったよ話せる人が近くて」
「そ、そうね、ふふふふふ、これで日車くんにくっつき放題ね」
くっつき放題? と思ったら、大島さんが僕の右腕に抱きついてきた。
「え!? お、大島さん!?」
ツンツン!
その時、かなり強めに背中を突かれた。見ると後ろの席で絵菜が面白くなさそうな顔をしていた。
「……団吉のばか」
「ああ!! い、いや、大島さんが急に抱きついてきて……って、あ、あれ? 絵菜が後ろなんだね、よかった、嬉しいよ」
「あ、あれ? 沢井さんがそこなのね。ふ、ふーん、まぁよろしくね」
「……今から大島はもう一回席替えしてもらってかまわないんだけど」
「す、ストーップ! 二人ともそのへんでやめておこう……」
「……日車くん、相変わらず大変そうだね」
また声をかけられたので見ると、絵菜の隣、大島さんの後ろは相原くんが座っていた。
「あ、相原くんも近いのか、よかった、助けてもらえるとありがたい……」
「……俺じゃああまり力にはなれないと思うけど、よろしく」
「な、なんかまた固まったわね、前から思ってたけど、不思議なこともあるものね……」
「た、たしかに、こんなこともあるんだね。まぁでも話せる人が近いのは嬉しいよ、素直に喜んでおこうか」
大島さんの言う通り、不思議なこともあるもんだなと思った。やはり見えない力が働いているのか? 見えない力ってなんだ?
とにかく、二学期も始まったばかりだ、勉強で大変な毎日になると思うが、頑張っていこうと思った。
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