第55話「再会」
八月六日、日曜日の今日は、とても楽しみにしていたことがあった。
それは、ジェシカさんがついに日本に来ることだった。今日の十八時過ぎに日本に着くと聞いていたので、僕と絵菜と相原くんは夕方に駅前に集まった。
「お、お疲れさま」
「……二人ともお疲れ。ついにこの日が来たね」
「お疲れさま、うん、ついにジェシカさんが来るんだね。ちょっとドキドキしているよ」
「……俺もだよ。ビデオ通話で顔は見ていたけど、実際に会うと違うんだろうな」
三人で駅前から電車に乗って、電車を乗り継いで国際空港まで行く。けっこう遠いが、三人で話しているとあっという間に感じた。
国際空港はもちろん去年の修学旅行で来た時以来だ。僕たちは到着口近くのロビーで待つことにした。
「あ、翻訳アプリをいつでも使えるようにしておかないと……」
「……あ、俺もだ。ちゃ、ちゃんと話せるかな……」
「あはは、まぁアプリを使えば話せるって、便利な時代になったよね。あ、あの十八時十五分到着の便に乗ってるのかな、もう少し時間あるね、飲み物買ってくるよ」
僕が三人分の飲み物を買ってきて、二人に手渡した。三人でしばらく話していると、ジェシカさんが乗っていると思われる飛行機が着いたみたいだ。おお、海外の方がぞろぞろと到着口に現れた。ジェシカさんはいるかなと探していると、
「あ、あの赤い服着た金髪の女の人、違うかな……?」
と、絵菜が言った。見るとたしかにジェシカさんがキョロキョロと辺りを見回しているようだった。
「あ、そうだね、相原くん、絵菜、行こう」
三人でジェシカさんの元へ行く。ジェシカさんも僕たちに気がついたようで、パァッと笑顔で手を振っていた……と思ったら、すごい勢いで相原くんに抱きついた。
「……ええ!? あ、え、あ……」
『シュン……会いたかった……ずっとシュンの写真見るだけだったから。大好き、シュン……』
「……ひ、ひ、日車くんごめん、今ジェシカさん何て言ったの……?」
「ああ、会いたかったって、相原くんの写真ずっと見てたって。大好きは分かったよね」
『……あ、お、俺もジェシカさんが大好きです……』
『……うん、ありがとう、もう離れたくない……』
相原くんも顔を真っ赤にしてそっとジェシカさんを抱きしめる。久々の再会だ、僕もちょっとジーンときてしまった。
『ダンキチも久しぶり! わぁ、エナも来てくれたんだね! ありがとう』
ジェシカさんがそう言って僕と絵菜をそれぞれ抱き寄せた。あ、あわわわ、やっぱりスキンシップが半端ない。絵菜も恥ずかしいのか顔が赤くなっていた。
『あ、じゃ、じゃあ行きましょう、僕の家まで案内します。相原くんも絵菜も、最寄り駅までは一緒に行けるので』
『うん! よろしくお願いします! それにしても日本も暑いんだね、汗が止まらないよー』
ジェシカさんが胸元をパタパタとあおいだ。あ、危ない、胸が見えそうになって僕と相原くんは目をそらした。
四人で話しながら電車に揺られて、駅前まで戻って来た。相原くんは駅が違うのでここで今日はお別れとなる。最後にまたジェシカさんが抱きついていて、相原くんは顔が真っ赤になっていた。
夜になっていたので、先に絵菜を送るために一緒に絵菜の家に行く。ジェシカさんは『へぇー、ここがエナの家かぁ、じゃあエナまたね!』と言ってまた絵菜を抱き寄せた。絵菜は顔を赤くして『お、おやすみなさい……』と、なんとか英語で話していた。
『ふふふ、エナ可愛いねー、やっぱり妹にしたいなぁ。あ、妹といえば、ヒナタちゃんもいるのかな!?』
『あはは、あ、日向も家にいます。ジェシカさんに会うのを楽しみにしてたみたいで』
『そっかー、ヒナタちゃんも可愛かったなぁ、抱きしめちゃおーっと』
二人で話しながら歩いて、僕の家に着いた。
「ただいまー」
「おかえりお兄ちゃん、あ、いらっしゃいませー! って、いらっしゃいませって英語でどう言うんだろう?」
パタパタとやって来た日向が頭にハテナを浮かべていた……と思ったら、ジェシカさんが『ワオ!』と言って日向に抱きついた。身長差があるのでジェシカさんの胸の上あたりに日向の頭がある。高梨さんと初めて会った時を思い出すな。
『ハーイ、あなたがヒナタちゃんね!? ジェシカです。小さくて可愛いなぁー!』
「ふええ!? あ、あわわわ……こ、こんばんは……」
「日向、英語、英語……!」
『……あ、こ、こんばんは、日向です……あわわわ』
「あらあら、いらっしゃいジェシカさん、って、いらっしゃいって英語でどう言えばよかったかしら?」
母さんが日向と同じような疑問を持っていた。
『あ、ジェシカさん、僕と日向の母です。いらっしゃいと言ってました』
『ああ! はじめまして、ジェシカといいます! すみませんしばらくお世話になります! お母さん美人さん!』
ジェシカさんが母さんの手をとってニコニコしている。
「あらあら、団吉、今ジェシカさんなんて言ってたの?」
「あ、ああ、しばらくお世話になりますって、あ、あと美人だって……」
「あらまぁ! ふふふ、ジェシカさんも美人さんねー、鼻がシュッとしていてうらやましいわー」
母さんの言葉を僕が英語にすると、ジェシカさんが『ワオ! ふふふ、嬉しいー!』と言っていた。
リビングへ行くと、夕食の用意が整っていた。
「ふふふ、今日は手巻き寿司にしてみたわ、ジェシカさんは初めてかもしれないからねー」
「な、なるほど、手巻き寿司って英語でどう言えばいいのかな……調べないと」
『わぁ! なんだかすごい! これが日本のお米?』
『ああ、はい、今日は手巻き寿司です。こうやってくるくると巻いて食べるお寿司のことです』
僕がお手本を見せると、ジェシカさんは『ワオ! グレイト!』と大興奮の様子だった。
『美味しい! お米もいい味だし、お魚も美味しいし、このパリパリした黒いものも! ダンキチ、この黒いものは何?』
『ああ、海苔といいます。あまり海外ではないのかな、美味しいですよね』
『うん! 初めて食べたよー、すごいすごい! 持って帰ってパパとママに食べさせてあげたいくらい!』
「ふふふ、ジェシカさんが食べてくれて嬉しいわー、どんどん食べてね」
この前のたこ焼きもそうだったが、みんなで作れるというのは楽しいものだ。あ、たこ焼きも作ってあげると喜ぶかもしれない。
手巻き寿司を初めて食べて満足そうなジェシカさんだった。しばらく我が家にいるのだ、楽しくなりそうな気がした。
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