第56話「寝る場所」

 美味しい夕食をいただいた後、僕たちは色々と話していた。

 日向も母さんもスマホの翻訳アプリを使い、なんとか会話できているようだ。ジェシカさんも嬉しそうだ。

 そうだ、日本の歌を聴かせてあげるのもいいなと思って、僕はメロディスターズのCDを流した。ジェシカさんは『歌詞はさすがに分からないけど、歌が上手いのは分かる! いいメロディだね!』と言っていた。


「みんなー、そろそろお風呂に入ったら? 暑いからシャワーでいいかしら?」

「あ、はーい! 順番どうしよう、ジェシカさんが疲れているだろうから先に入ってもらおうか!」

『ん? お母さんとヒナタちゃんが日本語で話してるね?』

『あ、お風呂に入らないかって言ってました。ジェシカさん最初に入ってください』

『ああ! なるほど、汗かいちゃったから流してこようかな!』


 ジェシカさんがまた胸元をパタパタとあおいだ。あ、危ない、もう少しで見てしまうところだった。


「団吉、シャワーの使い方とかドライヤーとかタオルとか、教えてあげて」

「ええ!? な、なんで僕!?」

「なんでって、しっかりと英語が話せるのは団吉でしょ、ふふふ、絵菜ちゃんの時と同じ反応なんだからー」

「あ、そ、そうか……」


 とりあえず二人で脱衣所に行く。ドライヤーとタオルを出して、シャワーやドライヤーの使い方を教えてあげた。


『なるほどー! ありがとう! ねえねえダンキチ、私の裸気にならない?』

『ええ!? い、いや、気にならないというか……あ、いや、そうでもないというか……ん? 僕は何を言っているのだろう』

『ふふふ、赤くなってて可愛いね、じゃあ入らせてもらおうかな!』


 そう言ってジェシカさんが服を脱ぎ始めたので、僕は慌てて脱衣所を出た。うう、絵菜と一緒でジェシカさんも大胆だ……ピンクのブラジャーか……って、しっかり見てるじゃないか僕! ああ絵菜、そして神様すみません、許してください……!

 しばらくのんびりしていると、ジェシカさんが戻って来た。Tシャツとハーフパンツ姿だったがスラっと背が高いジェシカさんの体のラインが分かるようで、僕はドキッとしてしまった。


「次お兄ちゃん入りなよ、あ、ジェシカさんに見とれてる~、絵菜さんに言いつけようかなー」

「え!? い、いや、なんでもないよ……入ってくる」


 う、うう、やっぱり女性に押されてしまうのか……恥ずかしくなってしまう僕だった。



 * * *



 みんなお風呂に入るといい時間だったので、そろそろ寝ようかという話になった。


「ジェシカさんはどうしよう? 日向の部屋で寝てもらおうか」

「え!? あ、いや、まだ英語に慣れてないから、私のところよりもお兄ちゃんのところの方がいいんじゃないかなー……なんて」

「あーなるほど……って、ええ!? そ、それはまずいだろ、え、絵菜でもまずいんじゃないかって思うし……」

「だって、物置部屋で寝てもらうわけにはいかないし、お兄ちゃんの方が英語もできるし……ああ、明日は私の部屋で寝てもらうからさ、交互にということで」

「ええ……そんなバカな……絵菜にバレたらどうしよう……殴られるじゃ済まないかも」

「だ、大丈夫だよ、ここだけの秘密にするから!」


 秘密にするとか言いながら、ポロっとしゃべりそうなのが日向だった。ま、まぁ、寝るだけだからな、何もないよな。


『あれ? ダンキチとヒナタちゃん、何か言い合ってるね?』

『ああ、あの、今日の寝るところなんですが、ぼ、僕の部屋でも大丈夫でしょうか……? ああ! 嫌だったらすぐに日向の部屋にしますので、言ってもらえ――』

『オー! ダンキチの部屋ね! うん、大丈夫だよー!』


 僕が言い切る前に、ジェシカさんが大丈夫と言ってしまった。ま、マジか……。


「あ、そ、そっか、じゃあ僕たちは寝るね……おやすみ」

「ふふふ、団吉、襲ったら絵菜ちゃんに報告するからね~、おやすみ」

「か、母さん何言ってるの……」


 ジェシカさんと二人で僕の部屋に行く。布団を持って来たのでテーブルを片付けて布団を敷いた。


『へぇー、ここがダンキチの部屋かぁー、あ、本がいっぱいあるね』

『ああ、本を読むのが趣味なんです。ジェシカさんがベッドで寝てもらった方がいいですね、僕がこっちで寝ます』

『ありがとう! ねえねえダンキチ、一緒に寝てみる?』

『ああ、なるほど……って、ええ!? い、いや、それはやめておきます……』

『ふふふ、ダンキチはすぐ赤くなるから可愛いね』


 ジェシカさんに頬をツンツンと突かれた。うう、大胆というかなんというか……本当に大丈夫かと心配になってしまった。


『じゃあさ、ちょっとだけお話しない?』

『あ、はい、いいですよ』

『ふふふ、ダンキチ、本当にありがとうね、私のためにいろいろとしてくれて』

『いえいえ、こうしてまた会えたのが嬉しいです。僕も相原くん……駿くんも同じ気持ちです』

『そっかそっか、パパとママはね、本当は私が日本に行くの不安だったと思うんだ。でも、ダンキチやシュンがいるから、パパもママもちょっとだけ安心しているみたいでね、二人がいてくれて本当によかった』


 たしかに、日本とオーストラリアでは、距離がかなりある。娘を一人日本に行かせるのは親としても心配なところがあるだろう。


『そうですよね、お父さんもお母さんも心配ですよね。あ、僕のパソコンがあるから、明日にでもメールを送ってみてはどうでしょうか?』

『ああ! なるほど、うん、それもいいかもしれないね! 明日はどこかに行くの?』

『あ、駿くんと絵菜と一緒に、都会の方に行ってみようかなって思ってます。見るところがたくさんあるし、きっと楽しいですよ』

『そっかー、日本の都会かぁー、楽しみだー! じゃあ早く寝ないといけないね、あ、やっぱり一緒に寝る?』

『ええ!? い、いや、やめておきます……あ、興味がないとかそういうわけじゃなくて……ん? 僕はまた何を言っているんだろう』

『ふふふ、ダンキチ可愛いね、じゃあおやすみ』


 ジェシカさんがスッと近づいてきたと思ったら、僕の頬にキスをした。あ、あわわわ、やっぱりスキンシップが半端ない……絵菜には絶対に言えないなと思った僕だった。

 電気を消すと、スースーとジェシカさんの寝息が聞こえてきた。よかった、違うベッドだけど寝てくれているようだ。僕は安心して布団に横になった。

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