第54話「キャンパス」

 八月最初の土曜日、僕はやりたいことがあって、バイトも休みをもらった。

 あれから僕のRINEアカウントを知ったゆかりんが、『みんなに教えてもいい?』とRINEを送ってきたので、いいですよと言うと、本当にメロディスターズのしおみん、あきりん、ゆきみんが僕にRINEを送ってきた。特にゆきみんが杉崎さんのようにRINEがめちゃくちゃ早くて、僕はびびっていた。こ、これも浮気になるのかな……と、ちょっと心配だった。

 それはいいとして、今日やりたいこととは、大学のオープンキャンパスに行くことだった。受けようと思っている理工学部の日程が今日だったので、大学はどんなところか見ておきたいと思った。

 以前絵菜にそのことを話すと、「私も行きたいけど、いいか?」と言っていた。事前予約制だったので、僕は二名で予約をとった。二人で行っていいのかなと心配になったが、人は多いだろうし保護者がついてくることを考えれば、まぁいいかという気持ちになった。

 僕と絵菜は駅前から電車に揺られて、大学の最寄り駅に着いた。そこから歩いて行く。僕たちと同じように高校生らしき人が歩いている。オープンキャンパスに行くのだろう。もしかしたら入試のライバルになるのかもしれない。僕はひっそりと気合いを入れていた。


「着いたね……って、で、でかっ! だ、大学ってこんなに広くて大きいのか……」

「あ、ああ、うちの高校もそれなりに広いと思っていたけど、それ以上だな……」


 二人で田舎者感を出してしまった。大学の方が人数も多いので広くて当たり前だった。

 受付を済ませて、講堂で学長の挨拶があるとのことで、僕たちは講堂へ向かった。ここもめちゃくちゃ広くて、学校の体育館がなんだか小さく見えてしまう。


「す、すごいね、席がたくさんあるね、ここに座ろうか。来ている高校生も多いみたいだね」

「あ、ああ、でもみんな団吉のライバルになるかもしれないんだよな……まぁ、団吉の方がすごいんだけど」


 絵菜がそう言って僕の手をきゅっと握ってきた。そんな絵菜が可愛かった。

 学長の挨拶があった。難しいことも言っていたがそんなに長くなくて、うちの校長も見習ってくれないかなと思ってしまった。

 講堂を後にして、理工学部の建物はどこだと二人でキャンパスマップを見ていると、


「こんにちはー、二人とも高校生?」


 と、お姉さんに話しかけられてしまった。絵菜と同じくらいの背で、ショートカットの髪の綺麗な人だった。


「あ、こ、こんにちは、はい、高校生です」

「そっかー、オープンキャンパスへようこそ! マップ見てたけど、何か探してる?」

「あ、理工学部の見学に行こうかなって思っていたのですが、建物が分からなくて……」

「ああ、理工学部か、私が連れて行ってあげるよー。こっちこっち」


 お姉さんが僕たちを案内してくれた。途中で僕たちに名刺をくれた。川倉亜香里かわくらあかり、理工学部二年と書いてあった。なるほど川倉先輩か、しかも理工学部だった。


「着いたよー、ここが理工学部の研究棟だ――」

「――あれ? 団吉くんと絵菜さん?」


 ふと名前を呼ばれたので振り返ると、なんと慶太先輩がいた。


「あ、あれ!? 慶太先輩!? どうしてここに……って、も、もしかして慶太先輩もこの大学だったのですか……!?」

「ああ、ボクはこの大学の文学部なんだけど、理工学部ともちょっと親交があってね、今日はお手伝いに来ていたのだよ」

「あ、慶太! またこんなところにいてー、あんた文学部でしょ、本でも読んでなさいよ」

「いやはや、亜香里先輩も相変わらず厳しいね、ボクは可愛い後輩と再会できてとても嬉しく思っているんだよ」

「まったく、相変わらず敬語使わないんだから……あれ? 後輩? ということは、二人は青桜高校なの?」

「あ、はい、そうです……」

「ふふふ、亜香里先輩、こちらの日車団吉くんは青桜高校で生徒会の副会長も務める、ボクが見つけたできる男だよ」

「ボクが見つけたっていうのが余計ね……でも、へぇ、団吉くんかぁ、よく見ると可愛い顔してるね」


 川倉先輩が僕を覗き込むようにして見てきた。うう、恥ずかしい……と思っていると左手を握られた。見ると絵菜が面白くなさそうな顔をしていた。


「ああ!! い、いや、何もないよ、何もないからね!」

「あはは、そっか、二人は付き合っているんだね? 高校生カップルかぁ、可愛いなぁ、私もそんな時代があったよね」

「亜香里先輩は告白してきた男の子を豪快に投げ飛ばしてそうだね」

「うっさい! あんたはほんと可愛くないよね。彼女はなんていう名前?」

「あ、さ、沢井絵菜といいます……」

「絵菜ちゃんか、可愛いねー、そっか、青桜高校だったら金髪でも問題ないもんね、綺麗だよ」

「あ、ありがとうございます……」

「ふふふ、亜香里先輩、絵菜さんは世界一、いや宇宙一金髪が似合うとても素敵な女性だよ。ボクは一目見た時から彼女のいいところを――」

「慶太、あんた気持ち悪いのもそのへんにしておかないと、いつかぶん殴られるよ? あ、私がぶん殴ってやろうか?」

「ええ!? 絵菜さんの魅力をいっぱい語ろうと思っていたのに、いやはや、亜香里先輩はほんとに厳しいね」


 なんだろう、先輩だから当たり前かもしれないけど、慶太先輩にここまで突っ込める人は初めてで、僕はびっくりしていた。

 それから川倉先輩と慶太先輩が、理工学部の研究棟や食堂やカフェを案内してくれた。お昼を過ぎていたので、四人で食堂でご飯を食べた。うちの高校の学食も美味しいけど、ここも安くて美味しい。

 お昼を食べた後、他の研究棟や外のグラウンドや図書館を案内してもらった。図書館もとても大きくて、こんなに本があるのかと僕は一人で嬉しい気持ちになっていた。隣にいた絵菜が気づいたのか、「団吉、嬉しそうだな」と言っていた。

 まさか慶太先輩がいるとは思わなかったが、慶太先輩も大学生活を楽しんでいるみたいだ。僕は来年みなさんの後輩になれるのだろうか。これからも頑張っていこうと強く思った。

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