第53話「恋と仕事」

 八月になっても、暑い毎日が続いている。

 三年生の課外授業も例外なく続いているが、なんとか毎日学校へ行くことができている。日に日に火野と高梨さんの元気がなくなっていく気がするが、もう少ししたら休みがあるので頑張ってほしいと思った。

 今日もいつも通り課外授業を受けて、絵菜と一緒に帰ってきた。家に着いてスマホを見てみると、RINEが来ていた。送ってきたのは東城さんだ。


『こんにちは! 今いいですか?』


 五分ほど前に来たみたいだ。僕はスマホを操作して返事を送る。


『こんにちは、うん、今学校から帰ってきたところだよ』

『そうでしたか、お疲れさまです! 三年生は大変なんですね……』

『まぁ、受験生だから仕方ないよね。それよりも、何か用事だった?』

『あ、はい! 団吉さんと絵菜さんにお話したいことがありまして、あ、うちのゆかりんも一緒に話したいと言っているのですが、みんなで通話してもいいですか?』


 ん? ゆかりんとは、あのメロディスターズのリーダーのゆかりんだろうか。以前会ってお話したこともあるし、問題ないなと思った。


『うん、いいよ。でもどうやってかけたらいいんだろう?』

『ありがとうございます! ゆかりんのアカウントを教えますので、みんなにかけてもらっていいですか?』

『あ、分かった、ちょっと絵菜に訊いてみるね』


 絵菜に通話できるかなと訊くと、大丈夫と返事が来た。そして東城さんからゆかりんのアカウントを教えてもらった。僕はそれを登録して、みんなに通話をかけた。


「も、もしもし」

「もしもし、あ、こんにちは」

「もしもし、団吉さん、絵菜さん、こんにちは! すみません急に通話とか言って」

「おーいまりりん、私のこと忘れてないかい? ふふふ、みんなこんにちは。絵菜さんは初めて話すよね、私がメロディスターズのリーダーのゆかりんです」

「あ、は、はじめまして、沢井絵菜といいます……」


 絵菜が恥ずかしいのか、ちょっと小声になった。


「ふふふ、絵菜さんのことはまりりんから聞いてるよ。団吉くんの彼女だそうだね」

「あ、は、はい……」

「あ、そ、そうですね……って、なんだか恥ずかしいな、そういえば東城さん、話したいことって?」

「ああ、そうです! あの、わ、私、昨日天野く……蒼汰くんに告白されまして……」


 東城さんも恥ずかしいのか、ちょっと小声になった。そうか、ついに天野くんが告白をしたのか。


「あ、そうなんだね、天野くんが……東城さんはなんて返事したの?」

「あう、あの、私も蒼汰くんが好きですって……は、恥ずかしいですね……」

「そっか、じゃあ、おめでとう……なんだね、ごめん、やっぱりこういう時なんて言えばいいのか分からなくて」

「東城、よかったな。天野も喜んでると思う」

「あ、ありがとうございます! でも、蒼汰くんも心配していたのですが、私はアイドルだからお付き合いは難しいんじゃないかって……」


 東城さんが真面目な声で話す。そうだ、東城さんはアイドルだ。アイドルは恋愛禁止とかよく聞く。好きになるのは自由かもしれないが、お付き合いをするのは難しいのかもしれない。


「そうだね……僕はそのあたりのことよく分からないけど、やっぱりアイドルは恋愛禁止なのかな……?」

「は、はい……でも、私は蒼汰くんが好きだから、蒼汰くんのそばにいたいです。それでアイドルを辞めることになっても仕方がないって思って、メンバーやマネージャーに話しました。そしたら……」

「おっとまりりん、続きは私が話そうか。そうそう、昨日まりりんから聞いてね、どうやらまりりんも本気でアイドルを辞めてもいいと思っているみたいでね、私たちも考えたんだよ。でも、私たちもまりりんが辞めるのはすごく寂しい。で、マネージャーとも話して、これまで通りまりりんとバレないことという条件付きで、二人の恋を応援しようということになったんだよ」


 ゆかりんが嬉しそうに話してくれた。二人の恋を応援するということは、アイドルも辞めなくていいということか。


「な、なるほど、そうなんですね……なかなか難しいかもしれないけど、東城さん、よかったね」

「は、はい! が、学校でも人の目があるから、そんなに仲良くはできないかもしれないけど……あれ? でも今までもそれなりに話してたし、実はもう周りは気づいてる……?」

「あはは、まりりん、気をつけないとダメよ。でも、急に態度を変えるのも変だし、これまで通りでいいんじゃないかな」

「う、うん! 気をつける……な、なかなか難しいけど」

「まりりんは好きになると突っ走るところがあるからね、それと、蒼汰くんのことばかり考えないで、これまで通り仕事はちゃんとやること。これはリーダー命令だよ」

「わ、分かってる、私はアイドルだもん、しっかりしなくちゃ……」

「ふふふ、ということで、まりりんはメロディスターズに残ることになったから、団吉くんも絵菜さんも、二人を見守ってやってくれないかな? あと、二人がお付き合いしているというのはここだけの秘密で」

「あ、は、はい、分かりました。東城さん、僕たちもいるからね、お仕事も頑張ってね」

「東城、頑張って。私たちもちゃんと見守るから」

「ありがとうございます! 蒼汰くんのことは好きだけど、団吉さんが大切な人なのは変わらないので! また誘惑しに行きますね!」

「え!? い、いや、誘惑はしなくていいんじゃないかな……あはは」


 東城さんが「えー」と不満そうに言ったので、みんな笑った。いつものように頬を膨らませているのだろうか、想像できて可愛いなと思った。


「ふふふ、まりりんがお付き合いするなら団吉くんかと思ったのに、蒼汰くんだなんてね、まりりんもモテるねぇ」

「そ、そ、そんなことないよ!」

「ふふふ、まりりんは可愛いねぇ。そういえば、団吉くんのRINEアカウントを知ることができたな……こっそりお話しちゃおうかな」

「……団吉?」

「あ、団吉さん、浮気ですか!? いけませんよ!」

「ええ!? い、いや、話すのはいいんだけど、う、浮気とかでは……あれ? それって浮気になっちゃうのかな……」


 僕が慌てていると、三人が笑った。うう、ここでも女子に押されっぱなしなのか……。

 それはいいとして、天野くんと東城さんが仲良くできるように、僕も絵菜もメロディスターズのメンバーも、見守ろうと思っていた。

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