第52話「天野の告白」
八月一日、僕にとっては、特別な日だった。
去年、東城さんとデートをしたのもこの日だ。手をつないで、一緒に映画を観て、とても楽しかった。
東城さんはアイドルである以上、僕とデートをするのも本当はダメなのかもしれない。でも、周りの方の理解もあり、僕は楽しい時間を過ごすことができている。
今日も東城さんのお仕事が落ち着いたとのことで、デートが出来る。僕はこれまで以上に緊張しながら駅前で東城さんが来るのを待った。そう、僕は今日どうしても伝えたいことがあった。それは――
「あ、天野くん! ごめんね、待ってた?」
ふと声をかけられたので見ると、東城さんがいた。東城さんは今日もセミロングの髪を二つに結び、サングラスのようなメガネをかけている。服装はワンピースが好みなのだろうか、とても可愛かった。
「あ、いや、大丈夫だよ、ごめんね忙しいのに」
「ううん、お仕事は落ち着いたから、今日は天野くんと一緒に思いっきり楽しもうと思って! あ、今日は水族館だったよね、行こっ!」
東城さんはそう言うと、僕の左手をきゅっと握ってきた。は、恥ずかしい……けど、とても嬉しかった。
電車にしばらく揺られて、最寄り駅からバスに乗り換えてまたしばらく行く。僕たちは水族館にやって来た。前に日車先輩と沢井先輩も来たことがあるらしい。とてもよかったと聞いていたので僕も楽しみにしていた。
受付を済ませて、中に入る。順路を進んでいくと近海の魚が展示されているエリアがあった。水槽も大きく、僕たちは圧倒されていた。
「すごいね! お魚さんが楽しそうに泳いでる!」
「あはは、うん、すごいね、東城さん幼稚園児みたいだね」
「あーっ! バカにしたなぁ!? ふーんだ、どうせ私は幼いですよーだ」
東城さんがぷくーっと頬を膨らませてポカポカと僕を叩いてきた。そんな姿も可愛くて僕は笑ってしまった。
それからさらに順路を進んでいくと、クラゲがふわふわと泳いでいたり、南国の魚やサンゴ礁がたくさん展示されているエリアがあった。僕たちは幼稚園児のように目をキラキラさせていた。
「すごーい! キラキラしてる! こんなにたくさんお魚さんがいるんだねー」
「ほんとだね、なんか圧倒されてしまうよ」
「うんうん! あ、イルカのショーがあるみたいだよ、行ってみない?」
東城さんに引っ張られるようにして、上の階に行くと、イルカのショーが行われていた。僕たちも座って見ることにした。飼育員のお兄さんお姉さんの合図でイルカたちが色々な動きを見せる。僕たちも拍手を送っていた。
「すごいすごい! あんなに高くジャンプしてる! いいなー私も飛びたいなぁ」
「うん、東城さんがイルカになったら、すごく人気だろうね」
「えへへー、びゅーんって泳いで、ぴょーんって誰よりも高く飛んじゃうよ!」
擬音が面白いなと思って僕が笑うと、東城さんも笑った。
イルカのショーを楽しんだ後、さらに順路を進むと、レストランが見えたので、僕たちは昼食をいただくことにした。海をイメージしたプレートのご飯だ、かなり凝っているなと思った。
「東城さん、楽しい?」
「うん! お魚さんがとてもキラキラしていて、みんな元気だなーって、見てると楽しい! いいなー私もあんな風にステージで輝けているかなぁ……」
東城さんがちょっと遠くを見て言った。アイドルとして頑張っている東城さんは、ライブのステージ上では『まりりん』としてとても輝いている。あのキラキラ輝いている東城さんを見ると、僕なんかが一緒にいていいのかなとちょっと不安になる。
「……くん、天野くん?」
え? と思って前を見ると、東城さんが覗き込むようにして僕を見ていた。しまった、ボーっとしてしまったのか。
「どうしたの? なんかボーっとしてたけど」
「あ、い、いや、なんでもない……」
「そっか、それにしても天野くん、大事な話があるって言ってたけど、大事な話って?」
東城さんにそう言われて、僕はギクリとした。そう、東城さんには大事な話があると言って今日デートに誘った。大事な話とはもちろん、東城さんに僕の気持ちを伝えることだった。誰よりも東城さんが好き。ずっと想っていたこの気持ちを、伝える時が来たのだ。僕は手に力が入った。
「あ、そ、その……と、東城さん!」
「ん?」
「ぼ、僕……ずっと前から、東城さんのことが好きでした。いや、今も大好きです。と、東城さんはアイドルだし、お付き合いするのは難しいのかもしれないけど、どうしてもこの気持ちを伝えたくて……そ、その……」
続きの言葉が出て来なくなったが、ついに言った。なかなか東城さんの方を見れなかった。おそるおそる顔を上げると、東城さんは顔を真っ赤にして、
「そっか……天野くん、私のこと想ってくれてたんだ……嬉しい、私も天野くんが好きです」
と、恥ずかしそうに言った。ん? 私も天野くんが好き? そ、それって……。
「……あ、そ、そうなんだね、で、でも、やっぱりお付き合いは難しいよね……?」
「ううん、私はたしかにアイドルだけど、一人の女の子なの。メンバーやマネージャーにも言ってみる。私、大切な人がいるって。それでアイドルを辞めることになっても、仕方がないって思う」
「ええ!? い、いや、辞めるのはもったいないよ……」
「ううん、アイドルも大事だけど、私は天野く……蒼汰くんのそばにいたい。蒼汰くんと一緒にいるととても楽しいから」
「そ、そっか……って、あ、あれ!? 今、名前……」
「うん、これから蒼汰くんって呼びたいな、私のことも麻里奈って呼んでくれると嬉しいな」
「あ、な、なるほど……わ、分かりました……ま、麻里奈」
僕がたどたどしく麻里奈と言うと、東城さ……麻里奈は笑った。笑顔がとても可愛かった。
二人で途中だったご飯をいただいた後、また水族館を見て回った。麻里奈が僕の手を握って嬉しそうにしているのが伝わってきて、僕は嬉しかった。
「それにしても、まだまだ日車先輩を超える男になってないのに、告白なんてしてよかったのかな……」
「あはは、蒼汰くんも団吉さんに負けないくらい優しくて、カッコいいよ。でも団吉さんはすごい人だよね」
「うん、僕の憧れなんだ。これから生徒会長になって、日車先輩を超えられるように頑張るよ」
日車先輩、ついに僕は麻里奈に自分の気持ちを伝えることができました。まだまだ未熟者ですが、これからも頑張ります。
そして、麻里奈とずっと一緒にいたいと、思っています。
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