第49話「諦めない」
東城さんと学校で会った日の夜、僕は課題をやるために部屋にこもっていた。
課外授業はあるが、いつものように夏休みの課題も出ている。やはり受験生は勉強する量が今まで以上だなと思った。油断せずに一つずつしっかりと進めていきたいものだ。ん? 夏休みといえば毎年終わりごろに助けてくれと言っていた人がいたが……ま、まぁいいか。
勉強をしていて、ふと今日の昼間のことを思い出していた。天野くんが『大事な話がある』と東城さんに言ったらしい。たぶん大事な話とは告白のことではないかと僕と絵菜は思ったが、東城さんは何のことか気づいていないようだった。
僕は気になってしまって、勉強の手を止めてスマホをとって、RINEを送ってみることにした。もちろん相手は天野くんだ。
『こんばんは、今ちょっといいかな?』
突然すぎるかと思ったが、まぁいいかと思ってそのまま送る。すぐに返事が来た。
『こんばんは! はい、大丈夫です。何かありましたか?』
天野くんの問いに、僕はどう言えばいいのか少し悩んでしまった。東城さんと話したことを言っていいのか、でもそれを話さずに『告白するつもりなの?』とは訊けない。うーんと悩んだが、
『今日、東城さんと学校で会ってね、天野くんにデートに誘われたと言ってたよ』
と、東城さんと話したことを伝えた。隠し事ができない僕らしいなと思う。天野くんからすぐに返事が来た。
『あ、そうなんですね……あの、すみません、ちょっとだけ通話できますか?』
僕もこれ以上はRINEの文章で言えそうになかったので、『うん、いいよ』と送った。一分ほどで天野くんから通話がかかってきた。
「もしもし、こんばんは」
「もしもし、あ、こんばんは、すみません日車先輩、急に通話とか言い出して」
「ううん、大丈夫だよ。天野くんは東城さんをデートに誘ったんだね」
「あ、は、はい……その、どうしても伝えたいことがあって」
「そっか、もしかして、告白するつもりなのかな?」
「ええ!? あ、は、はい……そのつもりです……って、は、恥ずかしいですね」
「そうなんだね、うん、きっと大丈夫だよ。東城さんはアイドルで難しいところもあるかもしれないけど、気持ちは嬉しいと思うよ」
「そうなんですよね……アイドルだから、本当はデートというのもよくないんじゃないかと思うのですが、僕は諦められないので」
天野くんから力強い言葉が出た。そういえば長谷川くんも諦められなかったと言っていたな。僕は嬉しくなった。
「うんうん、諦めないという気持ちはすごく大事だよ。東城さんに伝わるといいね」
「は、はい……でも、僕はまだまだ日車先輩を超える男になってないのに、いいのかなってちょっと不安で……」
「え!? あ、いや、前にも言ったけど、僕よりも天野くんがいいところ、たくさんあるよ。自信を持ってね」
「いえ、日車先輩はまだまだ僕の目標です。東城さんもきっと日車先輩を想っていた時があったと思うのですが、負けたくないなって」
「そ、そうかな、まぁでも、誰を好きになるかは自由だからね、天野くんがしっかりと東城さんに気持ちを伝えることができるよう、お祈りしてるよ」
「ありがとうございます! あ、そういえば先輩方はもうすぐ生徒会が終わりますね、また寂しくなってしまった……」
「あ、そうだね、たしかに終わってしまうのは寂しいけど、天野くんはこれから生徒会を引っ張っていかないといけないからね。そっちも応援してるよ」
「あ、ありがとうございます! あ、お風呂に入れって声が聞こえてしまいました、すみませんこのへんで……」
「ああ、分かった、まずは東城さんとのデート、楽しんできてね」
「は、はい! それではまた、おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
天野くんとの通話を終了した。やはり天野くんは東城さんに告白するつもりだったか。うまくいくといいなと思った。
その時、僕のスマホが鳴った。あれ? と思って見てみると、絵菜からのRINEが来ていた。
『団吉、今何してる?』
『ああ、天野くんと少し話してたよ。そうだ絵菜、今通話できるかな?』
『うん、大丈夫』
絵菜から大丈夫と来たので、僕は絵菜に通話をかけた。
「も、もしもし、お疲れさま」
「もしもし、お疲れさま、絵菜は何をしてたの?」
「あ、課題を少しずつやってた。課外授業もあるのに課題出てるってしんどいな……でも分からないところがあって、団吉にまた訊きたいなって思ってた」
「ああ、なるほど、うん、また一緒に勉強しようか」
「うん。そういえば天野と話したって?」
「あ、うん、どうしても昼間の東城さんの話が気になってね、天野くんはやっぱり東城さんに告白するみたいだよ……って、あれ? これ僕が勝手に話していいのかな……?」
「ふふっ、団吉は優しいな。でもそうか、天野もついにそういう気持ちになったんだな」
「うん、なんか嬉しくなってね。そういえば二人で天野くんの気持ちを聞いたのが懐かしいね」
「うん、天野は私たちのこと色々訊いてたな、最初は団吉も嫌われてたし。今思うとあの頃から、いやそれよりずっと前から東城のこと好きだったんだよな」
以前、天野くんは東城さんが僕の話をするのが面白くないと思っていたことがあった。な、なぜ東城さんは僕の話をするのかよく分からなかったが、好きな人が違う男の子の話をするのだ、たしかに同じ立場になると面白くないと思うだろう。
「そうだね、最初は僕も天野くんに嫌われてたみたいだからなぁ、まぁ、気持ちは分かるというか」
「ふふっ、団吉はやっぱり優しいな。そうか、天野と東城はきっとデートするんだな……いいな、私も団吉とデートしたい……」
ちょっとだけ絵菜の声が小さくなった。恥ずかしいのかな、そんな絵菜が可愛かった。
「あ、そ、そうだね、よかったら夏休みの間にどこか行かない? 今年は課外授業があって休みが短いけど、考えておくよ」
「うん、ありがと。そのためにはこの課題をなんとかしないと……」
「そうだね、僕ももう少し頑張ることにするよ」
絵菜に「おやすみ」と言って通話を終了した。僕は天野くんの告白がうまくいくことを願うとともに、絵菜とどこに行こうかなと、ぼんやりと考えていた。
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