第47話「いいお知らせ」

「んんー、終わったかぁ……」


 一学期の終業式の日、終礼後に僕は思わず声が出てしまった。あれ? なんか独り言を言うのがいつもの流れになって来たな。

 今日も午前中で学校は終わる。クラスではいつものように通知表をもらって一喜一憂するクラスメイトの姿があった。僕はこれまでと同じくいい成績を残していたので、通知表の数字も立派なものだった。通知表を渡すときに大西先生が、「二学期は難しい問題にしてやる」とやる気を出していたがなぜだろうか。


「お疲れさま、終わったね」

「お疲れさまです……! あっという間に一学期が終わりましたね……!」


 隣の席から九十九さんと富岡さんがニコニコしながら話しかけてきた。


「お疲れさま、うん、あっという間だったね。楽しかったよ」

「私もです……! あ、でも今までは夏休みになるとしばらくみなさんと会えませんでしたが、今年は違いますね……」


 富岡さんがちょっと悲しそうな声で言った。そう、明日から夏休みなのだが、三年生はしばらく課外授業がある。いつも通り学校に行かなければならないのだ。まぁこれも大人になるための試練と思うことにしよう。


「ああ、課外授業があるもんね。なんか夏休みって感じじゃないかも」

「う、うん、でも受験生としてはこの時期大事だから、頑張らないと……」

「そうだね、頑張っておかないといけないね」

「さすがお二人はすごいですね……! 私も頑張らないとな……」

「団吉、みんなお疲れさま」

「あら、みんなお疲れさま、一学期も終わったわね」


 ふと声をかけられたので見ると、絵菜と大島さんがやって来た。


「あ、沢井さん、大島さん、お疲れさま」

「沢井さん、大島さん、お疲れさまです……!」

「あ、お疲れさま、うん、終わったね」

「……くっ、大島と同じタイミングで話しかけてしまった……」

「さ、沢井さん? 聞こえてるわよ。まぁ今年は課外授業があるからね、みんなともまた会えるわね。沢井さんも勉強で分からないことがあったら教えてあげてもいいわよ」

「……団吉に訊くから、いい」

「わ、わーっ、二人ともそのへんで……あはは。あ、そうだ、夏休み後半には模試もあったよね」

「そうね、模試といえば私と日車くんよ! 絶対に負けないからね! あ、九十九さんにも勝ちたいわ」

「ええ!? あ、う、うん、争うつもりはないけど、一位になれるといいな……」

「も、模試といえば私と日車くんっていうのがよく分からないけど……うん、僕も負けないよ」

「そうこなくっちゃね。二人に勝ったらこの学校はもう私のものよ……ふふふふふ」

「す、すごいです……! 九十九さんもライバルなのですね……! 勝った人が学校を支配するのですね……!」

「……富岡、大島が勝つことはないから、大丈夫」

「さ、沢井さん!? くっ、負けるわけにはいかないわ……!」


 なぜか今からやる気を出す大島さんだった。う、うーん、普通に模試を受けるだけではダメなのだろうか……。



 * * *



「おーっす、お疲れー」

「やっほー、お疲れさまー」


 絵菜と一緒に帰ろうと二人で廊下に出ると、なぜか火野と高梨さんがいた。


「お、お疲れさま」

「あ、お疲れさま、あれ? 二人ともどうしたの?」

「ああ、俺らももう部活がねぇから、たまには一緒に帰らないかなと思ってな」

「そーそー、たまにはいいかなーと思ってねー」

「そっかそっか、じゃあ一緒に帰ろう。駅前まで行こうか」


 高梨さんが電車で来ているので、僕たちは駅前に向かうことにした。


「なんかこうやって一緒に帰ってるとさー、一年生の時を思い出さない? 最初の頃は私も陽くんも部活がなくて、一緒に帰ってたよねぇ」

「ああ、そうだな、なんか懐かしいな、俺らも団吉たちも、まだ付き合ってなかったよなぁ」

「そうだね、火野が告白したのは夏休みだったし、僕が告白したのは二学期だったし……まぁ、あの頃も楽しかったね」

「う、うん、なんとか団吉と一緒にいようと必死だった……」

「あはは、絵菜ったら可愛いんだからー。でもそうだねぇ、あの頃も楽しかったよねー。日車くんがバイト頑張る姿を見に行ったりしてさー」

「おう、そうだったな、団吉は今年もバイトがあるのか?」

「あ、うん、でも課外授業があるから、去年までとは違うというか。たくさんは入れない気がするよ」

「うっ、日車くんそれは言わないで~。月曜日から課外授業なんてひどいよねぇ……」

「そうだった、夏休みなのに課外授業なんてマジかよ……さらに課題も出たし、どんだけ勉強しないといけねぇんだ……」


 火野と高梨さんが同じように「はあぁ」と大きなため息をついた。


「ま、まあまあ、大人になるためには仕方ないんだよ……あ、そういえばみんなにちょっといいお知らせがあるんだった」

「ん? いいお知らせ?」

「うん、実はうちの母さんがなぜかたこ焼き器を買ってきてね、うちはホットプレートにたこ焼きができるものがついているのに、どうやら忘れてたみたいで……それで、みんなでうちでたこ焼きパーティなんてどうかなって思って。二つあるからたくさんできそうだなって」

「おおー! たこ焼きパーティかぁ、いいねぇ、楽しそう!」

「ああ、いいな! また団吉の家でお世話になっちまうな、ジュースとか持って行くぜー」

「いえいえ、たまにはいいんじゃないかって思って。絵菜も来れる? あ、よかったら真菜ちゃんも一緒に」

「うん、楽しみにしてる。そういえばたこ焼きパーティって、前に団吉と話してたな」

「そうそう、それも思い出してね。日向も母さんもいるし、長谷川くんも呼ぼうかなって思ってるよ」

「楽しそうだな! いつやるか決まっているのか?」

「あ、来週の土曜日とかどうだろう? 母さんも休みみたいだから」

「おう、俺は大丈夫だぜ」

「うん、私も大丈夫だよー」

「うん、私と真菜もたぶん大丈夫」

「そっかそっか、よかった。じゃあその日は夕方にうちに集合だね」


 四人で話しながら帰った。たしかに一年生の時を思い出すな。でもこうして一緒に帰ったりするのもあと一年もないのだ。少し寂しくなったが、僕は今を楽しもうと思った。

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