第46話「演説」

 立会演説会の日になった。

 体育館に全校生徒が集まる。僕たち現生徒会役員と、次期役員候補のメンバーはみんなの前に座っていた。そうだ、去年もこんな感じだった。ドキドキしながら演説したのを思い出す。

 次期役員候補の四人を見ると、みんな緊張しているような感じがした。そうだよな、天野くん以外はこんな大勢の場で話すのは初めてだ。緊張するのが当たり前だろう。


「――それでは、立会演説会を始めます。まず最初に、生徒会長の九十九さんからご挨拶があります」

「はい」


 僕の言葉に、九十九さんが返事をしてみんなの前で話し始める。九十九さんはいつも通りしっかり話すことが出来ていて、横顔も美人……って、ぼ、僕は何を考えているのだろう。

 九十九さんの挨拶が終わった。続けて僕が話す。


「――ありがとうございました。それでは候補者四名の演説です。生徒会長候補、天野蒼汰さん、お願いします」

「はい」


 天野くんが話す。天野くんは去年経験していることもあって、しっかりと話せている。うん、天野くんなら立派にみんなをまとめて引っ張っていくことができるだろう。


「――ありがとうございました。次に副会長候補、橋爪葵さん、お願いします」

「は、はい!」


 少し声が大きくなった橋爪さんが話す。橋爪さんも文章はしっかりしていたし、話す方もちゃんとできている。途中何度か噛みそうになっていたが大丈夫だった。橋爪さんは僕の仕事をやってもらうのだ、頑張ってほしい。


「――ありがとうございました。次に書記候補、潮見梨夏さん、お願いします」

「は、は、はい!」


 いきなりガチガチだった梨夏ちゃんが話す。一番心配だったが、ちゃんと文章も覚えてきたようだ。敬語もあらかじめ用意されていれば問題ないようだ。自分を変えたいと言っていたが、生徒会で多くのことを学んでほしい。


「――ありがとうございました。次に会計候補、黒岩祥吾さん、お願いします」

「……は、はい」


 返事の声は少し小さかったが、黒岩くんがゆっくりと話す。語尾の『ス』は封印して、しっかりと話すことができている。大島さんもほっとしているようだ。この中では一番おとなしい感じがするが、自分のペースで頑張ってほしい。


「――ありがとうございました。これで候補者四名の演説は終了です。生徒のみなさまにはこの後信任・不信任投票をお願いしたいと思います。よろしくお願い致します」


 この後僕が最後の挨拶を行って、立会演説会は終了した。四人を見ると、みんなほっとした表情だった。よく頑張ったと思う。



 * * *



「みんなお疲れさま、よく頑張ったね」


 その日の放課後、生徒会室にみんなで集まった。九十九さんが声をかけると、みんな嬉しそうな表情をした。


「それで、信任・不信任投票の結果が出たから発表するね。それでは結果は――」


 四人がゴクリと唾を飲み込んで、九十九さんの次の言葉を待つ。


「――おめでとう、みんな信任の票が多かったよ。これで生徒会役員になれたね」


 九十九さんがパチパチパチと拍手をする。僕たちも拍手をした。よかった、四人とも生徒会役員になれたのだ。みんなさらに嬉しそうな表情になった。


「おめでとう、よかったわね、私も嬉しいわ」

「うん、みんなおめでとう、みんなの熱意がちゃんと伝わったね」

「つ、九十九先輩、日車先輩、大島先輩、ありがとうございます! よかった……去年もそうだったけど、僕だけ落ちたらどうしようってドキドキでした……」

「先輩方、ありがとうございます! よかったー、私だけ落ちたんじゃないかと思ったー! この四人と生徒会役員のシンクロ率は三百八十六パーセントですね!」

「……よ、よかったっス、自分だけダメだったらどうしようと思ってたっス……先輩方、ありがとうございます」

「やったー! れいれい、だんちゃん、さとっこ、ありがとー! えへへー私頑張ったでしょー!」

「うんうん、みんな頑張ったよ。まぁ、これから大変なこともあるかもしれないけど、みんななら大丈夫だよ。お互いを支え合って頑張ってね」


 僕の言葉に、四人が「はい!」と元気よく答えた。


「うん、日車くんの言う通り、一応それぞれ仕事はあるんだけど、他の人のサポートも忘れずにね。一人で抱え込まず、みんなで力を合わせて運営していってね」


 九十九さんの言葉にも、四人が「はい!」と元気よく答えた。そうだ、去年同じようなことを慶太先輩が僕たちに言ってくれたのだ。


「……まぁ、私も日車くんも大島さんも、もうしばらくここに来るので、分からないことがあったら何でも訊いてね。よし、堅苦しい話はここまでにしよっか」

「日車先輩! どうでしたか私の晴れ舞台での立ち振る舞い! よくできたと思うんですが!」

「うん、橋爪さん立派だったよ、って、ち、近――」

「うふふー日車先輩も司会進行完璧でした! カッコいいなー」

「ねえねえ、だんちゃん、私は!? 私は!?」

「あ、うん、梨夏ちゃんもちゃんと敬語使えてて立派だったよ、って、ち、近――」

「えへへーだんちゃんに褒められちゃった! これからも頑張ろーっと!」

「ちょ、ちょっと、二人とも日車くんにくっつきすぎじゃないかしら、私に感想を訊きなさいよ」

「あ、大島先輩はいいっス、日車先輩の方が立派だと思うっス」

「あーさとっこはいいっスー、だんちゃんの方が可愛いっスー」

「だ、だからなんで黒岩くんの真似するのよ……くっ、やっぱりバカにされてる気分だわ……!」

「ま、まあまあ、三人ともそのへんでやめておこう……」


 お、大島さんがライバルって言っている人が増えたのだろうか。


「……天野先輩、大変だとは思うっスが、よろしくお願いします」

「はっ!? そ、そうだ、僕も先輩なんだ……うん、みんなで一緒に頑張ろうね」


 天野くんがぐっと拳を握った。うん、大変かもしれないけど、頑張ってほしい。

 それにしても、次の生徒会役員が決まったということは、僕と九十九さんと大島さんはもうすぐ終わりなのだ。ちょっと寂しい気持ちになったが、仕方ない。僕たち三人は笑顔で四人を見つめていた。

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