第44話「アドバイス」
「――うん、橋爪さんも梨夏ちゃんも、けっこう書けてるね。ああ橋爪さん、ここはもう少しこうした方が……」
週が変わって月曜日、僕たち生徒会役員と次期役員候補のみんなは、また生徒会室に集まっていた。先週話していた通り、立会演説会で話す内容を書いてきてもらったのだ。
僕が橋爪さんと梨夏ちゃん、九十九さんが天野くん、大島さんが黒岩くんの文章をそれぞれ読んで、アドバイスをしていた。あれ? なんで僕は二人なのだろう。ま、まぁ、人数的にも仕方ないところはあるか。
「な、なるほど! 日車先輩さすがです! なんというか、文章が大人っぽくなったというか……そう、日車先輩と文章添削の相性度は百五十パーセントですね!」
「あ、相性度……? そ、そんなものがあるの?」
「はい! 私、実はなんでも数値化するのが大好きで! 数学も大好きです!」
「あ、そうなんだね、僕と一緒だ、僕も数学好きだよ」
「ええ!? 日車先輩も!? こ、これは日車先輩と数学のマッチング率は百七十三パーセント……いや、もっとあるかも!」
「そ、そっか、でも、数学楽しいよね、苦手にしている人が多いから、橋爪さんが数学好きだと聞いて嬉しくなったよ」
「はい、楽しいです! 日車先輩は数学何点くらいなのですか?」
「あ、この前のテストは百点だったよ」
「ひゃ、百点!! ひゃー、マッチング率が三百五十四パーセントまで上がったぁ! すごいですね!」
「そ、そうかな、なんかだんだんと恥ずかしくなってきた……」
橋爪さんがキラキラした目で僕を見て来る。うう、は、恥ずかしい……。
「ねえねえだんちゃん、私の文章はどう? どう?」
「あ、梨夏ちゃんも書けてるね、ちゃんと敬語も書けてるから、あとはこれを話すだけだよ。そうだ、ここの表現はもう少しこうした方が……」
「ああ、なるほど! さすがだんちゃん! えへへー私も頑張ったでしょー」
「うんうん、頑張ってるね、何か参考にしたの?」
「うん! この『これであなたもモテモテ! 明日から使える正しい敬語』っていうサイトを見たんだー。すっごい勉強になった!」
梨夏ちゃんがドヤ顔でスマホの画面を見せてきた。
「そ、そっか、なんかタイトルがすごい不安になるけど、ま、まぁいいか。ちゃんと勉強してるところが偉いよ」
「えへへーだんちゃんに褒められちゃった! でもこれを話さないといけないんだよね、そ、そっちは大丈夫かな……」
「そ、そうだ、私もこれをみんなの前で話さないといけないんですよね……すごく緊張します……」
「まぁ、文章はある程度覚えた方が印象は良いけど、手元に持っておけるから分からなくなったら見るといいよ。あまり緊張しすぎないようにね」
「は、はい! 頑張ります!」
「うん! 私も頑張る!」
橋爪さんが「やるぞー!」と言うと、梨夏ちゃんが「おー!」と言っていた。女の子同士気が合うところがあるのかもしれない。
「日車くんの方も、一通り終わった?」
天野くんの文章を見ていた九十九さんが笑顔で話しかけてきた。
「うん、二人ともよくできてたよ。天野くんはどうだった?」
「天野くんは去年経験してるからかな、よくできた文章だったよ」
「い、いや、そんなことないですよ、九十九先輩のアドバイスでよくなったという感じで……」
「ううん、私はちょっとしかアドバイスしてないよ。これで頑張ってね」
「は、はい! 頑張ります!」
天野くんがぐっと拳を握った。
「そっかそっか、天野くんはさすがだね……って、あれ? 大島さんと黒岩くんがずっと話してるけど……」
ふと大島さんと黒岩くんを見ると、何かブツブツと二人で話し込んでいる。
「お、大島さんたちは、どう? できてる?」
「ああ、黒岩くんもわりとできてるんだけど、語尾が全部『ス』で終わってたから、それをなんとか直しているところよ」
「……自分、これだけは譲れないっス。自分のポリシーというか」
「ダメよ、ポリシーは分かったけど、みんなの前で話す時は封印しなさい。これは先輩命令よ!」
「……うう、大島先輩厳しいっス、分かったっス……」
「大丈夫かしら、みんなの前でスッススッス言ってたらどうしよう……」
「ま、まあまあ、黒岩くんも書いた文章通り読むだけだから、大丈夫だよね」
「が、頑張るっス……」
「あ、しょーりんも見る? 敬語の使い方のサイト! めっちゃ勉強になるよー!」
「潮見さんは自分よりももっと勉強した方がいいっス……」
「なにー!? しょーりんまた生意気なこと言ってるー! こいつめー!」
梨夏ちゃんがポカポカと黒岩くんを叩いている。でも黒岩くんは体が大きいからか痛そうには見えない。なんだろう、いつもの光景なのだろうか。
「ま、まぁ、語尾は気になったけど、文章自体はそれほど悪くないわね。あ、みんな終わったのかしら?」
「うん、こんな感じかな、橋爪さんも梨夏ちゃんも天野くんも、ちゃんとできてたみたいで」
「そうなのね、そういえばさっき橋爪さんが数学好きだって聞こえてきたわね、私も一緒よ」
「あ、大島先輩はいいっス、日車先輩の方がシンクロ率高そうっス」
「な、なんで黒岩くんの口癖真似するのよ、くっ、なんかバカにされている気分だわ……!」
「ま、まあまあ、二人ともそのへんで……あれ? なんかこうしてなだめてると、絵菜と大島さんを思い出すな……」
「……よし、これで一応できたね。それではこの前もお話した通り、今度立会演説会があります。本番まで一週間くらいあるので、それまでにみなさん文章は覚えておきましょう。なるべく手元を見ないで話した方が印象がいいので。分からないことがあったら何でも私か日車くんか大島さんに訊いてください。みなさんをサポートします」
九十九さんが真面目な顔で話すと、みんな「はい!」と元気よく返事をした。さすが九十九さん、生徒会長らしくしっかりしているなと思った。
「日車くん、大島さんごめん、みんなをサポートしてくれる?」
「うん、もちろん。みんな分からないことがあったら何でも訊いてね」
「ええ、もちろんよ。私も精一杯サポートするわ」
「先輩方、ありがとうございます! あ、最後にアレやっておきませんか?」
天野くんがそう言って右手を出してきたので、僕たちはみんなで右手を出してグータッチをした。よし、みんなが一つになれた気がする。四人がリラックスして話せるといいなと思った。
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