第43話「日本へ」
日曜日、僕と絵菜は駅前へ相原くんを迎えに行っていた。
なぜかというと、今日は絵菜と相原くんをうちに呼んで、ジェシカさんとまたビデオ通話をしようと思ったからだ。ジェシカさんは去年の修学旅行で僕と相原くんがお世話になった人だ。昨日ジェシカさんにそのことをメールすると、『うん、分かった! 楽しみにしてるね!』と返事が来た。
「わ、私、英語あまりできないけど、大丈夫かな……」
「大丈夫だよ、スマホで調べられるし、聞き取れなかったら僕が教えるよ」
「そ、そっか、なんとか頑張ってみる……」
そう言って絵菜がきゅっと僕の手を握った。それはいいのだが、これ相原くんと会うまで離してもらえないのだろうか……ちょっと恥ずかしかった。
駅前に着くと、相原くんが来ていたようで僕たちを見つけて駆け寄ってきた。
「……二人ともお疲れ……って、ほんとに二人は仲が良いよね」
「お、お疲れさま」
「え、あ、その、いつも通りというか、なんというか……あはは」
「……好きな人が近くにいるっていいな。でも、俺もジェシカさんを想う気持ちは大きいからね」
そう、相原くんはジェシカさんに恋をしていた。以前相原くんが告白すると、ジェシカさんも相原くんのことが好きだと言ってくれた。日本とオーストラリアと、遠く離れてはいるが、好きなのに距離なんて関係ないのだ。
「うん、相原くんが本気なのはよく分かってるよ。じゃあ行こうか」
三人で僕の家へと歩いて行く。今日も猛暑日だろうか、汗をかいてシャツが濡れていた。
暑い中歩いて、僕の家に着いた。今日は日向は部活でいない。家に上がると母さんがニコニコしてやって来た。
「あらあら、いらっしゃい」
「こ、こんにちは、おじゃまします」
「……は、はじめまして、相原といいます……」
「はじめまして、団吉の母です。相原くんね、団吉から聞いてるわ。なんでも火野くんと同じくらい足が速いとか」
「……あ、ま、まぁ、それなり……かも」
「ふふふ、運動ができる男の子ってカッコいいわね、ジュース持ってくるわね」
母さんが褒めると、相原くんは恥ずかしそうにしていた。
僕は部屋に行って、パソコンを持ってリビングへと戻った。パソコンを立ち上げてメールを確認して、通話アプリを立ち上げた。準備できたことをジェシカさんに知らせようと思ってメールを送ると、五分くらい経って通話アプリでジェシカさんがオンラインになった。そちらで話しかける。
『こんにちは、準備できました』
『ハロー、私も大丈夫だよー』
よ、よし……と思って、絵菜と相原くんを見た後、通話ボタンを押すと、すぐに映像と音声がつながった。画面にジェシカさんが映っている。
『ハーイ、ダンキチ、シュン、久しぶり!』
『あ、こんにちは、お久しぶりです』
『……こ、こんにちは、お久しぶりです』
『あ! エナが映ってる! ハロー、はじめまして、ジェシカといいます!』
「あ、わ、私か、こ、こんにち……」
「絵菜、英語、英語……!」
『あ、こ、こんにちは、はじめまして、わ、私は沢井絵菜といいます……』
絵菜が恥ずかしそうに英語で話した。
『ふふふ、エナ、発音バッチリだよ! そっかーエナ可愛いねー、やっぱり妹にしたいなー』
「だ、団吉、今何て言ってたの……?」
「ああ、発音バッチリだって。あと可愛いね、妹にしたいって言ってたよ。そういえば日向も言われてたなぁ」
僕が説明すると、絵菜は「そ、そっか……」とさらに恥ずかしそうにしていた。
『ふふふ、顔見るのはほんとに久しぶりだね、元気にしてた?』
『あ、はい、元気にしてます』
『……俺も元気です』
『そっかそっかー、よかったよー。あ、そうそう、前に話してたんだけど、私八月に日本に行けることになったよー! すごく楽しみ!』
ジェシカさんがキャーキャー言っている。そうか、ついにジェシカさんが日本に来るのか。
「……日車くんごめん、今ジェシカさん何て言ったの? ジャパンって聞こえたけど……」
「ああ、八月に日本に行けることになったらしいよ」
相原くんが「……ええ!? そ、そっか……」と、少し驚いていた。
『そうなんですね、僕たちも会えるのがすごく楽しみです』
『うんうん! でもねー、泊まるホテルがなかなか決まらなくてねー、ここだけの話、旅費がけっこうきついからねー』
『あ、そうですよね、飛行機代だけでも高そうですね……うーん……』
たしかに、何泊かするならホテル代もけっこうするだろう。何かいい案はないかなと思っていたその時、ひとつひらめいた。
『……そうだ、僕の家に泊まるというのはどうでしょう? ま、まぁ、ここにいる母に訊いてみないといけませんが』
『え!? ダンキチの家!? いいの?』
『はい、ちょっと訊いてみますね』
僕は母さんを呼んで、事情を説明した。
「あらあら、話してたジェシカさんが来るの? そうねぇ、団吉と日向がちゃんとおもてなしするならうちでもいいわよ」
「うん、僕たちがちゃんとするから」
「分かったわ、うちにおいでって伝えて。そっかー海外からのお客様かー、ふふふ、何の料理作ろうかしら」
「ありがとう、ジェシカさんに伝えるよ」
「……ひ、日車くんごめん、うちに呼びたいけど、さすがに無理そうで……」
「ううん、大丈夫だよ、あ、ジェシカさんに伝えなきゃ」
母さんと話したことをジェシカさんに伝えると、『ほんとー!? ありがとう! ふふふ、ますます楽しみになってきたー!』と言っていた。
『あ、八月の何日に来れるか決まってますか?』
『うん、予定では八月六日の夜に日本に着くかなー。それから四日くらいいようかなって!』
なるほど、三年生は夏休みも課外授業があるが、たしか八月七日からしばらく休みだったはずだ。ちょうどいいなと思った。
「だ、団吉、どうなったの……?」
「ああ、八月六日に日本に来るみたい。国際空港がちょっと遠いけど、迎えに行こうかな」
「……あ、お、俺も行くよ」
「わ、私も行ってみたい」
「うん、まぁ夕方から夜になるだろうから、親にはちゃんと言っておかないといけないね」
それからしばらく四人で話していた。絵菜と相原くんもスマホで一生懸命単語を調べて、なんとか話すことができていた。ジェシカさんも嬉しそうだ。
それにしても、八月か。夏休みの楽しみが増えた僕たちだった。
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