第42話「はじめまして」

 梨夏ちゃんが生徒会役員になりたいと言ってきた次の日、僕たち生徒会メンバーはまた生徒会室に集まっていた。

 今日は次期役員候補の四人が集まることになっている。僕たちはちょっとドキドキしながら待っていた。

 ……まぁ、四人が集まると言ったが、実は一人だけもうこの場にいる。それは――


『九十九先輩、日車先輩、大島先輩、僕、生徒会長になります。九十九先輩のようにできるか分からないけど、精一杯頑張ります』


 そう、昨日の夜、天野くんからグループRINEにこんなメッセージが届いたのだ。天野くんが生徒会長を引き受けてくれた。僕は嬉しくなって、


『僕も嬉しいよ、天野くんなら絶対大丈夫だよ』


 と、送った。うん、天野くんなら九十九さんと同じようにしっかりと生徒会長を務めることができるだろう。


「な、なんか、待つのもドキドキしますね……」


 その天野くんがぽつりとつぶやいた。たしかに、他の三人を待つというのもなんだかドキドキする。


「そ、そうだね、そろそろ来ると思うんだけど……」


 コンコン。


 僕がそう言った時、生徒会室の扉がノックされる音が聞こえた。九十九さんが「はい、どうぞ」と言うと、扉が開いて三人が入って来た。


「し、失礼します!」

「……失礼します」

「し、し、失礼しまます」


 挨拶をして三人が立っていた。みんな少し緊張しているような顔をしている。


「あ、ど、どうぞ、入ってそちらに座ってください」


 九十九さんがそう言うと、三人はどこかぎこちなく椅子に座った。緊張しているのは僕たちも一緒で、生徒会室がシーンとなってしまった。


「……あ、そ、そしたら、次期役員候補の四人に挨拶をしてもらわないかしら。こ、ここは慣れている天野くんからということで……」


 大島さんの提案で、みんなに自己紹介をしてもらうことになった。


「あ、そ、そうですね、じゃあ僕から……二年二組の天野蒼汰といいます。今は会計をしていて、次期生徒会長をさせていただきたいと思っています。頑張りたいと思っていますので、みなさんどうぞよろしくお願いします」


 天野くんがペコリとお辞儀をした。


「あ、じゃあ、そちらの方から順に、自己紹介をお願いします」


 九十九さんが左端に座っている女の子に向かって言うと、「あ、私か、はい!」と女の子は元気よく立ち上がった。


「は、はじめまして! 二年五組の橋爪葵はしづめあおいといいます。その、実は副会長の日車先輩に憧れて、私も副会長をさせていただきたいなと思って……あ、言っちゃった」


 女の子、橋爪さんは顔を赤くしてあわあわと慌てている。そうか日車先輩に憧れたか……って、ええ!? ぼ、僕!?


「え!? ぼ、僕!?」

「はい! いつもみんなの前でしっかりと司会進行をしている姿がまぶしくて、あんな風になりたいなって……そう、日車先輩と副会長のシンクロ率は百二十五パーセントなので!」


 橋爪さんはキラキラした笑顔で僕を見る。し、シンクロ率? 何だかよく分からないが、まぁいいか。橋爪さんは背が小さく、ショートカットで目がくるりとしていて、可愛らしい感じがした。雰囲気は日向に似ているかもしれない。


「そ、そっか、ありがとう……ん? ありがとうって言うのも変なのかな、まぁいいや。で、ではお隣の方、お願いします」

「……あ、自分か、はい。自分、一年三組の黒岩祥吾くろいわしょうごというっス……会計をやらせていただきたいっス……自分のクラスに日車日向さんという人がいて、もしかしてと思っているんスが……」


 男の子、黒岩くんがゆっくりと話した。あ、一年三組か、日向たちと同じクラスなのか。黒岩くんは体が大きく、背は火野や中川くんと同じくらいあるだろうか。威圧感はあるが、悪い人ではないと思いたい。


「あ、なるほど、日向たちと同じクラスか、うん、日車日向は僕の妹だよ」

「そうっスか……たしかに似てるかもしれないっスね……」

「そ、そうかな、恥ずかしいな……ま、まぁいいや。で、では最後、梨夏ちゃんお願いします」

「あ、はい! み、みなさんこんちわ、一年三組の潮見梨夏という……いいます。書記をやらせてもら……いたいです。だんちゃん……じゃなかった、日車先輩とは仲良くさせていただき……いただいてて、よ、よろしくお願いします!」


 梨夏ちゃんが頑張って敬語で話した。うん、少しずつ練習していけばいいだろう。


「梨夏ちゃん、頑張ったね。少しずつ慣れていけばいいからね」

「うん! あ、はい! でも日車先輩って言いづらいな……やっぱりだんちゃんって呼んでいい?」

「え、あ、まぁ、それは自由に呼んでくれてかまわないよ」

「ありがと! えへへーやっぱりだんちゃんがいいなー!」

「潮見さんはもうちょっと先輩を敬うべきだと思うっス……」

「あーっ! しょーりん、生意気なこと言ってるー! こいつめー!」


 梨夏ちゃんがポカポカと黒岩くんを叩いている。なるほど、黒岩くんとも同じクラスだし、しょーりんと呼んでいるのか。


「お、終わったね、なんか、みんな個性的というか、なんというか……まぁいいか。それで、みなさんには今度立会演説会に出てもらいます。自分の意気込みを話す感じで、話す内容は事前に私たち現生徒会役員が確認しますので、安心してください。期限は……急がせて申し訳ありませんが、土日に書いてもらって、月曜日に見せてもらえますか? またこのメンバーで集まりましょう」


 九十九さんがしっかりと話すと、みんなが「はい!」と元気よく返事をした。


「ふふふ、この感じ、去年を思い出すわね。そうだ、この後みんなで話していかないかしら。はじめましての人も多いだろうし、仲良くなっておかないとね」


 大島さんの言葉にも、みんなが「はい!」と返事をした。

 橋爪さんは本当に僕のことを尊敬しているのか、キラキラした目で僕に色々訊いてきた。な、なんか距離が近い気がしたが、気のせいだろう。

 黒岩くんはゆっくりとした話し方だったが、敬語もできるし丁寧だった。優しい性格なのかもしれない。

 梨夏ちゃんは、「蒼汰さんと葵さんかぁー、そうだな、蒼汰さんは『そーとん』、葵さんは『あおっぴ』で!」と、またあだ名を決めていた。天野くんと橋爪さんがポカンとした顔をしていたが、ちゃんと説明してあげた。

 そして、生徒会長候補の天野くん。これからは天野くんがみんなを引っ張っていく存在になるのだ。僕が「頑張ってね」と声をかけると、天野くんは「は、はい、頑張ります!」と言ってくれた。うん、みんなならきっと大丈夫だ。

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