第41話「役員候補」
ある日、午前中の授業が終わって、僕と絵菜は一緒に学食へ向かっていた。
あれから生徒用ホームページに『生徒会役員になりませんか?』という案内を出していたのだが、なんと二年生で一人、一年生で一人立候補をしてくれた人がいた。まだどの役員になるかは決まっていないが、僕たち現生徒会役員は嬉しかった。
でも、天野くんが生徒会長をやってくれるとしても、あと一人いるんだよな……と、ぼんやりと考えていた。
「……団吉? どうかした?」
「あ、ご、ごめん、次期生徒会役員についてちょっと考えていてね、あと一人いるんだけど、決まらなくて」
「そっか、団吉も大変だな。あ、今日は一緒に帰れる?」
「うん、今日は何もないから大丈夫だよ、一緒に帰ろうか」
「うん」
絵菜が嬉しそうに頷いた。一緒に帰るのが好きなんだな、まぁ僕も嬉しいんだけど。
二人で話しながら学食へ行くと、奥に火野と高梨さんがいた。
「おーっす、お疲れー」
「やっほー、お疲れさまー」
「お疲れさま、あれ、今日は火野が弁当じゃないのか」
「ああ、母さんがご飯炊くの忘れてしまってな、まぁ全然かまわねぇんだが」
「そっか、カツ丼か、カツ丼も人気だよね」
「ああ、うまいんだよな学食のカツ丼。ついつい食べたくなるというか」
「あーいいねぇ、私も食べたくなったなぁ」
「あ、私も今度食べたい……」
「あはは、二人とも今度食べてみてくれ。マジでうまいから」
「――あ、お兄ちゃん!」
急に声がしたので見ると、日向と真菜ちゃんと長谷川くんと梨夏ちゃんがいた。
「あ、日向ちゃんたちだ、おーっす、お疲れー」
「みなさんお疲れさまです! ねぇお兄ちゃん、私たちもここで食べていい?」
「あ、うん、いいよ、そっちに座って」
「やったーありがとう! みんな座ろー」
「まあまあ、みなさんお疲れさまです。私もご一緒させていただきますね」
「み、みなさんお疲れさまです! すみません、僕も一緒に……」
「やっほー、お疲れさまー、ふふふふふ、みんな今日も可愛いねぇ、お姉さんみんなまとめてぺろりと食べちゃいたいよ」
「ふええ!? あ、お兄ちゃん、実は梨夏ちゃんがお兄ちゃんに話したいことがあるって」
日向がそう言うと、梨夏ちゃんがぐいっと身を乗り出した。
「こんちわ! そーなんですよ、ちょっとだんちゃんにお話がございまして……あれ? ちょっといい感じ?」
「あはは、梨夏ちゃん敬語うまくなってきたかな? 大丈夫だよ」
「ありがと! でもその前に……イケメンと美人がいるねぇ、ねえねえ、二人は下の名前なんていうの?」
「え? あ、俺か、俺は陽一郎だけど……」
「ん? 私は優子だけど……」
「ふむふむ、陽一郎さんと優子さんか……そうだな、陽一郎さんは『よーすけ』で、優子さんは『ゆんゆん』で!」
「よ、よーすけ……?」
「ゆ、ゆんゆん……?」
「あ、ご、ごめん、梨夏ちゃんはあだ名で呼ぶのが好きみたいで……」
「そ、そうか、なるほどあだ名か、最近あだ名で呼ばれることもなくなっちまったなぁ」
「たしかにー、昔はあったような気がするねぇ。それにしてもあなたが梨夏ちゃんか……二つ結びで可愛い、美味しそう……じゅるり」
「た、高梨さん心の声が……り、梨夏ちゃん、話って?」
「ああ、そーそー、実は――」
梨夏ちゃんが姿勢を正したと思ったら、
「――私、生徒会に入りたいなーと思いましてございます……あれ? 今度は変だな?」
と、言った。
「ああ、なるほど生徒会に……って、ええ!? せ、生徒会に、梨夏ちゃんが!?」
「そーそー、私もまりりんに言われて気がついたんだけどね、敬語が苦手なままだとダメだし、なんかちゃんとしたところに入れば自分自身も変わるんじゃないかなーって」
「な、なるほど……」
たしかに、梨夏ちゃんの気持ちがよく分かった。僕も何事も逃げてばかりではダメだと思い、生徒会に入ったら変われるのではないかと思っていたところがある。
「梨夏ちゃん、本気なんだ。お兄ちゃん、梨夏ちゃん入れるかな?」
「あ、う、うん、ちょうどあと一人役員候補がほしかったところだから、大丈夫だと思う。他のメンバーには僕から伝えておくよ」
「やったー! 梨夏ちゃん、よかったね!」
「まあまあ! 梨夏ちゃん、自分を変えたいってすごいね!」
「だんちゃんありがとー! えへへ、ひなっちとまなっぺとけんけんが背中押してくれたおかげだよー!」
梨夏ちゃんがぐいっと胸を張った。
「お兄さん、役員って四つあると思うのですが、どれが空いているのでしょうか?」
「あ、今生徒会長は候補がいてね、あとは副会長と書記と会計なんだけど、そっちは決まってないんだ。梨夏ちゃん、どれがいいとかある?」
「んー、そうだなぁ、書記がいいかなぁ、書いたりするのけっこう好きだし!」
「なるほど、分かった。じゃあ梨夏ちゃんは書記候補だね。去年もそうだったんだけど、このままいけば候補者が一人ずつで立会演説会と、信任・不信任投票があるから、一応頭に入れておいて」
「うん、分かったー……って、立会演説会って、みんなの前で話すのかな? やばいな、ちゃんとしないと……」
「まぁ、話す内容は事前に書いておくし、僕や他のメンバーも確認するから大丈夫だよ。あまり緊張しすぎないようにね」
「うう、分かった……いきなり試練だな、でもだんちゃんがいれば何とかなりそうな気がする!」
梨夏ちゃんがニコッと笑った。高梨さんじゃないけど、たしかに可愛らしいなと思った。
「団吉は、だんちゃんって呼ばれてるんだな、あはは、なんか可愛らしいな」
「うっ、ひ、火野、笑わないでくれ……!」
「わりぃ団吉、バカにしてるわけじゃないからさ。そうか、もう立会演説会の季節か、去年を思い出すぜ」
「そだねー、去年は日車くんもしっかりと話していたよねぇ、すごかったよー」
「まあまあ、そういえばお兄様が話すの事前に聞かせてもらいましたね。お兄様ならみんなを黙らせることができそうです」
「お兄さん、すごいです! 実質この学校の支配者ですね……!」
「え!? い、いや、そんな権限はないと思うけどね……」
僕が慌てていると、みんな笑った。そ、そんなすごい人でもないけどね……。
まぁ、これで役員候補の四人が揃う……あ、天野くんがまだどうするか分からないのだった。また天野くんに訊いてみないといけないなと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます