第40話「生徒会長」
七月、天気がよく、暑い日も増えて毎日のように汗をかいていた。
今日は授業が終わってから、生徒会の仕事があるため残ることにしていた。絵菜は寂しそうにしていたが、「あとでRINEする」と言って帰って行った。
絵菜を見送って、僕と大島さんと九十九さんは、一緒に生徒会室へ向かう。
「毎日暑いわね、今年も猛暑日が多くなるのかしら」
「うーん、去年も暑かったからね、もしかしたら同じような感じなのかも」
「しんどいね……私、暑いの苦手だから夏は本当にきつくて……」
「ああ、九十九さんそうなんだね、登下校がしんどいよね……学校はエアコンがあるからなんとか涼しいけど」
そんなことを話しながら生徒会室に入ると、天野くんが先に来ていた。
「あ、先輩方お疲れさまです」
「あら、もう来てたのね、お疲れさま」
「あ、天野くん、お疲れさま」
「お疲れさま、天野くん早いね」
「いえ、僕もついさっき来たばかりで」
「そっかそっか、じゃあいつものように準備しようか」
四人で七月に行われる委員長会議の準備をする。もうだいぶ慣れたので、四人ともそれぞれ準備はスムーズだ。基本的にこの場は大島さんが仕切って、僕と九十九さんが意見を言いながら、天野くんがメモをする。この流れでいつもやっている。
「夏休み期間中の教室や図書室の利用についてお知らせしておかないといけないわね」
「ああ、そうだね、いつものようにプリントと生徒用ホームページでお知らせかな、図書委員長の富岡さんにも言っておかないとね」
「そうね、生徒用ホームページは更新しておくわ」
「そしたら、九十九先輩と日車先輩と僕でプリントを用意しましょう」
「う、うん、分かった、私も役に立たないと……あ、そういえば、七月になったってことは、立会演説会があるね」
九十九さんがぽつりと言った。そうだった、次の生徒会役員を決めるための立会演説会があるのだ。去年は当然僕たちも出て、みんなの前で演説したな。
「そうだね、ということは僕たちももうすぐ終わりなのか……」
「そうですね……こうして先輩方と一緒にできるのもあと少しなのか……うう、寂しくなってきた……」
「ま、まあまあ、前にも言ったけどまだ卒業までいるし、学校で会えるから大丈夫だよ」
「そうね、でも今度はどうすればいいのかしら、私たちでは慶太先輩みたいに声をかけることはできないし……」
去年僕たち四人に「生徒会に入らないかい?」と声をかけてくれたのは、
「うーん、どうすればいいんだろう……」
「あ、それもお知らせしない? ちょっとギリギリだけど、『生徒会役員になりませんか?』って。誰か来てくれるかも」
「ああ、そうだね、生徒用ホームページに載せておこうか」
「う、うん、それと、私が生徒会長だからっていうわけじゃないけど、次の生徒会長は私ちょっと想像してて」
九十九さんが恥ずかしそうにそう言った。
「あ、そうなんだね、誰か候補がいるの?」
「う、うん、私の中で勝手にこの人なら大丈夫そうだなって」
「そうなのね、それって誰なのかしら?」
「そ、それは――」
九十九さんが姿勢を正して、
「――天野くん、次の生徒会長、お願いできないかな?」
と、言った。
「あはは、そうですよね僕が……って、えええ!? ぼ、僕!? 僕が、生徒会長!?」
「う、うん、天野くんなら仕事もできるし、丁寧だし、私なんかよりも生徒会長に向いてるんじゃないかと思って」
「ええ!? い、いや、九十九先輩がやってきたことずっと見てましたが、九十九先輩もしっかりしてて、いつも噛まずに挨拶できるところとかすごいなって思ってたのですが……」
「ううん、私はそんなにできてないから……天野くんの方がぴったりだよ」
「い、いえ、そんなことは……そ、そうですか、生徒会長……」
天野くんがうーんと考え込む仕草を見せた。
「なるほどね、たしかに天野くんなら生徒会がどんな感じかも分かっているし、生徒会長の仕事も立派にこなしてくれると思うわ」
「うん、天野くんなら大丈夫そうだね、僕たちも安心して任せることができるよ」
「お、大島先輩、日車先輩まで……う、うーん、分かりました、ちょっと考えてみます……あ、でもそんなに考える時間もないな……あわわわ」
あわあわと慌てる天野くんがめずらしくて、僕と九十九さんと大島さんは笑った。
「まぁ、そんなに堅苦しく考えなくてもいいんじゃないかな、たしかに生徒会長も大変だろうけど、どんな感じか分かっているのは大きいと思うよ」
「そ、そうですね……ぼ、僕が生徒会長か……なんかうまく想像できなくて」
「少しだけ考えてみるといいわ。それにしてももうすぐ夏休みね、私たちは受験生だけどたまには息抜きで、またこの四人でどこか行かないかしら」
「あ、いいね、そしたらまた九十九さんが行きたいところに行くっていうのはどうだろう?」
「え、あ、私か、そうだなぁ……」
九十九さんがちょっと考え込む仕草を見せた後、
「……あ、ぼ、ボウリングっていうの、やってみたいかも……」
と、ちょっと恥ずかしそうに言った。
「ああ、なるほどボウリングか、いいね、そしたら隣町のスポーツアトラクション施設に行かない? 前に火野たちと行ったんだけど、よかったよ」
「ああ、いいわね、たまには体を動かすのもよさそうね」
「うん、いいですね、じゃあそこにしましょう!」
「ほ、ほんと? よかった……またそんなこともしたことないのかってバカにされるかと思った……」
「ううん、僕たちはそんなこと言わないよ。九十九さんが楽しいって思ってもらえるのが僕たちも嬉しいから」
「あ、ありがとう、日車くん優しいな……カッコいい」
僕の隣にいた九十九さんが、僕の手をきゅっと握ってきた。
「え!? あ、いや、カッコよくはないと思うけどね……あはは」
「つ、九十九さん!? ど、どうしてそんなに自然に手がつなげるのかしら……ブツブツ」
「お、大島さん? 何かブツブツ言ってるけど……」
なぜか慌てる大島さんに、きょとんとした顔の九十九さん、それを見て笑う天野くん、いつもの光景だった……が、これももうすぐ終わりなんだな、少し寂しくなってしまった。
とにかく、次期生徒会役員がなんとか決まってくれると嬉しい。天野くんもじっくりと考えてほしいなと思った。
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