第39話「物理の難しさ」

 定期テストの日がやって来た。

 五組のみんなで勉強したり、火野や高梨さん、家では日向にも教えてきた。僕自身は今までと一緒で、しっかりと準備を行ってきたつもりだ。今回もまたいい点を取りたいものだ。

 今日は現代文、英語、生物、明日は数学、現代社会、古文、物理、明後日はその他副教科という日程でテストが行われる。


「じゃあ、テスト始まるから荷物を廊下に出してくれー」


 大西先生のいつもの言葉で、みんな一斉に動き出す。さて荷物を置いておくかと思ったら、絵菜がどこに置こうか迷っているみたいだった。なんだか一年生の時を思い出すな。


「絵菜、こっちこっち、ここに置いておこうか」

「あ、ありがと、今回も団吉に教えてもらったから、頑張る」

「うん、なんとか赤点はとらないように頑張ろうね」

「お、二人とも仲良く何やってんだー? 姐さん、本番ですね、頑張りましょうね!」

「ひ、日車くん、勉強教えてくれてありがとう、ぼ、僕も頑張るよ」


 絵菜と話していると、杉崎さんと木下くんがやって来た。


「あ、いえいえ、頑張ろうね、今回も赤点は回避しよう」

「ああ、赤点とるとマジでめんどくさいからなー、まぁ、姐さんは大丈夫ですよね!」

「い、いや、私も頑張らないと物理とか怪しい……」

「ふっふっふ、日車くん、三年生最初の勝負ね! 負けないわよ!」


 大島さんが大きな声を出した。


「えぇ、また言ってるのか……でも、僕はいつでも負けないよ」

「そうこなくっちゃね、私たちはより高みを目指すライバルだからね!」

「……一回くらい大島にも勝つ喜びを知ってもらいたいものだな」

「さ、沢井さん!? くっ、絶対勝つからね、見てておきなさいよ……!」

「な、なんか、一年生の時を思い出すね……ひ、日車くんと大島さん、争ってたもんね」

「おー、相変わらず日車と大島はバチバチだなー、あ、アレやっておかないかー?」


 杉崎さんが右手を出してきたので、僕たちはみんなでグータッチをした。よし、気合いが入った気がする。みんないい点がとれますように。



 * * *



 数日後、テストの結果が全部出揃った。

 僕は学年で三位だった。二年生最後のテストと同じか。まぁそれでもかなりいい成績を残せたのではないかと思う。

 数学はもちろん百点だったが、今回は物理が難しく、平均点も低かった。その物理もまあまあだったので、日頃から勉強している成果が出たのではないだろうか。


「日車くん、どうだった?」

「日車さん、お疲れさまです……! どうでしたか?」


 隣の席から九十九さんと富岡さんが話しかけてきた。


「あ、僕は学年で三位だったよ。二人はどうだった?」

「そうなんだね、私はなんとか一位をとることができたよ。物理が難しかったから、どうなるかと思ったけど」

「お二人ともすごいです……! 私は九十位でした。物理がかなり悪くて、次は頑張ろうと思いました……」

「おお、九十九さんはさすがだね、なかなか九十九さんを抜くのは難しいなぁ。そしてたしかに物理難しかったよね、みんな大丈夫だったかな……」

「みんなお疲れさま、団吉、どうだった?」


 三人で話していると、絵菜がやって来た。


「あ、沢井さんお疲れさま」

「沢井さん、お疲れさまです……!」

「お疲れさま、僕は三位だったよ。絵菜はどうだった?」

「さすが団吉だな、私は九十七位だった。でも物理が危なかった……赤点とるんじゃないかと思った」

「そっかそっか、あ、でも数学はよくできてるね、いいんじゃないかな」

「やっぱり物理難しかったですよね……よかった、私だけじゃなかった……」

「ふっふっふ、日車くん、結果が出たわね、さぁ勝負よ!」


 大島さんがニコニコしながらやって来た。


「あ、僕は三位だったよ、大島さんは?」

「なっ!? さ、三位……!? ま、また負けたわ、私は六位よ……どうして日車くんに勝てないのかしら……一緒に勉強もしているのに……私なんてしょうもない女だわ……」

「お、大島さん落ち着いて……ま、まぁ、それでもまた一位の九十九さんには届かなかったからね、もっと頑張らなきゃいけないなと思っているよ」

「そうなのね、九十九さんさすがね、なんか秘密の勉強法があるとか?」

「い、いや、特にそういうのはないと思うけど……た、たまたまだよ」

「たまたまで一位を取り続けるのは無理があるわね、記憶力の差かしら? 私ももらいたいくらいだわ……」

「そ、そうかな、大島さんもよくできてるのでは……」

「九十九さん、日車くんに勝てない六位なんて何の意味もないのよ……私はそろそろあの世へ行ったほうがいいのかもしれないわ……」


 ボーっと外を見つめる大島さんがいた。と、飛び降りたりするのだけはやめてくれ。


「つ、九十九さん、こうなったら大島さんは何も聞こえないから、そっとしておいた方がよさそうだよ」

「そ、そうなんだね、うん、分かった……」

「……聞こえたけど、みんなすごいな、俺なんて全然届かないや」


 ぽつりとつぶやく声が聞こえたので見ると、相原くんが来ていた。


「あ、相原くんはどうだった?」

「……俺は百七十位だった。物理が本当に赤点スレスレで危なかった……」

「そっか、あ、でも他の教科も赤点はなかったんだね、よかったよ」

「……うん、みんなに教えてもらったからだと思う。いつもありがと」


 相原くんが恥ずかしそうに顔をポリポリとかいた。


「やっぱり物理は難しかったわね、あの怖い先生がいじわるしたのかしら。私の足も見事に引っ張ってくれたわ……」

「……まぁ、引っ張られてなくても団吉に勝つのは無理なんだけどな」

「さ、沢井さん!? 聞こえてるわよ。ま、まぁ今回は勝ちを譲ったけど、三年生は模試も増えて来るわね、絶対に勝つんだから……!」


 そう、大島さんの言う通り、三年生は定期テストの他に模擬試験も増える。受験生であることを実感するな。ま、まぁ勝ち負けは置いておいて、油断せずに頑張りたいところだ。

 みんなに結果を訊いたら、危ないものもあったが赤点はなんとか回避していたようだった。日向も初めての定期テストだったが、赤点もなくまあまあだったようだ。よかったよかった。

 無事に終わってほっとしていた。これからもみんなで一緒に乗り越えていきたい。

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