第38話「モテモテ」
一学期のテストが明日に迫った。
テスト前ということで生徒会の仕事もなく、バイトも休みをもらっている。今日も帰ってから勉強を頑張ろうと思った。
「団吉、お疲れさま、今日は何もないのか?」
放課後になり、帰ろうと準備をしていると、絵菜が話しかけてきた。
「お疲れさま、うん、今日は何もないよ、一緒に帰ろうか」
「うん」
絵菜が嬉しそうに頷いた。こうやって何もない日は絵菜と一緒に帰るようにしている。僕も絵菜と一緒にいたいという気持ちが大きかった。
「あ、そういえば物理で分からないところがたくさんあったんだった……」
「あ、そうなんだね、そしたらうちに寄って一緒に勉強していく? 教えるよ」
「うん、そうする。ありがと」
「――あ、お兄ちゃん!」
絵菜と話していると、教室の入り口の方から声がした。見ると日向と真菜ちゃんと梨夏ちゃんが手を振っていた。
「あ、あれ? 三人ともどうしたの?」
「ふっふっふー、テスト前で部活もないしたまには一緒に帰ろうかなーって思って! あ、絵菜さんもいる!」
「お兄様、お姉ちゃん、お疲れさまです。私も部活がないのでたまには一緒にと思って」
「こんちわ! だんちゃん、えーこ、久しぶり! ひなっちとまなっぺが楽しそうにしているから、ついてきちゃった!」
「そ、そうなんだね、まぁいいか、じゃあ一緒に帰ろうか」
「――あら? 日車くんの妹さん?」
「――あ、日車くんと沢井さんの妹さんだ」
後ろから声がしたので振り向くと、大島さんと九十九さんがいた。
「あ、うん、なんか急に一緒に帰ろうって言いだして……」
「そうなのね、妹さんと仲が良いのね、羨ましいわ」
「はじめまして、日車日向といいます。九十九さんはお久しぶりです!」
「はじめまして、沢井真菜と申します。姉がお世話になっております」
「あ、ど、どうも、はじめまして、大島といいます……って、驚いたわ、日車くんと沢井さんの妹さんとは思えないくらいしっかりしてるのね」
「あはは、やだなぁ大島さん、僕だってしっかりして……あ、あれ? 僕ってそんなにしっかりしてなかったのかな……」
「だ、団吉しっかり……大島の戯れ言に惑わされないで……」
「な、なにが戯れ言よ、聞こえてるわよ。二人とも可愛らしいわね、妹というのもいいわね」
「あれ? 大島さんは兄弟姉妹がいるんだっけ?」
「四歳年上のお姉ちゃんがいるわ。いくつになっても遊んでばかりで、しっかりしてないんだけどね」
「ああ、そうなんだね、九十九さんは弟さんがいたよね」
「う、うん、でも妹というのもいいな、話が合いそうで。それに妹だったら男の子にあれこれ言わないだろうし……」
あ、あれ? 男の子にあれこれってどういうことだろうかと思ったが、訊かないことにした方がよさそうだ。
「こんちわ! はじめまして、ひなっちとまなっぺの友達の潮見梨夏といってございます……あれ? やっぱり変だな?」
「あはは、梨夏ちゃん、やっぱり敬語が変だよー」
「ごめんごめん、練習してるんだけど、まだまだうまくいかないねー。へぇ、二人とも美人だね。下の名前なんていうの?」
「え? あ、下の名前か、私は聡美だけど……」
「え、あ、わ、私は伶香といいます……」
「ふむ、聡美さんに伶香さんか……そうだな、聡美さんは『さとっこ』で、伶香さんは『れいれい』で!」
「さ、さとっこ……?」
「れ、れいれい……?」
「あ、ご、ごめん、梨夏ちゃんはあだ名で呼ぶのが好きみたいで……」
「そ、そうなのね、大丈夫よ、そういえば最近あだ名で呼ぶこともなくなったわね……日車くんと沢井さんはなんて呼ばれてるの?」
「うっ、は、恥ずかしいけど、だ、だんちゃんと……絵菜はえーこで……」
「だ、だんちゃん!? ふ、ふふふ、可愛らしいわね」
「うう、やっぱり笑われると思った……」
「ごめん、バカにしてるわけじゃないわ。だんちゃんか、いいわね、私もだんちゃんって呼ぼうかしら」
大島さんがそう言って僕の右腕に抱きついてきた。
「え!? お、大島さん!?」
「お、お兄ちゃん!? ううう浮気はよくないよ!」
「まあまあ、お兄様、浮気はよくないですよ」
「おおー、だんちゃん、えーこという人がいながらこんな美人に抱きついてもらえるのかー、羨ましいなー」
「ええ!? い、いや、浮気とかじゃないんだけど、そ、その、なんて言えばいいんだろう……」
「……ふふっ、三人とも安心して、大島は仕方のない奴だからな」
「さ、沢井さん!? くっ、最近なんか自信満々ね……ま、負けていられないわ……!」
ぐいぐい来る大島さんだったが、絵菜は全然気にしていないような表情を見せた。な、なんだろう、大島さんの言う通り、何か自信がついたのだろうか。
「まいっか、だんちゃんがモテモテということはよく分かったよー。あ、せっかくだしみんなで一緒に帰らない? さとっことれいれいの話ももっと聞きたいなー」
「い、いや、モテモテではないけどね……え、絵菜、一緒に帰っても大丈夫?」
「うん、まぁ、大島は遠慮してもらってかまわないんだけど」
「な、なんで遠慮しなきゃいけないのよ、私も一緒に帰るわよ。日車くんと一緒にいたいからね」
「や、やっぱり大島さんは……」
「ん? 九十九さん、どうかした?」
「あ、い、いや、なんでもない……たぶん私の勘違いだから」
勘違いって何のことだろうかと思ったが、それも訊かないことにした。
結局みんなで一緒に帰る……のだが、あれ? よく考えるとこんなに女の子がいるのに、男は僕一人だ。な、なんか急に恥ずかしくなってきた。誰か、この状況を理解してくれる男はいないのか……。
まぁ、みんな楽しそうに話しているから、いいか。相変わらず大島さんは近かったが、絵菜は何も気にしていないようだった。これが絵菜の余裕だろうか。よく分からないが、そのまま二人とも仲良くしてくれないかな……とも思う。やっぱり難しいのだろうか。
そして九十九さんは「妹さん、可愛いね。いいな、私も妹がよかったかも……」と言っていた。弟さんと何かうまくいっていないのだろうか。
あ、そういえば絵菜に物理を教える約束をしていたのだった。そして明日からはテストだ。浮かれていないで頑張らなくてはいけないなと思った。
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