第30話「男子の活躍」
五組のサッカーの試合が始まろうとしていた。
なんと、サッカーも相手はあの一組だった。もちろん火野と中川くんがいるのだ。あの二人がいる一組に勝てるのかと心配になるが、大島さんの言う通り、勝てると信じることにした。
試合の準備をしていると、火野と中川くんがこちらにやって来た。
「おーっす、団吉と当たっちまったなぁ。お、相原と木下もいるのか。負けねぇぜ!」
「やあ! まさか五組と当たるとはね。でも本気でいかせてもらうよ!」
「う、うう、二人が本気を出されると辛い……でも、うちもサッカー部の人いるし、負けないよ」
「……火野くんとまた勝負できるな」
「う、だ、大丈夫かな……で、でも、みんなで力を合わせれば……」
みんなで話していると、五組の女子たちも応援に来た。
「だ、団吉、頑張って……!」
「まさか一組と当たるとはなー、でも、みんな勝てるぞー、大悟頑張ってなー!」
「み、みなさん頑張ってください……! 応援してます……!」
「うん、ありがとう、頑張って来るね」
五組のボールで試合が始まった。サッカー部のクラスメイトを中心にパスを回していく。木下くんにボールが渡ろうとした時、火野がススっと飛び出してパスをカットした。
「あ、ああっ!」
「よし、いこう!」
火野がドリブルで上がる。一人、また一人と抜かれていく。さすが火野、ボールテクニックはすごいものがあった。
前線に中川くんが上がり、火野がボールを上げる。背の高さを生かして中川くんがヘディングシュートをするが、キーパーがなんとか防いだ。あ、危なかった……。
「ドンマイドンマイ! どんどんいこう!」
火野が声を上げて、一組のみんなが「おお!」と言う。うう、強い……でも、気迫に押されてしまったら負けだ。僕はまた気合いを入れ直した。
五組のゴールキックから、またパスを回していく。左サイドで僕がパスを受け取った……と思ったら、なんと目の前に火野がいた。
「よし! 団吉、勝負だ!」
「……うん、負けない!」
僕は左に動くと見せかけて、右にドリブルをした。しかし火野にはお見通しだったらしくぴったりとついてくる。抜くのはおそらく無理だが、僕一人でやっているわけではない。火野がボールをとろうと左足を出して来たその時――
「相原くん!!」
僕はとっさに左に切り返し、後ろから走り込んできた相原くんにパスをした。相原くんがドリブルをして一人をかわし、ゴール前にいたサッカー部のクラスメイトにパス。そのままサッカー部のクラスメイトが右足でシュートを放つと、ゴール左隅に決まった。
「……よし!」
「や、やった! み、みんなすごい!」
「ナイスシュート! いけるよ!」
相原くん、木下くん、サッカー部のクラスメイトとハイタッチを交わす。
「くそぅ、団吉やるなぁ、絶対に右に動くと思ってたぜ。でもまだまだ! 負けねぇぞ!」
それから本気を出した火野と中川くんを中心に、一組が怒涛の攻めを繰り出して来た。五組はなんとか守りに徹して耐えていたのだが、素早い動きでディフェンスをかわした中川くんのシュートが決まると、次の攻めでもう一点失った。そのまま試合は終わる。二対一で五組は負けてしまった。
「ふー、なんとか勝てたか。しかし相原はやっぱいい足してるなー、うちに欲しかったぜ」
「……うーん、めんどくさいことはパス。でも火野くんもやっぱり速いな」
火野と相原くんが握手しているのが見えた。去年の体育祭をふと思い出した。
相原くんが戻って来て、木下くんと一緒に話していると、五組の女子たちもやって来た。
「み、みんなお疲れさま、団吉カッコよかった……」
「みんなお疲れー! 負けちまったけどよかったよー! 大悟も頑張ったなー!」
「みなさんお疲れさまです……! 本当にカッコよかったです……!」
「みんなお疲れさま、日車くんカッコよかった……」
「……はっ!? 九十九さんが日車くんの隣に行きそうな予感! ここは私が先に……!」
ススっと僕の隣に来た大島さんが、僕の右腕に抱きついてきた。
「え!? お、大島さん!?」
「……団吉?」
「ああ!! い、いや、大島さんが急に来てああなってこうなって……ご、ごめん!」
「ふふっ、慌てる団吉も可愛い。大島は仕方ない奴だからな」
「さ、沢井さん!? くっ、なんか負けた気持ちになるのは気のせいかしら……!」
グイグイくる大島さんだったが、絵菜はやっぱり余裕があった。お、大島さんのこと嫌いではないということなのかな……。
* * *
全部の試合が終わり、グラウンドで最後の挨拶があった後、僕と絵菜は教室に戻ろうとしていた。
「終わってしまったね、なんかちょっと寂しいというか」
「うん、私もちょっと寂しいなって思ってた。こんなこと思うなんて信じられないけど」
「あはは、僕も似たようなものだよ。前は面倒だなぁって思ってたからなぁ」
「おーっす、二人も戻るところか、いやー終わっちまったなぁ」
「やっほー、終わったねぇ、なんか寂しくなるねぇ」
後ろから声をかけられたので振り向くと、火野と高梨さんがいた。
「あ、お疲れさま、結局サッカーもバスケも一組が優勝って、どうなってるの……」
「あはは、俺らは五組に勝てたことで一気に勢いがついたぜ」
「私たちもだよー、最初に五組と当たってよかったのかも。それにしても絵菜上手かったねー、ほんとうちの部に欲しかったくらいだよー」
「おう、こっちも団吉にはびっくりしたぜ。まさかあそこで左に切り返してパス出せるとはな。周りも見えてたんだな」
「ま、まぁ、相原くんが走ってきたのが見えたから、いけるかなーと思って……あはは」
「わ、私も、杉崎がフリーになってるのが見えたから、いけそうだなって」
二人に褒められてちょっと恥ずかしくなる僕と絵菜だった。
「うんうん、サッカーもバスケもチームスポーツだからねー、周りが見えてるのはすごく大事だよー」
「そうそう、一人でやってるわけじゃねぇからな。あ、そういやうちの部はなんとか勝ち進んでるぜ。県大会行けるかも」
「あ、うちも勝ってるよー、県大会が見えてきたよ」
「あ、そうなんだね、そしたら来月応援に行くよ。絵菜もどう?」
「うん、私も行く。二人が頑張ってるところ見たい」
火野と高梨さんが「サンキュー!」「ありがとー!」と言って胸を叩いた。
またひとつ、イベントが終わった。寂しい気持ちになるが、それもまた仕方のないことだ。これからも楽しい思い出を作っていきたい。
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