第28話「ファミレス」
球技大会が迫った日曜日、今日はバイトも休みをとった。なぜかというと、生徒会メンバーで以前話していたファミレスに行こうと決めていたからだ。
お昼をファミレスで食べようという話になって、僕は待ち合わせの時間に遅れないように家を出た。昨日まで雨が降っていたが、今日は晴れているのでよかったなと思った。
駅前に着くと、天野くんが来ていたみたいでこちらに気がついた。
「あ、日車先輩、こんにちは!」
「こんにちは、天野くん早いね、けっこう待った?」
「いえ、僕もさっき着いたところです」
僕はスマホを確認した。グループRINEに九十九さんと大島さんからRINEが来ていた。二人とももう少しで着くとのことだ。
天野くんと二人というのもめずらしいので、僕は気になっていたことを訊いてみることにした。
「天野くん、東城さんとはうまくいってる?」
「え!? あ、その、RINEしたり、たまーにですけど一緒に遊びに行ったりはしてます。東城さんも忙しいからなかなか誘えなくて」
「そっか、アイドルはやっぱり忙しいんだなぁ。で、天野くんの気持ちは伝えないの?」
「あ、そ、その……もう少ししてから、デートをして自分の気持ちを伝えようかなと思っています……って、は、恥ずかしいですね……」
「そっかそっか、うん、東城さんも嬉しいんじゃないかな。うまくいくといいね」
「あ、は、はい、頑張ります……!」
「――ご、ごめん、遅くなってしまって」
「――ごめん、電車が遅れてたみたいで。二人とも早いわね」
天野くんと話していると、九十九さんと大島さんがやって来た。
「あ、こんにちは、ううん、大丈夫だよ」
「あ、こ、こんにちは!」
「昼間は少しずつ暑くなってきたわね。二人で何の話してたの?」
「え!? あ、いや……昨日まで雨降ってたけど、今日は晴れてよかったねって」
「そ、そうです、傘持って行かなくていいからよかったですねって」
「ほんとね、昨日はけっこう降ってたわね。じゃあ行きましょうか」
九十九さんと大島さんが少し不思議そうな顔をしたが、なんとかバレずに済んだ。さすがに恋の話は僕が勝手に話してはダメだよな……。
四人で駅前からちょっと離れたところにあるファミレスに行く。中に入ると店員さんがやって来て、「いらっしゃいませー、四名様ですね、こちらのお席へどうぞー」と案内された。六人くらい座れる席に僕と九十九さん、天野くんと大島さんに分かれて座った。
「ど、どうしてかしら、やっぱり日車くんの隣に九十九さんがいる……隣に行こうと思ったのに、隙がない……ブツブツ」
「お、大島さん? なんかブツブツ言ってるけど……あ、九十九さん、ここがファミレスだよ」
「は、初めて来た……けっこう広いんだね、お客さんも多いし……」
「まぁ、お昼時だから多いのかもしれないね。あ、メニューあるね、一緒に見ようか」
「う、うん……わわっ、すごい、こんなに色々あるの!? しかもお値段書いてあるけど、なんか安い……!」
「あはは、ここはたしかにメニューが豊富で安いですよね。あ、それぞれ頼むとして、別にピザ食べませんか? みんなでシェアできますし」
「うん、それもよさそうね、じゃあ九十九さんの好きなピザにしましょうか」
「あ、わ、分かった……わぁ、どれも美味しそう……どうしよう、このモッツアレラピザっていうのにしようかな」
ピザの他に食べたいものを決める。僕と九十九さんはメニューを二人で見ているので、自然と距離が近くなるわけで……チラリと九十九さんを見ると、「んー……」と言いながら真剣にメニューを見る顔も美人だった……って、ぼ、僕は何を考えているんだろう。
他にそれぞれ食べたいものを決めた後、店員さんを呼ぶためのボタンを九十九さんが「こ、これ? 押していいの……?」と、おそるおそる押した。すぐに店員さんが来て注文をする。注文が終わると、店員さんが「かしこまりましたー、少々お待ちくださいー」と言って戻って行った。
「わっ、あそこの高校生っぽい人たち、勉強してる……?」
「ああ、何か食べてから勉強する人もいるね、空調もあるし、集中できるのかな」
「そ、そうなんだね、私も勉強道具持って来ればよかったかな……」
「ま、まあまあ、今日は勉強しなくてもいいんじゃないかな……あ、ドリンクバーも頼んだから、取りに行こうか」
みんなでドリンクバーに飲み物を取りに行った。九十九さんが「あ、カラオケと同じものだね。え!? こっちにあるの、コンソメスープ!? わぁ、またジュースが出てきた!」と興奮している様子だった。
「それにしても、九十九先輩にはファミレスも新鮮に見えるんでしょうね」
「そうね、九十九さんが嬉しそうにしていると、なんだかこっちも嬉しくなるわ」
「ご、ごめん、初めてのことばかりではしゃいじゃって……でも、ここもハンバーガショップもカラオケも、とっても楽しい」
「ううん、いいんだよ、九十九さんが楽しいって思ってもらえるのが嬉しいよ」
「あ、ありがとう……日車くん優しいな……カッコいい」
そう言って九十九さんが僕の手をきゅっと握ってきた。
「え!? あ、いや、そんなにカッコよくはないけどね……あはは」
「つ、九十九さん!? あああ、そっちに行くわけにはいかないし……このままだと危険すぎる……!」
「お、大島さん? なんで慌ててるの……?」
なぜか慌てる大島さんに、きょとんとした顔の九十九さん、それを見て笑う天野くん、いつも通りの光景だった。な、なぜか九十九さんが手を離してくれなくて、僕はずっとドキドキしていた。
それからみんなで話していると、注文した料理が運ばれてきた。僕はミラノ風ドリアを食べてみる。うん、ちょっと熱いけど美味しい。
九十九さんも「お、美味しい……!」と言いながらペペロンチーノを食べていた。みんなで楽しい話をしながら食べる昼食もいいものだな。僕も楽しい気持ちになっていた。
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