第27話「反応」
週が変わって月曜日、今日は絵菜が朝一緒に学校へ行こうと言っていたので、絵菜が来るまで待っていた。
そうだ、日向も一緒に行くかなと思ったのだが、日向は「ふふふ、お兄ちゃんと絵菜さんのラブラブの時間を邪魔するわけにはいかないよー」と言っていた。い、いや、普通に学校に行くだけなのだが……。
しばらくのんびりしていると、インターホンが鳴った。出ると絵菜が来ていた。
「お、おはよ」
「おはよう、じゃあ行こうか」
日向と母さんに「いってらっしゃーい」と見送られ、僕と絵菜は学校へ行く。絵菜が嬉しそうに僕の手を握っていた。
「そういえば、髪を切ってから初めての登校だね、みんなびっくりするんじゃないかな」
「う、うん、優子と杉崎が興奮しそう……」
「あはは、そういえば去年もそんな感じだったね」
いつものように学校の玄関で靴を履き替えて、教室へ行く。杉崎さんと木下くんが話しているのが見えた。
「お、二人ともおはよー……って、ね、姐さん!? か、髪が短くなってる!? か、か、可愛いですー!!」
杉崎さんが絵菜の手をとってぴょんぴょんと跳ねている。うん、予想通りの反応だった。
「あ、ありがと、す、杉崎、恥ずかしいから……」
「あははっ、そういえば去年も短くしてましたよね! ああ、こんなに可愛い姐さんの魅力に気づかない奴はバカとしか言いようがないなーなんちって」
「さ、沢井さん、み、短いのも似合ってるね」
「あ、ありがと、そう言われると恥ずかしいな……」
「――あら? 沢井さん、髪切ったのね」
四人で話していると、大島さんがやって来た。
「あ、ああ……」
「ふ、ふーん、み、短いのも似合うじゃない。金髪も綺麗にしてもらったのかしら」
「あ、ああ、金髪も綺麗になった……あ、ありがと……」
あ、目は合わせてないけど、大島さんが余計な一言を言わなかったぞ。これは二人が仲良くなるチャンス……?
「おっ、大島も姐さんの魅力にやっと気がついたかー、まぁ遅いくらいなんだけどなー」
「ま、まぁ、か、可愛いんじゃないかしら。私の方が可愛いのは変わらないけどね」
あ、前言撤回。やっぱり余計な一言を言っちゃう大島さんだった。
「お、大島さんも、さ、沢井さんのこと本当は好きなんだよね」
「なっ!? そ、そうじゃないわよ、沢井さんはライバルでもあるからね、絶対に負けないんだから」
「……ふふっ、無駄な争いはしたくないもんだな」
「さ、沢井さん!? くっ、最近なんか余裕が出て来たわね……負けるものですか……!」
う、うーん、やっぱりいつものようになってしまうこの二人だった。仲良くするのは無理なのかな……。
* * *
午前中の授業が終わり、僕と絵菜は一緒に学食へと行く。そう、絵菜が髪を切ったことで興奮すると思われる人がもう一人いるのだ。そのもう一人である高梨さんと、火野が奥に座っているのが見えた。
「やっほー……って、あれ!? 絵菜!? 髪が短くなってるー! くぁー可愛いー!!」
高梨さんが立ち上がって絵菜のところにやって来て、思いっきり抱きついて絵菜の頭をなでている。うん、これも予想通りの反応だった。
「あ、ありがと、ゆ、優子、恥ずかしいから……」
「あはは、ごめんごめん、そういえば去年の今頃も切ってたよねー、ああ可愛い……これは絵菜も食べごろなのでは……じゅるり」
「い、いや、食べなくていいから……」
「おお、沢井髪切ったんだな、やっぱ沢井はショートも似合うよな」
「あ、ありがと、やっぱり恥ずかしいな……」
絵菜が顔を赤くしてちょっと俯いた。
「あはは、可愛いから大丈夫だ、自信持っていいぜ。あ、そういえばみんな進路は決めたのか?」
「ああ、僕は大西先生と話したよ。将来数学の先生になりたいと思って、理工学部か教育学部を受けようと思っているよ」
「おおー、そーなんだね、うんうん、日車くんならいい先生になるよー!」
「あ、ありがとう、そう言われると恥ずかしいな……二人はもう決めたの?」
「ああ、俺はちょっと遠いところの体育大学を受けようと思ってさ、やっぱ体育の先生になりたいなーと思っててな」
「おお、そうなのか、うん、火野ならいい先生になれるんじゃないかな。高梨さんは?」
「私は都会の大学の心理学部を受けようかなーと思っててねー、ちょっと興味が出て来てね。でも統計学? みたいなものを学ぶらしいから、数学も嫌々言ってないでがんばろーと思ってねー」
「おお、なるほど。前はよく分からないって言ってたけど、ついにやりたいこと見つかったんだね」
「うんうん、だから日車くんにもまた数学教えてもらおうと思ってねー。絵菜は決めたの?」
「わ、私は美容系の専門学校に行きたいなって思って。ネイルアーティストにちょっと興味が出て」
「おおー! うんうん、絵菜も前は迷ってたよねー、そっかーネイルアーティストか、あ、絵菜がプロになったら、爪綺麗にしてもらおうかな」
「う、うん、まだまだ先のことだけど、優子の爪も綺麗にしてあげたい」
「あはは、ありがとー。でもそっか、当たり前だけど高校卒業しちゃうとみんなバラバラなんだね」
高梨さんが少し寂しそうに言った。そうだ、絵菜だけでなく、こうして四人で集まることも少なくなるだろう。少し寂しさを感じてしまった。
「まぁ、そうなんだけどさ、俺らも大人になるためには仕方ないんだろうな。それに、俺らの仲は離れたからといってなくなるわけじゃねぇだろ?」
「うん、そうだね、ちょっと寂しいなって思ったけど、離れても友達なのは変わらないよ」
「そだね、私もちょっと寂しくなっちゃったけど、私たちは変わらないよね。ごめんねちょっとしんみりさせちゃって」
「いや、優子は悪くない。私も同じこと思ってた。寂しいけど、ちゃんと前向いていく」
「あはは、絵菜ありがとー。あ、そういえばもうすぐ球技大会があるねぇ、絵菜には負けないからね!」
「おう、そうだった、俺も団吉には負けねぇ!」
「え!? ふ、二人が本気出されたら、僕たちは手も足も出ないんだけど……」
僕がそう言うと、火野と高梨さんがケラケラと笑った。な、なんだろう、一組と五組が当たるようなこの感じは……。
それはいいとして、僕は四人で集まるこの時間も、大事にしたいなと思った。
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