第24話「勝つ自信」
「はーい、では今度の球技大会に向けての話し合いを行いまーす。とりあえず出たい競技を考えてくださーい」
学級委員のいつもの間延びした声に、五組のみんなが「はーい」と答える。今日はホームルームの時間に今月末に行われる球技大会の話し合いが行われていた。一年生の時はテストの後に球技大会があったが、今年は大人の都合でテストよりも前になった。ん? 大人の都合って何だ?
競技は一年生の時と同じく、男子はソフトボールとサッカー、女子はバレーとバスケから好きな方に出ることになっている。一年生の時は人数調整で無理矢理ソフトボールの方に入れられたっけ。
「……日車くんと木下くんはどっちにする?」
「ひ、日車くん、相原くん、同じのに出ない?」
どっちにしようかと悩んでいたところ、相原くんと木下くんが話しかけてきた。
「あ、そうだね、三人で同じのに出ようか。うーん、どっちがいいかなぁ」
「……俺はどっちでもいいんだけど、ソフトボールに出るとあいつがうるさそうだね」
相原くんがぽつりと言った。視線の先にはまたデカい声を出している野球部のクラスメイトがいた。たしか一年生の時もあれこれと指示を出していたな。
「あ、たしかにそうかもしれないね……じゃあサッカーにしようか。二人は自信ある?」
「……うーん、ソフトボールよりは出来ると思うけど、どうかな」
「ぼ、僕もどちらかというとサッカーがいいかな」
「そっか、じゃあサッカーがよさそうだね、学級委員に言いに行こうか」
僕たち三人は学級委員のところに行き、三人ともサッカーに出たいと報告した。学級委員は「はーい、日車くんと相原くんと木下くんがサッカーねー、今のところ空いてるから大丈夫だよー」と言っていた。よかった、今年は自分の選んだ競技に出ることができそうだ。
「よかったね、でもサッカーか……一組が強そうだなぁ、火野も中川くんもいるし、他にもサッカー部の人がいたような……」
「……うん、優勝候補だろうね。うちにもサッカー部の人がいるけど、一組には勝てないかも」
「あ、三人はサッカーなんだね」
「三人ともお疲れさまです……! みなさんはサッカーなんですね……!」
三人で話していると、隣の席から九十九さんと富岡さんが話しかけてきた。
「あ、うん、三人ともどちらかというとサッカーがよさそうだったので。二人はバレーとバスケ、どっちにしたの?」
「私と富岡さんはバレーだよ。私はバレーを少しだけしてたから、バスケよりは自信あるなって思って」
「わ、私は球技下手だから、なんとか足を引っ張らないようにしたいところです……」
「おお、そうなんだね、九十九さんはバレー経験者か、二人とも頑張ってね」
「だ、団吉、どっちにした?」
「おー集まってるなー、みんな何にしたんだー?」
みんなで話していると、絵菜と杉崎さんもやって来た。
「あ、男子は三人ともサッカーだよ。九十九さんと富岡さんはバレーだって。絵菜と杉崎さんはどっちにしたの?」
「わ、私と杉崎はバスケにした。一年の時もバスケだったし、できるかなと思って」
「あははっ、姐さんと一緒のチームなんて嬉しすぎます! 頑張りましょうね!」
杉崎さんが絵菜の手をとってぴょんぴょんと跳ねている。絵菜は「あ、ああ……」とちょっと恥ずかしそうにしていた。
「そっかそっか、一年生の時を思い出すな、絵菜も高梨さんと組んで活躍してたからなぁ」
「そ、そうかな……でも、今度は優子がいないから……しかも優子と当たってしまうかも」
「そうだよね、こっちも火野と中川くんのいる一組と当たったらどうしようと話していたところだよ」
こういう時、話していたことが本当になってしまうのは小説や漫画の世界だ。三年生だけでも八クラスあるんだし、そう簡単には一組と当たらないだろう。
「ま、まぁ、一組といきなり当たるってことはないんじゃないかな……」
「そうだよね、いきなり当たったら話が出来過ぎてるよ……あれ? でもこのメンバーが一緒のクラスになった不思議な力があると……?」
「日車くんも沢井さんも、何弱気になってるのよ。どこのクラスと当たろうと蹴散らせばいいだけよ!」
ちょっと不安になっていると、大島さんがなぜか力強く話しかけてきた。
「……おお、大島さんが本気だ」
「ほんとですね、大島さんからオーラが出ています……!」
「当たり前じゃない、勝負事は何でも勝たないとね。みんな弱気になっちゃダメよ、勝てるって信じた者が勝つのよ」
「……いつも団吉に負けてる大島が言っても説得力ないな」
「さ、沢井さん!? 聞こえてるわよ。そ、そんなことないわよ、たまたま日車くんには負けてるだけで……」
「大島、前にも言ったけど負けを認めよう。そうすれば楽になれるぞー」
「な、なんでそうなるのよ。今は日車くんとの勝負じゃなくて、五組の勝利を考えてるところでしょ」
まぁでも、大島さんの言うことも一理ある。最初から弱気になっていては勝てるものも勝てない。勝利のためには自分たちを信じることも重要だ。
「ま、まぁ、みんなで頑張れば大丈夫だよね。大島さんはどっちにしたの?」
「私はバレーよ。人数的にそっちになっちゃったのよ。まぁいいんだけど」
「……大島も人数調整に使われたのか……」
「さ、沢井さん!? そうじゃないわよ、私もバレーがいいって思ってたからね。男子三人はどうなったの?」
「あ、僕たちは三人ともサッカーだよ。そっちの方ができそうで」
「そうなのね、応援に行くわ、頑張ってね」
大島さんが応援に行くと言うと、女子全員が「私も行く」と言った。お、おお、女の子に応援されるというのは頑張れる気がする。僕も単純な男だな。
「なっ!? お前ら卑怯だぞ! 女の子に囲まれて応援してもらえるなんて!」
急に野球部のクラスメイトが大きな声を出して僕たちを睨んできた。君は本当に女の子だったら誰でもいいんだな。
「……日車くん、木下くん、あんなの聞かなくていいから。俺たちも頑張ろう」
「う、うん、な、なんとか勝てるように頑張るよ」
「うん、そうだね、大島さんの言う通り、勝てるって信じないとね」
三年生なので、球技大会も最後になる。一つ一つのイベントが終わっていくのも寂しいものがあるが、僕たちはひっそりと気合いを入れていた。
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