第23話「課題に追われて」
『団吉ぃ~、今年も連休だからって課題がたくさん出たんだけど、数学と英語が分からねぇよぉ』
連休の最終日、今日はバイトも休みをとって部屋で勉強をしていると、グループRINEで火野が力のない言葉を送ってきた。あれ? 去年も同じようなことがあったような……。
『あー私も! 数学が分からないよ~、日車くん助けて~』
『お、おお、二人とも課題やってるのか。まぁ教えることはできるけど』
『助けてくれ~……って、あれ? 去年も同じようなこと言ってたな、まぁいいか。でも毎回団吉の家におじゃまするのもなんか悪い気がするなぁ』
『い、いや、そんな気にしなくていいよ』
『あ、じゃあみんなうちに来てくれないか? うちでも出来ないことはないから……』
『あ、絵菜のとこ? いいの?』
『うん、私も団吉に教えてほしいところあるし』
『おお、沢井サンキュー、じゃあ駅前に集合してみんなで行くか』
そんなに気にすることなかったのになと思ったが、絵菜がいいと言ったのだ。僕も行かせてもらうことにした。そうだ日向は……と思ったが、「お兄ちゃんに教えてもらったから終わったよー」と昨日言っていたのを思い出した。勉強ばかり言っても悪いから、今日は一人で行くことにした。
急いで準備をして駅前へ行くと、火野と高梨さんがもう来ていて僕を見つけて手を振っていた。
「おーっす、すまんな休日に来てもらって」
「やっほー、ごめんねー、分かんないところ多すぎてさー」
「いえいえ、僕も復習になるからちょうどいいよ。それじゃあ行こうか」
三人で話しながら絵菜の家へと向かう。今日は少し曇っているが、風が気持ちよくてちょうどよかった。
絵菜の家に着いて、僕がそっとインターホンを押す。すぐに「はい」と聞こえたので、「こんにちは、日車です」と言うと、「まあまあ、ちょっとお待ちくださいね」と言われた。なんかお母さんっぽいな? と思っていると、玄関が開いてお母さんと絵菜と真菜ちゃんが迎えてくれた。
「まあまあ、みなさんいらっしゃい」
「こ、こんにちは、すみません、急に来てしまって……」
「いえいえ、いいんですよ。みなさん勉強があるとのことで、大変ですね」
「こんにちは! お久しぶりです。すみませんお世話になります」
「こんにちは! もーお母さんいつ見ても綺麗なんだからー」
「まあまあ、ふふふ、火野くんもイケメンで、優子ちゃんも美人さんに磨きがかかってますね」
火野と高梨さんがお母さんに褒められて照れている。くそぅ、これだからイケメンと美人は困る……。
「なぁ、玄関で話さないで上がってもらわないか……」
絵菜がぽつりとつぶやくと、お母さんは「まあまあ、そうでした」と言って僕たちを家に上がるように促した。僕たち三人はリビングに案内された。
「みなさん大変ですね、はい、お茶飲んで頑張ってくださいね。私は終わったのでみなさんを応援します!」
真菜ちゃんがそう言って僕たちにお茶を出してくれた。
「あ、真菜ちゃんありがとう。そういえば真菜ちゃんはバスケ部で頑張ってる?」
「はい! 優子さんも先輩方も優しくしてくれますし、自分なりに頑張っているつもりです」
「うんうん、真菜ちゃんニコニコ笑顔で頑張ってくれるから、助かってるよー。まぁ、いつ食べようか作戦を練っているところだけどね……ふふふふふ」
「た、高梨さん心の声が……でも、元気に頑張っているならよかったよ」
「うん、真菜も楽しそうにしているからよかった。あ、リビングとダイニングで分かれて勉強しようか」
「ああ、そうだった、団吉頼む、教えてくれー」
「私もー、よろしくお願いします日車先生!」
「ああ、いいよ、僕は課題は終わったから、みんなを教えることができるよ」
それからしばらく四人で勉強をした。みんな数学や英語に苦戦しているようだ。たしかに三年生になってさらに難しくなった。僕もこれまでは順調だったが油断しないようにしている。
「日車くん、ここが分からないんだけどー」
「ああ、ベクトルの問題だね、ここはこうして、こうなって……」
「ああ、なるほどー! さすが日車くんだねぇ、数学の知識がすごすぎて、同じ人間とは思えないよー」
「え!? い、いや、同じ人間だからね?」
「ああ、さすが団吉だぜ。昔から助けられてばっかだからなぁ。あ、そういやこの前団吉誕生日だったよな、おめでとう!」
「あ、ありがとう、急に言われると恥ずかしいな……」
「ふっふっふー、今年も日車くんのために陽くんと二人でプレゼントを用意したんだー。はいこれ、中は洋菓子なんだけど、絵菜にプレゼントしたものとはちょっと違うんだー」
「え、え!? あ、ありがとう、そんな、しなくてよかったのに……」
「いやいや、いつもお世話になってるしこれくらいやらせてくれ。団吉と沢井は誕生日に一緒に過ごせたのか?」
「あ、うん、映画観に行ってきたよ、楽しかった」
「おおー! 映画デートかぁ、いいねぇ、絵菜も嬉しかったでしょー?」
「う、うん、団吉と一緒にいたかったから、嬉しかった……アレもできたし」
絵菜が恥ずかしそうにちょっと下を向いた。あ、アレとは、もしかしてあーんのことだろうか。ふと思い出して顔が熱くなった。火野と高梨さんが「アレ?」と訊いてきたので、僕は「な、なんでもないよ、あはは」と慌てて話をそらした。
「そうか、映画デートもいいな、優子と今度行こうかな」
「いいねぇ、行く行く! あ、その前にこの難題を片付けないと……」
「そうだね、でも三人もだいぶ数学できてきたんじゃないかな、難しい問題もコツ教えれば解けてるし」
「ああ、団吉のおかげだぜ。課題もなんとかなりそうだし、俺らもちょっと学力ついたのかもしれねぇな」
「そうかもしれないねぇ、でもまだ一人だと不安だよー。これからもよろしくお願いします、日車先生!」
「わ、私も、これからも団吉に頼ることになるかも……」
「あはは、うん、僕でよければいつでも教えるよ」
その後もみっちりとみんなで課題をこなした。三人ともなんとか終わりそうでよかった。こうしてみんなに勉強を教えていることで、僕の中にある思いが芽生え始めていた。それが何なのか、分かるのはもう少し先の話――。
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