第22話「誕生日デート」
五月五日。今年は連休の真ん中で、僕の誕生日でもある。
僕は昨日と一昨日にバイトに入り、今日は休みにしていた。もちろん絵菜と一緒に出かけるためだ。ずっと楽しみにしていた。
昨日、今年も一日早く日向が誕生日プレゼントをくれた。茶色のペンケースだった。日向は「お兄ちゃんのペンケース、だいぶ古くなっていると思って」と言っていた。たしかに中学生の時から使っているものだったので、けっこう使い込んでいた。僕は日向にありがとうと言って、来月日向の誕生日に何をプレゼントしようかなと思った。
今日は絵菜が駅前で待ち合わせにしないかと言っていたので、遅れないように家を出た。外は晴れていて暖かい。歩いていると汗をかきそうだった。
駅前に着くと、絵菜がもう来ていたようで、僕を見つけて駆け寄って来た。絵菜は白のロゴ入りシャツ、紺のデニムパンツ、黒のスニーカーというファッションだった。動きやすい格好かな、男の子っぽい服装も可愛かった。
「お、おはよ」
「おはよう、ごめん、待たせたかな」
「ううん、さっき来たとこ。じゃあ行こうか」
絵菜がきゅっと手をつないできた。昨日絵菜と『明日どこに行こうか?』とRINEで話していると、絵菜が『また映画を観に行かないか?』と言っていたので、僕たちはショッピングモールへ行くことにした。そうだ、初めて絵菜とデートした時も映画を観たのだ。あの時のことはハッキリと覚えている。
ショッピングモールに着いて、二階の映画館へ行く。
「なんか観たい映画があったの?」
「ああ、あれがちょっと気になって」
絵菜が指差した先には、四月から公開が始まった人気長編アニメの続編があった。僕も前作は観ていて面白かったのを覚えている。
「ああ、あれか、いいね」
「うん、あ、もうすぐ始まるな、行こうか」
飲み物と小さなポップコーンを買って、映画館の中へと行く。けっこう人がいるみたいだ。さすがゴールデンウィークだなと思った。
席に着いてから、絵菜がまたそっと僕の左手を握ってきた。僕はふと初めてのデートを思い出した。映画の途中で絵菜がそっと手を重ねてきたのだ。僕はドキドキして絵菜の手を握ったな。
そんなことを思っていると、映画が始まった。コミカルで笑える場面も多く、楽しい作品だ。その中にちょっと感動する場面もあって、ジーンときてしまった。さすがに涙は出ないが。
終始楽しく、とてもほっこりした。映画が終わって、館内が明るくなる。
「面白かったね、ヒロインを助けに行くシーンとか、よかったよ」
「うん、面白かった。あ、昼だな、何か食べる?」
「あ、そうだね、絵菜が食べたいものでもいいけど」
「そうだな……じゃあ、ハンバーガーで」
絵菜がハンバーガーと言ったので、僕たちはフードコートへと移動した。お昼ということで賑わっていた。座れるかな……と思っていたら、
「あ、持ち帰りにして、ここの隣の大きな公園で食べないか?」
と、絵菜が言った。なるほど、今日は晴れていて暖かいし、外で食べるのもよさそうだ。
「そうだね、そうしようか」
僕たちはハンバーガーを持ち帰りにして、ショッピングモールの隣の大きな公園に行った。外は晴れていて気持ちがいい。公園にも人はそこそこいたが、僕たちは空いているベンチを見つけて二人で腰掛けた。
ポテトを食べようとしていると、絵菜がチラチラとこちらを見ていることに気がついた。
「ん? どうかした?」
「あ、いや、その……団吉、あ、あーんして」
絵菜が顔を真っ赤にしてポテトを僕に差し出してきた。え!? あ、あーんって、食べさせてくれるっていうアレ!?
「あ……じゃ、じゃあ……」
僕も顔が熱くなった。口を開けると、絵菜がポテトをそっと僕の口に持って来た。そのまま食べる。
「お、美味しい?」
「う、うん、は、恥ずかしいね……じゃあ、お返し。絵菜もあーんして」
顔が真っ赤のままの絵菜も口を開ける。僕がポテトを口に持っていくと、パクっと食べてくれた。
「美味しい?」
「うん、美味しい。い、一度やってみたかった」
「そ、そっか、恥ずかしいけど、嬉しいよ」
ハンバーガーを食べ終わって、絵菜が「あ、そうだ」と言って鞄をガサゴソと漁っていた。何だろうと思ったら、
「団吉、誕生日おめでとう。これ私と真菜からプレゼント。気に入ってもらえるといいけど」
と言って、包みを渡してきた。
「え、え!? あ、ありがとう、ご、ごめん、また気を遣わせてしまったみたいで」
「ううん、よかったら開けてみて」
絵菜に言われて、僕は包みを開けてみる。そこにあったのは――
「……あ、万年筆!?」
「う、うん、去年日向ちゃんにプレゼントしてて、なんかよさそうだったから、カッコいいものを選んでみた」
「そっか、うん、嬉しいよ、本当にありがとう。日向からペンケースをもらったから、ずっと入れておこうかな」
絵菜だけでなく、真菜ちゃんからももらってしまった。けっこう高かったんじゃないだろうか。後で真菜ちゃんにRINEを送っておこうと思った。
「そういえば、絵菜と初めてデートした時も映画観に行ったよね」
「うん、あの時は本当にドキドキしてた……男と二人で出かけたことなかったし、団吉がカッコよくて」
「あはは、僕も女の子と二人で出かけたの初めてだったよ。絵菜もいつも以上に可愛かったよ。手をつないだり名前で呼んでほしいって言われて、ドキドキしてたな……前にも訊いたけど、あの時から僕のこと好きだったんだよね?」
「え、あ、うん……気になってて、いつも団吉のこと考えてた」
「そっか、それに比べて僕は本当の気持ちに気がつくのが遅かったなぁ、恥ずかしい」
「ふふっ、でも私のお願いも聞いてくれて、嬉しかったよ」
絵菜が僕の左肩に頭を乗せてきた。
「もうちょっとこのままのんびりしていようか。風が気持ちいいね」
「うん、あ、後で猫見に行ってもいいか?」
「うん、僕も本屋に寄りたいかも。色々見て回ろうか」
僕は絵菜の綺麗な金色の髪をそっとなでた。二人のこの時間がとても嬉しかった。これからも一緒にたくさんいい思い出を作っていきたい。
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