第21話「平日」

 五月最初の月曜日、今日は平日なのでもちろん学校がある。連休の間の平日ということで少しだるい感じがしたが、仕方ない。

 朝、偶然中川くんと玄関で一緒になり、「そういえば東城さんと潮見さんは、大丈夫だった?」と訊かれた。そ、そういえば中川くんに話してなかったと思って、ごめんと謝って二人が仲直りしたことを伝えると、「そっか、いや、謝らなくていいんだ。仲良くなったなら日車くんも安心だね!」と言っていた。

 日向が言っていたのだが、あれから東城さんがたまに遊びに来るらしい。日向と真菜ちゃんと梨夏ちゃんと東城さんで女子の秘密の話をしているとのことだ。う、うーん、女子の秘密の話って何だろうか。まぁ、中川くんの言う通り、仲良くやっているのなら安心する。

 今日も午前中の授業が終わり、僕と絵菜は学食へ向かう。なんとなくボーっとしているような火野と高梨さんがいた。


「おーっす、なんか連休の間の平日って力入らねぇなー……」

「やっほー、わかるー、なんかだるいよねぇ、なんで学校あるんだろ……」

「お、お疲れさま、まぁ、だるいけど仕方ないよ、僕たち学生は学業が本業なんだし」

「まぁ、そうなんだけどさ、こんな時大人は有給休暇? とやらを使うのかなー、いいなー」

「……そういえばニュースでは大型連休とか話してる、そうなのかも」


 たしかに絵菜の言う通り、世間は九連休がどうとか話してたな。くそぅ羨ましい。


「そうだよなー、あ、全然話違うんだけど、もうすぐインターハイ予選が始まるぜー」

「あ、そうなのか、もしかして三年生は最後の大会になるのか?」

「ああ、ここで終わる奴と、冬の大会まで残る奴といるな。俺と中川は進学もあるしインターハイで終わることにしているよ」

「あー、うちももうすぐ始まるよー。ついに来たなーって感じだねぇ」

「なるほど、高梨さんもインターハイで終わり?」

「うん、冬の大会まで残る子もいるみたいだけど、私も一応進学を考えているからねぇ、ここで終わりにしようと思ってるよー」

「そっか、二人とも最後の大会なんだね、なんか寂しいような気がするね」

「ああ、最後の大会は思いっきり暴れてやろうと思ってな。悔いが残らないように」

「そだねー、マジで頑張っちゃおーっと。ほんとここまで頑張れて嬉しいよー」


 火野と高梨さんがぐっと拳を握った。


「二人とも頑張ってきたもんね。あ、試合って観に行けるのかな?」

「おう、サッカーはちょっと離れた競技場であるんだけど、よかったら団吉も沢井も観に来てくれねぇか?」

「うん、最後と聞いたら行きたくなったよ。絵菜も行ける?」

「うん、火野と中川のカッコいいところ観たい」

「いいねぇ、私も試合が重なってなかったら行こーっと」

「優子、バスケはどこであるんだ?」

「ああ、市の体育館であるよー。ちょっとだけ遠いけど、試合が重なってなかったらみんな観に来てくれる?」

「うん、優子のカッコいいところも観たい」

「あはは、絵菜ったら可愛いんだからーこのこのー」


 高梨さんがそう言って絵菜の頬をツンツンと突いている。


「よっしゃ、久々にあれやらねぇか? 気合い入れるためにさ」


 火野が右手を出してきたので、みんなでグータッチをした。うん、サッカー部もバスケ部も勝ち上がってもらいたいな。



 * * *



「ふぅ、今度の部長会議と委員長会議の準備はこんなもんでいいかしら」


 放課後、僕と九十九さんと大島さんと天野くんの生徒会メンバーは生徒会室に集まって、定期的に行われている会議の準備をしていた。


「はい、こんなところじゃないでしょうか。僕たちもだいぶ慣れて準備もスムーズになりましたね」

「うん、そうだね、でも僕と九十九さんと大島さんは三年生だし、八月のオープンスクールで生徒会の活動も終わりか……」

「そうだね、もう少しあるけど、なんかここまで早かったというか……」


 去年と同じ流れでいくと、七月に次の生徒会役員が決まって、僕たちは八月のオープンスクールで終わりとなる。もう少し頑張らないといけないが、九十九さんの言う通り、ここまであっという間だったような気がする。


「そっか、八月で先輩方ともお別れなんですね……急に寂しくなってしまった……」

「ま、まあまあ、まだ卒業というわけじゃないし、学校でいつでも会えるよ」

「そうよ、それにまだ八月まで会議やイベントも多いでしょ、寂しくなるのは早いわよ。これからも頑張っていかなくちゃね」

「は、はい、頑張ります……! 先輩方、よろしくお願いします!」


 天野くんがペコリとお辞儀をした。


「うんうん、みんなでまだまだ頑張っていかないとね。あ、そうだ、久しぶりにこの四人でどこか出かけてみる?」

「ああ、いいわね、去年はハンバーガーショップやカラオケに行ったわね。また行くのも楽しいんじゃないかしら」

「いいですね! あ、そしたら九十九先輩が行ったことがないところに行くというのはどうでしょう?」

「え、わ、私……!?」


 みんなで一斉に九十九さんを見る。


「あ、それもいいかもしれないね。九十九さん、行きたいところない?」

「い、行きたいところか……うーん……」


 少し考え込むような仕草を見せた九十九さんだったが、「あ」と言った後すぐに、


「み、みんなでファミレスっていうところに行ってみたいかも……」


 と言った。


「あ、ファミレスか、九十九さんは行ったことないんだね、うん、いいんじゃないかな」

「いいですね、よし、ファミレスに行きましょう! 駅前からちょっと歩いたところにありましたね」

「そうね、お昼ご飯を食べるのもいいんじゃないかしら、今度みんなで行きましょ」

「あ、ありがとう、ファミレスにも行ったことないのかってバカにされるかと思った……」


 ふと気がつくと、いつの間にか九十九さんが僕の隣に来ていた。


「あ、ううん、そんなことないよ。何事も経験が大事だよね」

「う、うん、日車くんと一緒なら安心できるし……頼らせてもらってもいいかな?」


 そう言って九十九さんが僕の手をきゅっと握ってきた。


「え!? あ、うん、いつでも頼ってもらえれば……あはは」

「つ、九十九さん!? くっ、日車くんの隣は危険すぎる……ブツブツ」

「お、大島さん? 危険ってどういうこと……?」


 なぜか慌てる大島さんに、きょとんとした顔の九十九さん、そしてそれを見て笑う天野くん。僕たちはいつも通りだった。

 この四人で過ごす時間も大切な時間だ。これからも力を合わせて頑張っていこうと思った。

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