第20話「もうすぐ連休」

 四月末になり、ゴールデンウィークが近づいてきた。いや、社会人は有給休暇とやらをとることで休みを長くすることができると思えば、もうゴールデンウィークと言っていいだろう。今年は今日の四月二十九日、明日の三十日が休みで、その後二日学校に行った後五連休がある。少し楽しみにしていた。

 だが、楽しいことばかりではない。今年も連休があるからと各教科たくさん課題が出た。うーん、遊んでいる場合じゃないということか。僕もひっそりと気合いを入れて、今日はバイトも休みをもらって勉強しておくことにした。バイトはここのところ頑張って入っていたし、ゴールデンウィークも入るつもりなので問題なかった。

 部屋で勉強をしていると、コンコンとノックする音が聞こえた。「はい」と言うと、日向が入ってきた。


「お兄ちゃん、ジュース持って来たよ……って、あれ? 勉強してるの?」

「ああ、ありがとう、課題もたくさん出たからやっておこうと思って。あれ? 日向は部活はないのか?」

「今日は休みだよ。でも明日からまた練習があるから、頑張らないと」


 日向がそう言って力こぶを作った。そう、日向もサッカー部のマネージャーとして毎日頑張っているようだ。火野から話を聞く限りでは、先輩や同級生からも可愛がってもらっているみたいだ。


「そっか、まぁ、無理しすぎない程度に頑張ってな」

「うん! あ、そういえばもうすぐあの日だね」

「ん? あの日って?」

「えー!? お兄ちゃん本当に分からないの? 大丈夫かな……お兄ちゃんの誕生日だよ」


 日向にそう言われてふと気がつく。そうだ、僕の誕生日である五月五日が近づいているのだ。今年は六日も七日も休みのため、ゴールデンウィークが終わる悲しい日ではなかった。


「ああ、そうだった。そういえば去年は絵菜と水族館に行ったなぁ」

「お兄ちゃん、自分の誕生日すぐ忘れるよね……今年も絵菜さんとデートするんでしょ?」

「え、あ、特に決めてなかったけど……」

「えー、お兄ちゃん、勉強も大事だけど遊びも大事だよって私に言ってたじゃん」


 日向がやれやれといった顔をした。た、たしかに、勉強も大事だがたまには息抜きも必要だ。


「うーん、たしかにそうだなぁ、今年も絵菜とどこかに行こうかな」

「うんうん、そうしなよー。あ、私ももちろんプレゼント用意してるからね、お楽しみに!」

「お、おう、分かった」


 その時、インターホンが鳴った。あれ? 宅配便かな? と思って日向と出てみると、なんと絵菜と真菜ちゃんが来ていた。


「ああ、いらっしゃい……って、あれ? 何か言ってたっけ?」

「こ、こんにちは、いや、真菜が課題があるから教えてほしいって言ってたんだけど、私じゃ全部はうまく説明できなくて……」

「お兄様、日向ちゃん、こんにちは! ふふふ、お姉ちゃんもお兄様に会いたそうにしていたので」

「なっ!? あ、まぁ、そうかも……」

「あはは、絵菜さん、真菜ちゃん、こんにちは! ささ、すぐお席用意しますので上がってください!」

「おーい、やっぱりここがどこかのお店みたいだなぁ」


 僕と日向のやりとりに、絵菜と真菜ちゃんは笑った。

 とりあえずリビングに案内すると、キッチンにいた母さんがニコニコしながらやって来た。


「あらあら、二人ともいらっしゃい」

「あ、おじゃまします、す、すみません急に来てしまって」

「いいのいいのー、団吉も日向も嬉しそうだからねー」

「え!? あ、まぁ、そうかも……」

「ふふふ、お兄様とお姉ちゃん、同じこと言ってますね。似た者夫婦ってやつかなぁ」

「え!? い、いや、夫婦にはまだ早すぎるんじゃないかな……あはは。あ、真菜ちゃん課題があるんだって?」

「ああ、そうなんです、連休だからとどの教科もたくさん出てしまって、教えてもらえると嬉しいです」

「うん、いいよ。でもその前にちょっと待ってね……おい日向、逃げようとするな」


 そーっとリビングから消えようとする日向の腕をつかんだ。


「な、何でバレたのかなー……あはは」

「あははじゃないよ、真菜ちゃんに課題があるということは、お前にもあるんだろ。ここで一緒に勉強な」

「う、ううー、お兄ちゃんが厳しい……アホー」


 ぶーぶー文句を言う日向を見て、みんな笑った。



 * * *



 しばらくリビングとダイニングで四人で勉強をしていた。日向と真菜ちゃんはもちろん一年生の内容だが、僕たち三年生も受験のためには必要になる知識がある。二人に教えながら自分の復習にもなるのでちょうどよかった。

 絵菜は数学をやっていた。微分と積分の内容がよく分からないらしく、僕が丁寧に教えた。大西先生のハイスピード授業も困るところがあるな。


「あ、お兄ちゃん、三時になったよ! ちょっと休憩しようか、おやつとってこようかな!」

「お、おう、急に元気になるな……真菜ちゃん分かった?」

「はい、さすがお兄様です、分かりやすくてどんどん進みました。お兄様はなぜそんなに勉強ができるのですか?」

「え、な、何でだろう……考えたことないかも。でも、たぶん勉強が嫌いではないんだろうね。新しい知識が身につくのが嬉しいというか」

「ふふっ、さすが団吉だな、私なんて躓いてばかりで」

「ううん、絵菜も最初の頃に比べると全然違うよ。よくできてるよ」


 うちで初めて絵菜に勉強を教えたのが懐かしかった。あの頃から比べると絵菜もかなり頑張っていると思う。


「そ、そうかな……たしかに最初の頃よりはできてる……のかな」

「うんうん、あ、そうだ絵菜、来月の五日空いてる?」

「ん? あ、五日って、団吉の誕生日か、そ、その、団吉に会いに行こうと思ってた……」

「そ、そっか、じゃあ、どこかに出かけない? どこにするかは決めてないけど」

「うん、分かった、楽しみにしてる」


 絵菜が嬉しそうに笑顔を見せた。か、可愛い……と思っていると、戻って来た日向と真菜ちゃんにニヤニヤされた。う、うう、恥ずかしい……。

 それからみんなでおやつをいただいた後、また少し勉強をして、その後ゲームをして楽しんだ。やはりゲームになるとみんな僕を狙ってきている気がするが、気のせいということにしておこう。

 それにしても、五日は絵菜とどこに行こうかなと、ぼんやりと考えていた。

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