第19話「体力テスト」
ある日の体育の時間。今日はこの時間を使って体力テストが行われる。
項目の説明を体育の先生が行っていたのだが、けっこう細かく分かれているみたいだった。握力、上体起こし、長座体前屈、反復横跳び、五十メートル走、立ち幅跳び、ハンドボール投げが行われる。最初に記録するカードみたいなものが配られた。
「よーし、それじゃあみんな一つずつやっていってくれー」
体育の先生がそう言って、みんなワイワイと話しながらそれぞれの項目を行っていく。僕は最初は握力から測ってみることにした。火野と違って筋肉もそんなにないしあまり自信はないのだが、ぐっと力を入れる。三十八キロか。平均よりは少しだけ下だった。
「……あ、日車くん、どうだった?」
同じように握力を測り終わった相原くんが話しかけてきた。
「あ、三十八キロだったよ。平均には届かなかったみたい。相原くんはどうだった?」
「……俺は三十五キロだった。あまり力はないから仕方ないかも。あ、この後一緒に測っていかない?」
「うん、いいよ、一緒に回ろう」
「ひ、日車くん、相原くん、ぼ、僕も一緒にいいかな?」
相原くんと話していると、木下くんがやって来た。
「あ、うん、いいよ、木下くんは握力どうだった?」
「ぼ、僕は四十五キロだったかな、まあまああったみたい」
「……おお、すごい」
「おお、すごいね、木下くん力強いんだなぁ」
その後三人で上体起こし、長座体前屈、反復横跳びを行った。反復横跳びは平均より上だったが、上体起こし、長座体前屈は平均よりも少し下くらいだった。うーん、体が硬いのか、運動不足なのだろうか。歩くようにはしているんだけどな。
「ど、どれもきついね……な、なかなか平均にいかなくて悲しいよ……」
「そっか、まぁ僕も似たようなものだよ。けっこう難しいもんだね。相原くんはよくできてたみたいだね」
「……平均よりは上をいけたみたい。それにしてもあいつまた一緒のクラスだったんだね」
相原くんの視線の先には、なぜかでかい声を出している野球部のクラスメイトがいた。ああ、君また同じクラスだったのか。その野球部のクラスメイトは僕たちを見つけると、ズンズンと近づいてきた。
「よう、帰宅部諸君、頑張っているかな?」
「……帰宅部だから何? 部活に入っているのがそんなに偉いの?」
「当たり前だ、文武両道という言葉を知らないのか? まぁバカには分からんか」
「……勉強は日車くんに勝ってからデカい口叩いた方がいいと思うよ。恥ずかしい」
うーん、去年もそうだったが、この二人の相性は最悪だった。野球部のクラスメイトが突っかかって来るのがあまりよくないのだが……。
「なに? おい相原、次の五十メートル走勝負しろ! 前はまぐれで負けたからな、今回はお前に恥かかせてやる」
「……めんどくさいなぁ、まぁいいや。日車くん、木下くんごめん、こいつと勝負して来るよ」
野球部のクラスメイトが言う通り、次は五十メートル走だ。僕と木下くんが一緒に走る。スタートは同じだったが、中盤から少しずつ差がつき、僕が先にゴールした。タイムは平均よりは速いからいいか。
「ひ、日車くん速いね、ぼ、僕は足が遅いからなぁ」
「いやいや、僕よりももっと速い人があそこにいるからね……」
僕の視線の先には、相原くんの姿があった。隣には野球部のクラスメイトがいる。
二人がスタートする。スタートはほぼ同じか。でも中盤からぐんぐんとスピードに乗った相原くんが突き放し、そのまま先にゴールした。やはり相原くんは足が速かった。体育祭で火野と互角だったもんなぁ。
「な、なんだと……!? お、おい、ズルしただろ!?」
「……スタート一緒だったのに、何言ってるの? 文武両道って言いたいのなら両方とももうちょっと頑張ったら?」
「く、くそ……! 言われなくても頑張るに決まってるだろ!」
野球部のクラスメイトが吐き捨てるように言って向こうへ行ってしまった。う、うーん、ここまでボコボコにされると逆にかわいそうな気がしてきた。
「相原くんさすがだね、やっぱり火野と互角だっただけあるなぁ」
「あ、相原くん、足速いんだね、か、カッコいいよ」
「……そ、そうかな、そういえばまた火野くんと勝負したいな……今度は負けたくない」
それから立ち幅跳びとハンドボール投げを三人で行った。この二つはどちらも平均より上だった。うん、全体的に見ると平均より上のものも多かったし、よかったのではないだろうか。
「だ、団吉……! みんなお疲れさま」
その時、呼ばれる声がした。振り向くと絵菜がこちらに来ていた。
「……あ、沢井さんだ」
「さ、沢井さん、お、お疲れさま」
「あ、絵菜、お疲れさま、絵菜は終わった?」
「うん、平均よりは上で安心してたとこ。団吉はどうだった?」
「僕も全体的に見ると平均よりは少し上みたいだよ。あ、絵菜は五十メートル走がやっぱり速いね、平均よりかなり上だ」
「う、うん、昔から足は速いみたい」
「ふふふふふ、日車くん、結果が出たみたいね、さぁ勝負よ!」
四人で話していると、大島さんがニコニコしながらやって来た。
「え!? い、いいけど、大島さんそんなに運動得意だったっけ……?」
「何でも勝負してみないと分からないわよ! ……って、あ、あれ? これも負けてる、ああこれも負けてる、うう、これもだわ……お、おかしいわね、なぜ日車くんに勝てないのかしら……」
「い、いや、小学生くらいなら分からないけど、高校生になったら男女の筋力や体格差もあるし、どうしても男が勝つのでは……」
「はっ!? そ、そうね、たしかに男の子の体力には勝てないのかも……ま、負けたわ……」
「……大島って本当はかなりバカなのでは……」
「……この前から大島さんの思考回路がちょっと心配になってしまうよ」
「お、大島さん、さ、さすがに女の子は勝てないんじゃないかな……」
「なっ!? そ、そんなことないわよ、や、やっぱり私たちはテストで勝負しないとね! 今年は模試も多くなるだろうし、負けないわよ!」
切り替えの早い大島さんだった。
「えぇ、また言ってるの……まぁ、どんな戦でも負けないんだけどね」
「ひ、日車くん、やっぱり変わったわね、まぁそうこないと面白くないわ」
「……まぁ、団吉に勝つのは無理だから、諦めた方がいい」
「さ、沢井さん!? くっ、このまま負けっぱなしになるものですか……!」
なぜかやる気を見せる大島さん。う、うーん、今はそっとしておいた方がよさそうだ。
体力テストも終わってほっとしていた。山登りの時にも思ったが、やはりもっと運動をした方がいいのかもしれない。
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