第18話「最後の山登り」

 山登りの日となった。

 去年までと同じく、今日は一日ジャージで過ごすことになる。朝からジャージを着て登校した。まぁ、たまにはいいのではないかと思う。

 今年も学年別、クラス別になって山登りは行われる。日向に聞いたら日向のクラスは明後日だと言っていた。今日は三年五組から八組までのクラスが山登りを行う。

 グラウンドに行くと、みんながいるのが見えた。


「あ、団吉おはよ、ごめん、今日も朝一緒に行こうと思ってたんだけど、ちょっとバタバタしてて」

「おはよう、ううん、また今度一緒に行こうか」

「……はいはい、お二人ともそこまでよ。沢井さんは班が違うでしょ、ちゃんと班で集まりなさい」

「……くっ、大島め、邪魔してきやがって……」


 今日も朝から絵菜と大島さんの相性は最悪だった。そろそろ仲良くしてくれないかな……。


「……みんなおはよ。なんか去年を思い出すよ」

「あ、相原くんおはよう。そうだね、あの時相原くんと初めて話したよね」

「……うん、あれから俺は変わったんだ。う、嬉しいというか……」


 相原くんが顔をポリポリとかいている。恥ずかしいのだろうか。


「みんなおはよう。今日は頑張ろうね」

「あ、九十九さんおはよう。うん、でもあまり無理しすぎないでね」

「う、うん、みんなの足手まといにならないように頑張る……」

「あら、日車くんじゃない。おはよう」


 みんなと話していると声をかけられたので見ると、北川先生がジャージ姿で立っていた。


「あ、おはようございます。あれ? 北川先生もジャージ姿ということは……」

「そうよ、私も参加するの。毎年三年生と一緒に歩くことにしているのよ。歩きながらカッコいい人がいないか見ておかないとね……ふふふふふ」

「そ、そうですか……」


 や、ヤバい、聞いてはいけないことを聞いた気がする。そっとしておこう……。


「よーし、そろそろ出発するぞー、班で固まって行動しろよー」


 大西先生が大きな声を出した。これから四十分くらい歩いて、さらに一時間くらい山を登る。僕たちの班は僕と九十九さん、後ろに相原くんと大島さんとなって歩き始める。


「お、おかしいわね、やっぱり日車くんの隣に九十九さんがいる……どういうことかしら……ブツブツ」

「お、大島さん? 九十九さん大丈夫? あまり急がないようにね」

「う、うん、まだ大丈夫……ありがとう、心配してくれて」

「……この一年で、日車くんがモテる要因がよく分かった気がするよ」

「え!? い、いや、モテてはいないんじゃないかな……あはは」


 みんなで話しながら歩いて、山のハイキングコースに入る……のだが、少しずつ九十九さんと大島さんが遅くなってきた。


「や、やっぱり日車くんと相原くんは元気ね……ど、どうなってるの……」

「ひ、日車くんも相原くんもすごい……こんなに歩いてるのに……」

「ふ、二人とも大丈夫? 焦らなくていいから、ゆっくり行こうか」

「……うん、まだまだあるし、二人のペースに合わせるよ」

「だ、団吉……!」


 その時、後ろから声がした。振り向くと絵菜たちがいた。


「あ、絵菜たちも来たね、大丈夫? きつくない?」

「う、うん、ちょっと疲れてきたかも……団吉さすがだな、全然きつそうじゃない」

「ああ、まだ大丈夫みたい。みんなでゆっくり行こうか」

「さ、沢井さんは別の班でしょ……って、だ、ダメだ、突っ込む元気がないわ……」

「あははっ、日車も相原もさすがだなー! こっちは大悟と富岡がきつそうにしてたよ、大丈夫かー?」

「う、ううん、け、けっこうきつい……ま、まだまだあるんだね……」

「も、もうダメかもしれません……ひ、日車さんと相原さんはさすがですね……この一年で仲良くなった二人は……はっ、わ、私何考えてるんだろう」


 みんなの頭の上にハテナが浮かんだ。ヤバい、富岡さんが疲労でトリップしそうになっている。


「と、富岡さん落ち着いて……でも、みんなでゆっくり歩けば楽しいんじゃないかな」


 それから僕と相原くんと、なぜか元気な杉崎さんを先頭にして、ゆっくりとみんなで歩いた。絵菜も足が速かったり運動は出来る方だが、ずっと歩くのはきついみたいだ。みんなの疲労がピークに達しようかとした頃、僕たちは山頂に着いた。山頂は開けた場所があって、ここでしばらく自由時間となる。


「あははっ、みんなお疲れー! 顔がすごいことになってんぞー」

「す、杉崎さんも元気ね……私はもうダメだわ……座らせて……」

「ひ、日車くんも相原くんも杉崎さんも、平気そうな顔してる……す、すごい、私ももうダメかも……」

「う、うう、や、やっと着いた……さ、三人はすごいね」

「さ、三人ともすごいです……わ、私ももうダメかもしれません……ちょっと休憩します……」


 四人がそう言ってへなへなと座り込んでしまった。あ、よく見ると北川先生が大の字で横になっている。


「だ、団吉お疲れさま、けっこうきついな……団吉はきつくないのか?」

「お疲れさま、僕もちょっと疲れてるよ、でもなんか心地いい疲れというか」

「そ、そっか、さすがだな、カッコいい……」

「……二人は本当に仲が良いよね。いいな、想いを寄せる人が近くにいて」


 僕と絵菜を見て、相原くんが少し寂しそうな顔をした。


「そっか、そういえば相原はオーストラリアに……」

「……あれ? この話沢井さんにしたっけ?」

「あ、ぼ、僕がちょっとだけ話してしまって……ご、ごめん」

「……そっか、いや、いいんだ。でも、二人に負けないくらい大事に想ってるよ」


 そう、相原くんが好きな人は日本にはいない。遠く離れたオーストラリアにいる。でも、相手を想う気持ちがあれば遠くても関係ないと思う。


「うん、今年日本に行けるかもしれないって言ってたね。また会える日も近いのかも」

「……うん、その日を楽しみにしてるよ」


 座り込んでいた四人がなんとか復活したので、みんなで昼ご飯を食べることにした。やはり外で食べるというのもいいものだ。

 昼ご飯を食べた後、しばらくみんなで談笑した。少し風も吹いていて気持ちがいい。みんな疲れていることを忘れて笑顔になっていた。

 その後帰る時間になって、またみんなで来た道を戻る。行きでヘロヘロになっていた四人がまた遅れそうになっていたので、他の四人はペースを合わせて歩いた。

 さすがに僕も疲れたけど、気持ちがよくてとても楽しい気分だった。やはり運動はするべきだなと改めて思った一日だった。

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