第16話「衝突」
ある日、僕と絵菜は学食で昼ご飯を食べて、火野と高梨さんと少し話してから教室に戻ろうとしていた。
「団吉、今日は放課後何かあるのか?」
「ん? いや、今日は何もないよ、一緒に帰ろうか」
「うん、あ、駅前にちょっと寄りたいんだけど、いいか?」
「うん、いいよ、僕も駅前の本屋に行きたいんだった。ちょうどよかったかも」
絵菜がニコッと笑った。放課後に生徒会の集まりなどがない時は、なるべく絵菜と一緒に帰ることにしている。絵菜と一緒にいたいという気持ちが大きかった。
学食を出て廊下を歩いていたその時、
「――あ、日車くんと、沢井さん!」
と、声をかけられた。見ると中川くんが手を振ってこちらに来ていた。
「あ、中川くん、お疲れさま」
「二人ともお疲れさま! そういえば昼休みは学食だったね」
「うん。あ、そういえばうちの日向と、長谷川くんがサッカー部に入ったけど、どう? 練習についていけてる?」
「ああ、そうだった、長谷川くんはブランクがあると言っていたけど、基礎は出来ているから大丈夫そうだよ。体力面がちょっと心配だけど、それはこれからつけていけばいいしね。日向ちゃんも元気に頑張ってくれているよ。みんなに『可愛いねー』っていつも言われているね!」
そう、日向と長谷川くんがサッカー部に入ってしばらく経つ。部活なので、当然日向は僕よりも帰りが遅くなっている。疲れはあるみたいだが、楽しそうなのでこのまま頑張ってほしいと思っていた。
「そっか、二人とも元気に頑張っているならよかったよ」
「ふふっ、団吉も日向ちゃんのことが心配なんだな。よく『大丈夫かなぁ』って言ってたもんな」
「え!? あ、まぁ、これまで部活とかにはあまり興味がなかったみたいだから、ちょっと気になったというか」
「あはは、大丈夫、日向ちゃんは日車くんが思っている以上にしっかりしてるよ。いつも笑顔で可愛くて素晴らしい! そういえば、沢井さんの妹さんもバスケ部のマネージャーになったと聞いたんだが」
「あ、うん、真菜も大変そうだけど、元気に頑張っているみたい」
「そっか、今年の一年生は元気があっていいね! 俺も負けないようにしないとな」
「――あ、団吉さん! 絵菜さん!」
中川くんと話していると急に呼ばれたので振り返ると、東城さんがニコニコしながらこちらに来ていた。
「あ、東城さん、こんにちは」
「こんにちは! 今日もお二人は仲がいいようで、羨ましいです!」
「え!? そ、そうかな……あはは。あ、東城さんははじめましてかな、こちら、サッカー部部長の中川くん。中川くん、こちら二年生の東城さん」
「あ、はじめまして! 二年二組の東城麻里奈です!」
「あ、はじめまして、三年一組の中川悠馬です。驚いたな、日車くんこんな可愛い子と知り合いなのか」
中川くんがサラっと東城さんを褒める。くそぅ、こういうところが中川くんがモテる要因だよなぁ。
「ありがとうございます! えへへー褒められちゃった、団吉さんももっと褒めてくれていいんですよ! なんちゃって」
東城さんがニコッと笑顔を見せた。くそぅ、やっぱり可愛い。
「え、あ、まぁ、東城さんはいつも可愛いから……はっ!?」
ふと絵菜の方を見ると、少しだけ頬を膨らませていた。も、もしかして嫉妬してるのかな……。
「――あ、だんちゃん!」
その時、いつか呼ばれたような気がするあだ名で呼ぶ声がした。ふと見ると、梨夏ちゃんがこちらに来ていた。
「あ、梨夏ちゃん、お久しぶり」
「こんちわ! あの、この前はごめんなさい、私ついだんちゃんとだいごろーにくっついちゃって……」
「あ、いや、大丈夫だよ、気にしないで。梨夏ちゃんが落ち込んでないかと……」
「うん、ひなっちとまなっぺからも優しくしてもらって、元気出てきたよ! ありがと! それにしてもだんちゃん何してたの?」
「……だ、だんちゃん……!?」
ふと東城さんを見ると、プルプルと震えているようだった。あ、あれ? どうしたのだろうか。
「あ、中川くんと東城さんははじめましてだね、こちら日向たちの友達で、潮見さん。梨夏ちゃん、こちらが中川くんで、こちらが東城さん」
「そーなんだね! こんちわ! 一年三組の潮見梨夏と言いましてございます……あれ? やっぱり変だな?」
「あ、はじめまして、三年一組の中川悠馬です。また驚いたな、日車くんこんな可愛い子とも知り合いなのか」
中川くんがまた褒めて、梨夏ちゃんが「私のこと!? えへへー」と嬉しそうだった……が、東城さんの様子がどこかおかしい。な、何かあったのだろうか。
「……団吉さん、この敬語がなってない子は、何なんですか……」
「あ、り、梨夏ちゃんはちょっと敬語が苦手なところがあって……」
「だんちゃーん、このおばさんちょっと怖いんだけどー」
「お、おば……!?」
「え!? い、いや、東城さんは一つ年上の先輩だよ……」
「じゃあこの人は『おばさん』だねー、中川さんは悠馬か……そうだな、『ゆーまん』で!」
「ゆ、ゆーまん……?」
「あ、中川くん、ごめん、梨夏ちゃんはあだ名で呼びたがるところがあって……」
「あ、そ、そうなんだね、初めて呼ばれたからちょっとびっくりしちゃったよ」
中川くんと梨夏ちゃんは楽しそう……なのだが、東城さんが下を向いてまたプルプルと震えているように見えた。
「と、東城……? 大丈夫……?」
絵菜が声をかけるが、東城さんの反応がない……と思っていたら、
「誰がおばさんですか! 私は『東城先輩』です! こちらは団吉先輩と絵菜先輩と中川先輩! あなた何なんですか!」
と、大きな声を出した。
「わー、だんちゃん、このおばさんなんか怒ってる? 怖くない?」
「だ、か、ら! 団吉先輩です!」
「わ、わーっ! ふ、二人とも落ち着いて……け、ケンカはよくないよ……な、仲良くしよう?」
「と、東城、落ち着いて……みんなこっち見てる……」
「団吉さん、絵菜さん、ここはしっかりと言っておくべきだと思いますよ! この子の今後のためにも!」
「わー、だんちゃん、助けてー」
東城さんが「ぐぬぬ……」と言いながら梨夏ちゃんを睨んでいる。と、とんでもないことになってしまった。まさか東城さんと梨夏ちゃんがぶつかってしまうなんて……ど、どうすればいいのかと考えてみたが、僕の力ではどうにもできないような気がした。
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