第15話「一緒の班」

「はーい、それでは山登りの班決めを行いまーす。四人の班を作って、リーダーを決めて、報告に来てくださーい」


 学級委員の言葉に、五組のみんなが「はーい」と返事をする。今日は今度行われる山登りの班決めをホームルームで行う。四月に山登りをするのがうちの高校の伝統だった。そういえばあの間延びした喋り方をする子、今年も一緒のクラスになって学級委員をやっているのか。もしかしたら元々ああいう喋り方なのかもしれない。

 それはいいとして、また四人の班を作らないといけない。誰と組もうかと思っていたら、


「だ、団吉、一緒の班にならないか……?」


 と、絵菜が僕の席に来て言った。そうだ、去年は一緒のクラスではなかったので、絵菜が悔しそうにしていたのだった。


「あ、うん、いいよ、一緒の班になろうか」


 僕も絵菜と一緒になりたかったので、ちょうどよかった。絵菜もホッとしているようだった。


「あ、姐さん! 今年も一緒の班になりませんか!?」

「ひ、日車くん、一緒の班にならない?」


 絵菜と話していると、杉崎さんと木下くんがやって来た。


「あ、うん、じゃあこれで四人が決ま――」

「ちょっと待った、私も日車くんと一緒がいいわ」

「……日車くんお疲れ、今年も一緒にならない?」

「日車さん、お疲れさまです……! わ、私も日車さんと一緒がいいななんて……」


 あ、あれ? 大島さんと相原くんと富岡さんもやって来た。ぼ、僕と一緒がいいの?


「え、あ、そうなの? そしたら四人をオーバーしちゃうな……困ったな」

「日車くん大人気だね……わ、私も一緒になりたいけど……」


 隣の席から九十九さんが話しかけてきた。え? 九十九さんも? 数えるとこれで八人になってしまった。


「あ、そ、そうなんだね、どうしよう、これで八人になってしまった……」

「な、なんか日車くん大人気ね、一年生の最初の頃、いつも一人でいたとは思えな――」

「わ、わーっ、大島さん! それは言わないで! 悲しい過去が思い出される……!」

「あははっ、じゃあさー、グーとパーで四人ずつに分かれるってのはどうだー? そしたら公平じゃね?」

「あ、なるほど……うん、それもいいかもしれないね」

「……絶対団吉と同じの出してやる……ブツブツ」

「え、絵菜? なんかブツブツ言ってるけど……」

「分かったわ、じゃあ私が掛け声言うわね、いくわよ、グーとパーで分かれましょ――」



 * * *



「……おかしい、こんなはずじゃなかったのに……」


 絵菜が僕の隣でプルプルと震えているように見えた。そう、グーとパーで分かれた結果、僕、大島さん、九十九さん、相原くんの班と、絵菜、杉崎さん、木下くん、富岡さんの班になった。


「ま、まあまあ、こういうこともあるよね……ほ、ほら、去年みたいにまた自由時間もあるだろうし……」

「……絶対に大島が何か仕組んだんだ」

「さ、沢井さん? 聞こえてるわよ。仕組めるわけないじゃない。公平に分かれた結果よ。沢井さん残念ね班が違って」

「……くっ、大島の好きにさせるもんか……!」

「ふ、二人ともそのへんで……絵菜、大丈夫だよ、去年とは違って一緒のクラスなんだから」


 なんとか絵菜をなだめようとする僕だった。


「あははっ、また姐さんと一緒で嬉しいです! 頑張りましょうね!」

「あ、ああ……」

「よかった、木下さんがいてくれた……! よろしくお願いします……!」

「はひ!? よ、よろしくね富岡さん」

「……あれぇー? 大悟と富岡、そんなに仲良かったっけー? なーんか怪しいなぁ」

「ええ!? い、いや、と、富岡さんとは本の話をしているだけで……べ、別に怪しいところはないよ……」

「はわっ! そ、そうですよ、日車さんと三人で本の話をするのが楽しくて……!」

「……ふーん、まいっか、富岡もよろしくなー!」


 杉崎さんに疑われそうになっていた木下くんと富岡さんだったが、なんとか怒られずに済んでいた。


「……日車くん、また一緒だね、よろしく」

「うん、相原くんよろしく。去年のようにならないように、歩くペースは気をつけないといけないね」

「……うん。でも大島さんはなんとなく分かるけど、九十九さんはどのくらい歩けるんだろう」


 たしかに、勉強ができる九十九さんだが、運動の方はどうなのかなとちょっと気になったので訊いてみようと思ったら、いつの間にか僕の隣に九十九さんがいた。


「あ、つ、九十九さんはけっこう歩ける方なの?」

「う、ううん、普通くらいだと思うんだけど、去年と一昨年はけっこうきつかった思い出があるの……日車くんに助けてもらわないといけないかも」


 九十九さんがそう言って僕の手をきゅっと握ってきた。


「え!? あ、う、うん、僕と相原くんは二人にペースを合わせて歩くことにするから、大丈夫だよ……はっ!?」


 その時、鋭い視線を感じたのでふと見ると、絵菜が頬を膨らませて面白くなさそうな顔をしていた。


「ああ!! い、いや、これは事故というか、なんというか……あ、そんな言い方したら九十九さんに失礼だな」

「ふふっ、団吉はやっぱり優しいな。団吉の班は誰がリーダーなんだ?」

「あ、そういえば決めてなかった……みんなどうしよう?」

「え? そんなの日車くんに決まってるじゃないの。日車くんの取り合いになったんだから、責任取りなさい」

「えぇ!? そ、それとこれとは……わ、分かった……じゃあ報告に行かないと」

「あははっ、あたしたちの班はやっぱり姐さん! ……と言いたいとこなんだけど、姐さん、あたしがリーダーやってもいいですか!?」

「え、あ、うん……」

「ありがとうございます! あたしこういうリーダーっぽいことやってみたかったんですよねー!」


 絵菜の班は杉崎さんがリーダーになったようだ。杉崎さんと二人で学級委員のところに報告に行く。学級委員が「はーい、日車くんと杉崎さんの班ねー、これでみんな決まったっぽいなー、あーめんどくさい」と言っていた。ま、まためんどくさいって言っちゃった。

 絵菜と一緒になれなかったのは残念だけど、まぁこのメンバーなら楽しくなりそうだなと思った。心の中で『何も起きませんように……』と祈る僕だった。

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