第12話「四人で」

 いつもの四人でカラオケに行く日になった。

 絵菜が一緒に駅前まで行こうと言っていたので待っていると、インターホンが鳴った。出ると絵菜が来ていた。


「こ、こんにちは」

「こんにちは、じゃあ行こうか」


 二人で駅前へ向かう。絵菜がニコニコして手をつないできた。とても嬉しい。仲直り出来て本当によかったなと思った。

 駅前に着くと、火野と高梨さんが来ていたようで、僕たちを見つけて手を振っていた。


「おーっす、って、お前ら手つないで仲が良いなぁ、いいことだ」

「やっほー、うんうん、二人とも嬉しそうでよかったよー」


 火野と高梨さんがニコニコしながら僕たちを見た。ちょっとだけ恥ずかしかったが、絵菜も嬉しそうだし、細かいことはいいのだ。

 四人で駅前のカラオケ屋に行く。受付を済ませて、ドリンクバーで飲み物を入れて、部屋に入る。たぶん最初に四人で来た時と同じ部屋だ。


「なんだか懐かしいな、あの時団吉と沢井がRINE交換してるって話してたよな」

「ああ、そーそー、二人だけずるいって思ったよねー」

「うん、実はあの前に絵菜がうちに来てたんだ。その時にRINE交換してて」

「うん、あの時はドキドキしてた……」


 そしてここでこの四人のRINEグループを作ったのだ。今思えば、あの頃からこの四人の友情もどんどん深まっていった気がする。


「よっしゃ、せっかく来たんだから歌おうぜ、今日はフリータイムにしたからたくさん歌えるな、何にしようかなー」

「よーし、じゃあまた私からいこうかな! これにしよーっと」


 高梨さんが曲を入れて、マイクを持って鼻息を荒くして立ち上がった。最近人気が出てきた五人組アイドルグループの曲が始まった。その曲を高梨さんは元気よく歌う。やはり音程も完璧で歌が上手い。あ、ちょっとダンスも入れてる。美人は何でもできるのか。

 高梨さんが歌い終わると、みんなでパチパチパチと拍手を送った。


「さすが優子、上手いなー。よーし次は俺だな、負けないぜー」


 火野がマイクを持って立ちあがった。火野が入れたのは長く活躍しているロックバンドの人気曲だった。火野が力強く歌い上げる。こうして見ると歌っている姿もカッコいいよな……イケメンも何でもできるのか。

 火野が歌い終わると、みんなでまたパチパチパチと拍手を送った。


「いやーいいね、陽くんカッコいいー」

「あはは、サンキュー、この曲は久しぶりに歌ったけど、なんとかなるもんだな」

「あ、次は絵菜歌う?」

「ううん、団吉歌って」

「分かった、じゃあこの中で知ってる曲ない?」


 僕はそう言ってデンモクを絵菜に見せる。そうだ、こうやって自然と距離が近くなってドキドキしていたのだ。まぁ今もドキドキはするのだが、あの時とはまた違うというか。


「じゃあ、これ……」


 絵菜が指差したのは、人気ソロアーティストのデビュー曲だった。僕はそれを入れてマイクを持って立ち上がる。恋を綴った曲なのでなんとなく絵菜をイメージしながら歌った。たぶん最後まで音程を外さなかった……と思う。三人がパチパチパチと拍手を送ってくれた。


「ああーいいねいいね、久しぶりにこの曲聴いたよー」

「ああ、団吉も歌上手いよな、可愛いから高音もちゃんと出てるというか」

「え!? か、可愛いって関係あるのかな……」


 僕がそう言うと、みんな笑った。


「団吉上手いな、すごくよかった……」

「あはは、ありがとう、あ、次絵菜だね」

「あ、そしたらこの中で知ってる曲ない?」


 絵菜がデンモクを見せてきた。また自然と距離が近くなる。


「じゃあ、これかな」


 僕が指差したのは、JEWELSの人気曲だった。JEWELSとは、オーディション番組を勝ち上がったメンバー八人で構成された今人気のアイドルグループだ。


「わ、分かった、歌えるかな……」


 絵菜が少し不安そうにしながらマイクを持って立ち上がった。絵菜の歌声もあの時と変わらない。優しくて、落ち着く歌声だった。心配していたようだったが、間違えることもなく最後まで丁寧に歌っていた。みんなでまたパチパチパチと拍手を送った。


「いいねー、絵菜の歌声可愛いよねー、まぁ元々絵菜は可愛いけど!」

「ああ、なんか聴き入っちゃう声してるよなー」

「うんうん、すごくよかったよ」

「あ、ああ、ありがと……」


 ちょっと恥ずかしそうにする絵菜も可愛かった。


「あ、そういえば、ここで言うのも何だけど、優子に相談があったんだった」

「ん? 私に相談?」

「うん、実は真菜がバスケ部のマネージャーになりたいって言ってたんだけど、なれるのかなって思って」

「ええー! ほんとー!? マネージャーか、今二年生が一人でやってるから、たしかに真菜ちゃんが入ってくれると嬉しいねぇ」

「そ、そっか、じゃあ大丈夫なのかな」

「うんうん、あ、じゃあさ、明日練習の見学に来ないかな、私が放課後迎えに行くよって真菜ちゃんに伝えてくれる?」

「うん、分かった、真菜も喜ぶと思う」

「おおー、真菜ちゃんもマネージャーか、実は日向ちゃんと長谷川くんがサッカー部に入りたいらしくてさ、昨日話してたところだったぜ」

「えー! そうなんだぁ、あの三人も部活に入りたいって思ってくれたんだねー、嬉しいよー」

「うん、なんか日向も長谷川くんもやる気を出していたから、部活動紹介でみんなのアピールが届いたのかなって」

「そだねー、それにしても真菜ちゃんが入ってくれるのか……こっそりいただいちゃおうかな……ふふふふふ」

「た、高梨さん心の声が……ま、まぁあの三人も新しいことを始めたいって思ったんだろうね」

「ああ、そういう気持ちって大事だよな、なんか俺も嬉しくなったぜ」


 たしかに、新しい環境で何かを始めるというのは緊張することもあるかもしれないが、その気持ちというのはすごく大事だ。そして自分が成長するいいきっかけにもなるだろう。


「よーし、真菜ちゃんも入ってくれるって聞いて嬉しいから、私歌っちゃおーっと! 今日も絵菜には負けないんだからね!」


 また高梨さんが鼻息を荒くして立ち上がった。なぜか絵菜をライバル視したので思わず笑ってしまった。

 それから長い時間、僕たちはカラオケを楽しんだ。みんなたくさん笑顔になって楽しそうだった。これからもこの四人の友情は続くのだ。僕は嬉しい気持ちになっていた。

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