第10話「達成感」

 一年生が入学して一週間とちょっと。今日は一年生に向けた生徒会オリエンテーションと、部活動紹介がある。

 生徒会オリエンテーションとは、生徒会活動でどんなことをやっているのか、あと学校行事について説明して知ってもらうためのものだ。部活動紹介はそのままで、各部活動の生徒が日々の活動内容をアピールするものだ。

 体育館にみんなが集まって、まずオリエンテーションが始まる。司会進行は副会長の僕だ。


「――それでは、生徒会オリエンテーションを行わせていただきます。まず最初に生徒会長の九十九さんより、一年生のみなさまに向けてご挨拶があります」


 僕がそう言うと、九十九さんが「はい」と言って、みんなの前に出て話す。今日も九十九さんの挨拶は完璧だった。やはり横顔も美人……って、ぼ、僕は何を考えているのだろう。変なことを考えているうちに九十九さんの挨拶が終わる。


「――九十九さん、ありがとうございました。それでは生徒会の組織、活動内容をご紹介していきます。前のスクリーンをご覧ください」


 天野くんが準備をして、スクリーンに文字が映し出される。生徒会長とは、副会長とは、と、それぞれの役員の説明を行った後、体育委員や風紀委員など、各委員会の説明を行っていく。よし、今のところ噛んでいない。前よりは話せるようになってきたような気がする。


「――生徒会の組織、活動内容は以上になります。次に学校行事について、書記の大島さんより説明があります」


 大島さんが「はい」と言って、学校行事についての説明を始める。大島さんもしっかりしているので噛むことなく完璧に説明を行っている。大島さんも目が綺麗で美人だよな……って、ま、また僕は何を考えているのだろう。

 学校行事についての説明の後、主に大島さんが管理している生徒用ホームページの説明も行った。この生徒用ホームページには各学年、各委員会、先生方からの報告、注意事項や、年間スケジュールなどが載っている。先程説明した生徒会の組織、活動内容も載せている。使わなくても特に問題はないが、使った方が便利だ。よくできたシステムだなと思う。

 大島さんの説明が終わり、僕がまた話す。


「――大島さん、ありがとうございました。これで生徒会オリエンテーションは終了となります。次に部活動紹介を行っていきます」


 生徒会オリエンテーションが終わり、各部活動の生徒が準備をして、僕の紹介の後にみんなの前で活動内容をアピールする。中には漫才や寸劇のようなちょっと面白いものを取り入れる部活もあって、みんなから笑いが出る。

 サッカー部の番になった。部長の中川くんと火野ともう一人が前に出てアピールする。あ、火野がリフティングやってるな。もう一人にパスして続けている。素人目でもすごいのが分かる。横で中川くんが爽やかに日々の活動内容を話している。な、なんかキャーキャー言われているような気がするのは気のせいだろうか。これだからイケメンは困る……。

 いくつか続いて、女子バスケ部の番になった。部長の高梨さんと他数名が出てきた。高梨さんがいつもの「やっほー」といった軽い感じを封印して話す姿は新鮮だった。高梨さんも背が高くて美人だよな……って、ま、また僕は何を考えているのだろう。なんとなく男子がざわざわしているような気がする。これだから美人は困る……。

 運動部が終わり、文化部の紹介に入る。演劇部はさすが、寸劇のようなものを行って「おおー」という声が上がっていた。放送部は去年の文化祭でお世話になった山崎やまさきくんが噛まずに早く原稿を読めるかというチャレンジを行っていた。無事にやり切って拍手も起きていた。さすがだなと思った。

 文化部も終わり、これで今日は終了となる。最後に僕が挨拶をする。


「――これで生徒会オリエンテーション、部活動紹介を終了します。ありがとうございました」


 パチパチパチと拍手が起きた。よ、よかった……なんとか噛むことなく進めることができた。みんながワイワイと話しながら体育館を後にする。


「なんとか終わったわね、今日は日車くんが一番話したわね、さすがね」

「みんな頑張ったね、日車くんカッコよかった……」

「終わりましたね、日車先輩緊張してるようには見えませんでしたよ」


 ふーっと息を吐いていると、大島さん、九十九さん、天野くんが集まって話しかけてきた。


「うん、な、なんとか終わった……今どっと疲れがきてるよ」

「あはは、終わってほっとしたんですかね、僕はあまり話さなかったけど、九十九先輩も大島先輩も完璧でした」

「う、ううん、私もいつも緊張してしまうから……終わったらほっとして力が抜けるというか」

「そうね、でも達成感もあるわね、私たちいい経験をしているんだと思うわ」


 たしかに、大島さんの言う通り、ひとつ行事を終える度に、達成感も感じていた。これは僕たちだけの貴重な経験なのかもしれない。


「おーっす、お疲れー、団吉すげぇな、ずっと話してて」

「みんなお疲れさま! 生徒会も大変だね」

「やっほー、お疲れさまー、みんなすごいねぇ、私には無理だー」


 生徒会の四人で話していると、火野と中川くんと高梨さんがやって来た。


「あら、三人ともお疲れさま」

「あ、お疲れさま、みんなすごかった……!」

「お疲れさまです、先輩方さすがですね!」

「お疲れさま、当たり前だけど部活動紹介見てたよ、みんなすごかったよ」

「あはは、まぁ、俺らはあれくらいしかできねぇけどな」

「ああ、日車くんの司会進行に比べたら、ちょっとしか話してないからね」

「そだねー、でもみんなの前って緊張するねぇ、途中噛みそうになったよー」


 たしかに、みんなの前に出るのは何度経験しても落ち着かずにドキドキしてしまう。


「まぁ緊張するよね、でもみんなよかったよ。これで一年生が部活に入ってくれるといいけど」

「そうだなぁ、ちゃんとアピールできたのかピンと来ないけど、やれることはやったぜ」


 三人がケラケラと笑っている。も、もしかしたらこの三人に憧れて入部する人もいるのでは……と思った。イケメンと美人だし憧れを持たれてもおかしくない。杉崎さんも絵菜に憧れているしな……それはちょっと違うのかな。

 とにかく、またひとつ行事を終えてほっとしているのと同時に、少し自分が大きくなったような気がする。

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