第9話「みんなへ報告」

 しばらく三人で話して、遅くならないうちに僕は帰ることにした。

 帰る前にお母さんに会って、「まあまあ、やっぱり絵菜には団吉くんがいないといけませんね」とお母さんが言っていて、絵菜は「あ、ああ……」とちょっと恥ずかしそうにしていた。そんな絵菜も可愛かった。

 歩いて家に帰ると、日向がパタパタとやって来た。


「おかえりお兄ちゃん……どうだった?」

「ただいま、うん、もう大丈夫。絵菜にちゃんと自分の気持ちを伝えることができたよ」

「そ、そっかーよかった……お兄ちゃんと絵菜さんが別れちゃったらどうしようと……ううう」

「日向もごめんな、心配かけてしまった。そうだ、梨夏ちゃんは大丈夫かな?」

「うん、一応RINEは送ったけど、また明日会った時に話しておくよ」


 お腹が空いたので三人で晩ご飯を食べた。母さんが「ふふふ、絵菜ちゃんと何かあったみたいね。大丈夫よ、二人なら何の問題もないわ」と言っていた。な、なんだろう、あまり話していないのに全てを悟られているような感じだった。

 部屋に行ってスマホを確認すると、RINEが来ていた。送ってきたのは絵菜だった。


『今日はありがと。本当にごめん』

『こちらこそありがとう、大丈夫だよ、僕の方こそごめんね』

『ううん、あ、ちょっと通話してもいいかな?』

『あ、うん、いいよ』


 何か話したいことがあったのかなと思ったが、気にせずに待っているとかかってきた。


「も、もしもし」

「もしもし、どうかした?」

「あ、いや、さっき会ってたのに、声が聞きたくなって……」


 少し恥ずかしそうに絵菜が言った。そんな絵菜が可愛かった。


「そっか、うん、僕も絵菜と話したかったよ」

「ありがと。私、ずっと団吉のこと考えてた。もうダメだ、嫌われたって……」

「僕も絵菜のことずっと考えてたよ、嫌われたのかなって、もう無理って言われたらどうしようって」

「そっか、お互い同じようなこと考えてたんだな」


 絵菜がクスクスと笑ったので、僕も笑った。


「あ、日向や真菜ちゃんもそうなんだけど、火野や高梨さん、杉崎さんにも心配をかけてしまった……」

「ああ、私も泣きながら優子と話したからな……杉崎にも心配された」

「そっか、今頃気にしているかもしれないね。あ、火野と高梨さんも入れて話してみる? 杉崎さんとも後で」

「あ、うん、分かった」


 僕は一旦絵菜との通話を終了して、火野と高梨さんにRINEを送ってみた。通話OKとのことだったので、グループ通話をかける。


「も、もしもし」

「もしもし、お疲れさま。ごめん急に通話して」

「おーっす、お疲れー」

「やっほー、お疲れさまー」

「あ、ふ、二人に報告しようと思って。絵菜と話すことができたよ。お互い同じようなこと考えてた」

「おお、そうかそうか、その様子だと仲直りできたんだな」

「うんうん、グループ通話って聞いて、大丈夫だったんだろうなって思ったけど、よかったよー。もー絵菜、心配したんだからねー」

「ご、ごめん……でも優子、火野、ありがと。二人がいてくれてよかった」

「いやいや、俺らも団吉と沢井には助けられたからさ、今度は俺らが力にならねぇとなと思ってな」

「そーそー、前にも言ったけど、困った時はお互い様だよー。でも絵菜も不安でいっぱいだったんだよね」

「うん……でも、団吉のことばかり考えてて、私は団吉が大好きなんだなって」


 絵菜の言葉を聞いて、僕は嬉しくなった。ぎゅっと抱きしめたくなったが、隣にはいなかった……しょんぼり。


「ぼ、僕も絵菜のことばかり考えてた。絵菜が大好きなのは変わらないなって」

「おう、それでこそ団吉と沢井だ。なんか自分のことのように嬉しいぜ」

「うんうん、お互いを想う気持ちがあれば、大丈夫だよー。それにしても日車くん、また女の子に好かれちゃったねぇ。梨夏ちゃんだっけ?」

「え!? あ、まぁ、日向たちの友達だから、悪い子ではないと思うよ。な、なんかあだ名で呼びたがるけど……梨夏ちゃんもちょっと落ち込んでたみたいだったから、心配で」

「ふふっ、団吉はやっぱり優しいな」

「ああ、それでこそ団吉だぜ」

「え、あ、いや、優しすぎるのもよくないって思ったばっかりなんだけどな……ダメだなぁ」

「あはは、日車くんは今までと一緒でいいんだよー。その優しいところがいいんだからさー」

「そ、そうなのかなぁ。うーん難しい……」

「よっしゃ、二人が仲直りできたところで、カラオケ行こうぜ。来週の日曜だったら行けるけど、どうだろ?」

「いいねぇー、うん、私は大丈夫だよー」

「あ、私も大丈夫」

「うん、僕も大丈夫だよ。あ、ごめん、杉崎さんと話しておきたいから、このへんで……じゃあまた学校で」


 僕と絵菜が二人に「ありがとう」と伝えて、通話を終了した。僕はそのまま杉崎さんにRINEを送る。すぐに通話OKと返事が来たので、またグループ通話をかける。


「もしもーし、日車、姐さん、お疲れー!」

「も、もしもし、お疲れさま」

「もしもし、お疲れさま、杉崎さん、あれから絵菜と話すことができたよ。ちゃんと分かってもらえた」

「おおーマジかー! よかったー、あたし姐さんの涙見た時は慌てちゃってさー、何もできなくてすいませんでした」

「い、いや、杉崎、心配してくれてありがと」

「ひゃー! 姐さんから感謝の言葉をいただくなんて、あたし嬉しすぎて空飛びそう~なんちって。でもよかったです、やっぱ二人は仲良くないと!」

「うん、杉崎さんからもRINEもらって、勇気が出たよ、ありがとう」

「いやいやー、あたしは大したことしてないからさー、まぁ友達として心配するのは当たり前みたいな」


 友達……か、昔はその友達がいなかったんだよなと思うと、今こうして心配してくれる友達がいるのが嬉しかった。


「そ、そういえば、杉崎さんは木下くんとケンカしたりしてない? その、抱きつかれたのは木下くんもだったし」

「ああ、大丈夫だよー、あの後大悟が必死に謝ってくれたしさー、まぁちょっと拗ねそうにはなったけどさ」

「そ、そっか、よかった」

「まー、心配してくれてサンキュー、あ、お礼に日車のお望み通りあたしの胸触らせてやるよーなんちって」

「……うわ、団吉……」

「え!? い、いや、何も言ってないからね!? 絵菜も変な声出さないで!」


 僕がそう言うと、絵菜と杉崎さんが笑った。うう、結局こうなるのか……。

 しばらく話して、杉崎さんにお礼を言って通話を終了した。みんながいてくれてよかった。改めて友達の大切さに気がついた僕と絵菜だった。

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