第7話「不安になるのは」
土曜日、僕はバイトがあったので、三時まで頑張った……のだが、いつものように頑張れなかったような気がする。パートのおばちゃんにも「なんか日車くん、元気がないように見えるわね」と言われた。顔に出ていたのだろうか。
あれからも絵菜からRINEが来ることはなかった。このまま不安に押しつぶされて僕はダメになってしまうのではないかという気持ちになった。
家に帰って、部屋で一人になる。いつもだったら『団吉、お疲れさま』と絵菜からRINEが来ていることが多い。今日は来ていない。さすがにこちらから何度も送るのは悪いと思って、送れずにいた。
(うう……ダメだ、しっかりしないと……と思うんだけど、どうにも力が入らない……)
ピロローン。
突然スマホが鳴った。まさか絵菜から!? と思って飛びついたが、違った。送ってきたのは高梨さんだった。
『やっほー、日車くん、ちょっと陽くんも入れて通話できないかな?』
急に通話できないかと言う高梨さん。な、何だろうかと思ったが、僕も二人に聞いてもらいたいと思って、
『お疲れさま、うん、いいよ』
と送った。しばらくするとグループ通話がかかってきた。
「やっほー、お疲れさまー、ごめんね急に通話とか言い出しちゃって」
「おーっす、お疲れー、どうした?」
「お疲れさま、ぼ、僕も二人に聞いてもらいたいことがあったから、ちょうどよかった」
「あ、たぶん私が話したいことと、日車くんが話したいことは一緒なんじゃないかなー、ということで、日車くんどうぞ!」
あ、あれ? 話したいことが一緒? どういうことだろうと思いつつも、僕は昨日あった出来事を全て話した。梨夏ちゃんに会ったこと、そして絵菜を怒らせてしまったこと。
「なるほど、だからこの場に沢井がいないのか。そうかー怒らせてしまったのか……」
「う、うん……RINEの返事もないし、どうしたらいいのか分からなくなってしまって……あれからずっと不安で、なんかじっとしていられなくて……」
「……日車くんごめん、私、実はそのこと絵菜から聞いたんだ。ちょっと泣いていたから、『どうしたの!?』って私も慌てちゃってさ、そしたら絵菜がゆっくり話してくれたよ」
「あ、そ、そうだったんだね……」
「うん、で、『絵菜はどうしたいの?』って訊いたら、『どうしたらいいのか分からない』って。絵菜も不安でしょうがないんじゃないかな、それが爆発してしまったんだと思う」
「そ、そっか……」
「そうだよなぁ、この前も言ったけど、団吉がモテるようになったから、沢井もちょっとずつ不安な気持ちがたまっていたんだろうなぁ」
「うんうん、私も絵菜の気持ちが分かるなーって思ってね。去年私が拗ねたことあったでしょ? その時も不安でいっぱいで、どうしたらいいのか分からなくなってさ。まぁそれで日車くんと絵菜に助けてもらったんだけどね」
そう、この二人は去年、ちょっとしたすれ違いでケンカになったことがあった。その時は僕と絵菜が二人の話を聞いて、一緒に遊びに行って、元通りになったのだった。
「お、おお、思い出してしまった……俺もすごく不安で、なんかじっとしていられなかったぜ……」
「あはは、そーだよね、たぶん絵菜も本気で日車くんのこと嫌いになったわけじゃないと思うんだ。でも、どうしたらいいのか分からない。不安に押しつぶされそうなのは二人とも一緒だよ」
高梨さんの言葉を聞いて、僕はぐっと奥歯を噛みしめた。そうか、不安になっているのは僕だけじゃない。いや、絵菜の方が僕よりももっと不安になっているのだ。
「……で、団吉はどうしたい?」
火野がぽつりと言った。僕は、僕は――
「……絵菜に謝って、仲直りしたい。絵菜の不安を全部取ってあげたい。僕が一番大好きなのは絵菜だから」
「おう、さすが団吉、よく言ったぜ。俺らも二人が仲良くないとなんかしっくりこないしさ」
「うんうん、日車くんのその気持ちが伝われば、きっと大丈夫だよ。あ、私たちがついてた方がいいかな?」
「あ、ううん、大丈夫、元々僕が悪いから、僕がしっかりしないと。ありがとう、気持ちだけもらっておくよ」
「よっしゃ、じゃあさ、二人が無事に仲直りしてから、四人でまたカラオケにでも行かねぇか?」
「ああ、いいねぇー! うんうん、ちゃんと仲直りできることを祈ってるよー」
二人に何度も「ありがとう」と言って、通話を終了した。そうだ、僕は絵菜が大好きだ。その気持ちはずっと変わらない。不安になっている場合じゃない。絵菜の不安を取ってあげないと。
その時、またスマホが鳴った。あれ? と思って見ると、RINEに『真菜』と書かれてある。え!? 真菜ちゃん!? と思って慌てて開く。
『お兄様こんにちは、突然すみません。日向ちゃんからお兄様のアカウントを教えてもらいました。お兄様も思うところがあるかもしれませんが、お姉ちゃんも今すごく不安になっているみたいです。部屋で一人で泣いていました。お兄様、明日うちに来てくれませんか? お姉ちゃんを助けてあげたくて、RINE送りました。あ、お姉ちゃんには内緒にしておきますので』
真菜ちゃんからのRINEを読んで、僕は涙が出そうになるのをぐっとこらえた。絵菜を泣かせてしまった。早く行きたい気持ちを抑えて、真菜ちゃんに明日バイトが終わってから行くことを伝えた。
ふーっと息を吐いて落ち着こうと思っていると、またスマホが鳴った。な、なんか今日は多いなと思ったら、送ってきたのは杉崎さんだった。
『日車お疲れー! 昨日あれから姐さんに追いついたんだけどさ、姐さん泣いてた。たぶん今も不安になってるんじゃないかなと思ってさ。あたしも大悟が他の女の子と仲良くしてたらって思うと、姐さんの気持ちも分かるっていうか。だからさ、姐さんのそばにいてやってくれないか? あたしも二人が仲良くないとなんかしっくりこないしさー』
最後、火野と同じこと言うんだなと思ってちょっと笑ってしまったが、僕は感謝の言葉と明日絵菜に会ってくることを伝えた。すると杉崎さんからマシンガンのようにRINEが飛んできた。そ、そうだった、杉崎さんはRINEがものすごく早いんだった。
うん、みんな本当にありがとう、僕がしっかりしないと。そして絵菜を支えるんだ。僕はぐっと気合いを入れ直していた。
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