第4話「入学式」

 桜咲いたら一年生と言うが、早いもので散り始めている今日この頃。

 僕が通っている青桜高校でも、今日入学式が行われる。基本的に二年生と三年生は休みだが、僕は生徒会役員として出席することになっている。他の生徒会メンバーも一緒だった。

 入学式ということは、日向、真菜ちゃん、長谷川くんが式に出るのだ。日向も朝から新しい制服を着てそわそわしていた。


「お兄ちゃん! 見て見て、女子高生デビューだよ!」

「お、おお、よかったな、可愛いよ」

「えへへー、ついにお兄ちゃんの後輩になるのかぁー!」


 日向がくるくる回っている。そ、そんなに嬉しいのか、こっちはなんだか恥ずかしいのだが……まぁいいや。


「ふふふ、日向嬉しそうね、このために勉強も頑張ったもんね」


 そう言ったのは日車沙織ひぐるまさおり、僕と日向の母だ。母さんも今日は入学式に保護者として参加するらしい。後ろで見守るのか。


「うん! ねえねえ、お兄ちゃんまだ? 行こうよー」

「え!? もう行くのか? まだ早いかもしれないけど……まぁいいか、それじゃあ行こうか」

「あ、二人とも待った、そこに並んで写真撮らせて~」

「え!? い、いや、恥ずかしいんだけど……」

「えーいいじゃん、ほらお兄ちゃん、こっちこっち!」


 日向に引っ張られて、二人で並んだところを母さんがスマホで撮った。うう、恥ずかしい……。

 き、気を取り直して、三人で高校へと歩いて行く。日向がニコニコで僕の手を握っているのはどういうことだろうか。ま、まさかこれから続くわけじゃないよな……と、ちょっと冷や汗をかいていた。

 学校に着き、日向はまず掲示板を見てクラスを確認して教室に行く。僕と母さんは体育館へと向かった。母さんは保護者席に座り、僕は生徒会メンバーが座る席へと行く。そこに三人が座っていた。


「あら、日車くんおはよう」

「おはよう、日車くん」

「日車先輩、おはようございます」


 三人が挨拶をしてくれた。書記の大島さんと、生徒会長の九十九さん、そして会計の天野蒼汰あまのそうた。天野くんは一つ年下の後輩で、言葉も丁寧で礼儀正しい。東城さんのことが好きなのだが、まだ気持ちは伝えられていないようだ。


「おはよう、今日は僕たちの紹介もあるし、九十九さんも挨拶があるね」

「う、うん、緊張するけど、頑張る……」

「お、おかしいわね、また日車くんの隣に九十九さんがいる……どうしてかしら……ブツブツ」

「あはは、僕たちはいつも通りですね。あ、そろそろ始まりそうですね」


 入学式が始まった。拍手で迎えられて、新入生が並んで入って来る。日向と真菜ちゃんと長谷川くんの姿も見えた。けっこうまとまっていたため、もしかしたら三人は一緒のクラスになったのかもしれない。

 校長先生の挨拶があり、新入生代表の挨拶があった。緊張した面持ちだったが、しっかり話すことができていた。

 その後、学年主任の先生から各クラスの担任の先生の紹介があった。この後僕たち生徒会メンバーの紹介がある。ふと九十九さんを見ると、少し緊張しているような雰囲気があった。

 そして僕たちが紹介されて、新入生の前に四人で並ぶ。代表して九十九さんが挨拶を行う。緊張すると言っていたが、本番になるとしっかりと落ち着いて話せるのが九十九さんだ。さすがだなと思った。

 そして式が終わる。新入生は一度教室に戻って少しだけ先生の話があった後解散となる。僕はふーっと息を吐いた後、九十九さんたちに話しかける。


「お疲れさま、九十九さん完璧だったね」

「ええ、完璧だったわ、さすが九十九さんね」

「う、ううん、心の中ではずっとドキドキしてた……噛んだらどうしようって」

「あはは、さすが九十九先輩ですね。でもみんなの前に出るだけでも緊張しますね……」

「そうだね、僕もドキドキした……あ、僕は玄関あたりで妹を待っておこうかな」

「そういえば日車くんと沢井さんの妹さんも入学するって言ってたわね、そのうち会えるかしら」

「うん、まぁうちはうるさい妹だけど、会った時はよろしく」


 僕は三人に挨拶して、体育館から玄関の方に行く。玄関の外に母さんがいるのが見えた。


「あら、団吉お疲れさま、みんなの前に立っていたわね、いつもあんな感じなの?」

「あ、うん、まだ緊張することも多いんだけどね……」

「そっか、ふふふ、日向たちもちょっとだけ緊張してるような顔だったわね、そろそろ来るかしら?」

「うん、そんなに話は長くないはずだから、もうすぐ来ると思う」


 しばらく待っていると、新入生がぞろぞろと出てきた。日向はいるかなと探したら、日向が出てきて僕たちを見つけてやって来た。


「終わったよー、待っててくれたんだね」

「お疲れさま、ふふふ、日向もこれで立派な高校生ね」

「お疲れさま、もしかして真菜ちゃんと長谷川くんと同じクラスだった?」

「うん、三人で一緒の三組だった! 嬉しいなー楽しくなりそう!」

「――あら? まあまあ、団吉くんに日向ちゃん、それにお母さん、こちらにいらしたのですね」


 ふと声をかけられてので見ると、真菜ちゃんとお母さんがいた。お母さんの名前は沢井佳菜さわいかな。もちろん絵菜のお母さんでもある。真菜ちゃんと話し方が似ていて、とても優しいお母さんだ。


「あらあらー、沢井さんどうもどうも、真菜ちゃんのご入学おめでとうございますー」

「まあまあ、日車さんどうもどうも、日向ちゃんもご入学おめでとうございます」


 母さんと真菜ちゃんのお母さんが何やら楽しそうに話している。な、長くなりそうなのであの二人は気にしないことにした。


「お兄様こんにちは! 日向ちゃんと長谷川くんと一緒のクラスになれました! 私もうそれだけで嬉しくて」

「こんにちは、さっき日向からも聞いたところだったよ、よかったね一緒のクラスで」

「はい! あ、でも明日はいきなりテストなんですね、ちょっとびっくりしました」

「ああ、そうそう、入学してすぐテストがあるのがうちの伝統みたいだよ。頑張ってね」

「ああー、そうだった……いきなりテストなんて高校生も厳しいなぁ。お兄ちゃん代わりに受けてくれない? 全部満点取れそう」

「え!? い、いや、それはさすがに無理だろ……」

「ううー、仕方ない、頑張るか……あ、お兄ちゃんと絵菜さん五組だったよね? 突撃しようかなー」

「まあまあ、楽しそう! 日向ちゃん一緒に行こう! あと東城さんのところも!」


 日向と真菜ちゃんが顔を合わせて「ねー」と言っている。ま、まぁ、来るのは別に構わないが、変なことするなよと思った僕だった。

 これでついに日向、真菜ちゃん、長谷川くんも高校生になったのだ。高校生活をたくさん楽しんでもらいたいな。

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