第2話「放課後」

 始業式の日も全校集会とホームルームが終わり、放課後になった。今日は何もないし帰ろうと準備をしていると、


「団吉、今日は何もないのか?」


 と、絵菜が話しかけてきた。二年生の時は別のクラスだったので、お互いのクラスの前の廊下で待っていたっけ。こうしてまた一緒のクラスになれたことが一番嬉しかった。


「うん、今日は何もないよ、一緒に帰ろうか」

「うん」


 玄関で靴を履き替えて、校門を出ると、絵菜がそっと僕の左手を握ってきた。放課後は生徒会の仕事がある時もあるが、何もない時はこうして絵菜と一緒に帰ることを大事にしている。


「よかった、絵菜と一緒のクラスで。最後の一年が楽しくなりそうだよ」

「うん、嬉しい……でも、要注意の大島も九十九もいる……あ、富岡ももしかしたら密かに団吉のこと……ブツブツ」

「え!? い、いや、大丈夫だよ、みんな僕をからかっているんだよ……」

「いや、団吉のこと好きな人は多いんだ、ちゃんと見ておかないと……まぁ、誰よりも私が団吉のこと一番大好きなんだけど」

「あ、ありがとう、僕も絵菜が大好きだから、大丈夫だよ」


 僕がそう言うと、絵菜がニコッと笑って僕にくっついてきた。か、可愛い……と思ってしまう僕は絵菜に甘いのだろうか。まぁいいか。

 途中で絵菜と別れて、まっすぐ家に帰る。たぶん家には妹がいるはずだ。「ただいまー」と言って玄関に入ると、靴が三足あった。あれ? 一つは妹のものだが、友達でも来ているのだろうかと思ってリビングに行くと、


「お兄ちゃんおかえりー、お昼作ってあるから、温めてね」

「お兄様、おかえりなさい。おじゃましてます」

「お兄さん、おかえりなさい! 僕もおじゃましてます」


 と、三人の声が聞こえた。お兄ちゃんと言ったのは日車日向ひぐるまひなた。僕の妹だ。僕のことが好きなのかいつも甘えてくっついてくるので、そろそろ兄離れしてほしいと思っている。

 お兄様と言ったのは沢井真菜さわいまな。絵菜の妹だ。黒髪で真面目で可愛らしいのだが、たまにぶっ飛んだことを言ってしまう癖がある。僕もいつも驚かされてしまう。

 お兄さんと言ったのは長谷川健斗はせがわけんと。日向と真菜ちゃんの同級生で、日向の彼氏でもある。勉強もけっこうできるらしい。妹の彼氏というのに慣れないかなと僕は思ったが、そんなことはなかった。

 三人はこの春から僕と同じ青桜高校せいおうこうこうに通う高校一年生。僕の後輩になるのだ。もうすぐ入学式があるが、この三人が後輩なんてなんか不思議な感じがする。


「ただいま、真菜ちゃんと長谷川くんが来てたのか。さっき絵菜と一緒に帰って来てたよ」

「まあまあ! お姉ちゃんと一緒でしたか、今日もラブラブでしたか?」

「え!? あ、まぁ、フツーなんじゃないかな……あはは。あ、日向昼ご飯ありがとう」

「ふっふっふー、可愛い妹が愛をこめて作ったからねー、じっくり味わうがよいぞ!」

「えぇ、なんでそんなに上から目線なんだよ……ま、まぁ食べるけど」


 日向が作ってくれた炒飯を食べる。うん、ご飯もパラパラしているし、味もしっかりしていて美味しい。


「あ、お兄ちゃん、三年生では絵菜さんと一緒のクラスになれた?」

「あ、うん、偶然にも一緒だったよ。絵菜も嬉しそうにしていたよ。なぜか他にも知り合いが多かったけど……日向が知ってる人だと、木下くんとか、相原くんとか、九十九さんとか」

「そっかーすごいね、いいなー、私も真菜ちゃんと健斗くんと一緒だったらいいなぁ」

「そうだね、そして東城さんもいるもんね、また女子の秘密の話しようね!」


 日向と真菜ちゃんが顔を合わせて「ねー」と言っている。や、やはり女子の秘密の話というのが分からなかった。真菜ちゃんが言った東城さんとは、東城麻里奈とうじょうまりな。僕の一つ下の後輩で、アイドル活動をしている可愛らしい女の子だ。


「お、お兄さん、女子の秘密の話って何なのでしょうか……?」

「さ、さぁ……よく分からないけど、男の僕たちが聞いていい話ではないのかもしれないね」

「そ、そうですか……うーん、女の子って難しい……」


 長谷川くんがうーんと考え込む仕草を見せた。たしかに女の子の考えていることは僕もよく分からない。絵菜であっても驚かされることも多いのだ。


「まぁ、深く考えなくてもいいんじゃないかな。それよりも、日向と長谷川くんはデートしたりしないの?」

「え!? あ、その、こ、今度一緒に遊びに行こうと話していまして……」

「ふふふ、お兄様、心配しなくても大丈夫ですよ、二人はラブラブですから」

「ま、真菜ちゃん!? ま、まぁ、そうかもしれないね……あはは」


 日向と長谷川くんが同じように顔を赤くして俯いた。僕と真菜ちゃんは笑った。

 その時、僕のスマホが鳴った。見てみるとRINE、メッセージが来たみたいだ。送り主は絵菜だった。


『そっちに真菜行ってる?』

『あ、うん、こっちに来てるよ、長谷川くんも』

『そっか、遊びに行ってくるってRINEが来てたけど、どことは書いてないし、返事も来なかったので』

『なるほど、よく分かったね。あ、絵菜も一人だったらうちに来る?』

『あ、うん、行きたい。今から行く』


「お兄ちゃん、RINE? もしかして絵菜さん?」

「あ、うん、真菜ちゃんがこっちに来てないかなって。絵菜も真菜ちゃんにRINE送ったけど返事がなかったって」

「あ! お姉ちゃんに返事しようとして、すっかり忘れてました……」

「あはは、絵菜も今から来るみたいだよ。それにしても絵菜は本当に勘が鋭いな……」

「お姉ちゃん、最近さらに勘が鋭くなったような気がします。お兄様とお付き合いするようになって変わったのでしょうか……」

「そ、そっか、たしかに勘が鋭いなって思うことたくさんあったもんなぁ……って、あれ? これ去年も言ってたような……」

「あ、じゃあさ、絵菜さん来たらみんなでUNOしない? お兄ちゃんをボコボコにしてやろうよ!」

「まあまあ! 勝負事ならお兄様には負けたくありません」

「ぼ、僕もお兄さんに負けっぱなしは悔しいから、勝ちたいです!」

「え!? な、なんで僕はこんなに狙われているの……?」


 しばらく四人で話していると絵菜がうちに来た。みんなでUNOをするが、結局僕は負けてしまった。うう、やっぱり勝負事は弱いんだな。

 でも、みんなの楽しそうな笑顔を見ていると、僕も嬉しくなった。これからもみんなで楽しい時間を過ごしていきたい。

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