第1話「クラス」

 春、桜が咲き、暖かい日もだいぶ増えてきて、心の中ではほっとしていた。

 今日は始業式。僕、日車団吉ひぐるまだんきちは今日から高校三年生になる。ついに最上級生、そして受験生となるのだ。ワクワクとドキドキが入り混じった不思議な感覚になっていた。

 いつものように学校に登校するのだが、僕の隣に一人の女の子がいる。彼女は沢井絵菜さわいえな。金髪で一瞬怖そうに見えるが、怖がりで寂しがりやで可愛らしい女性だ。そして僕の大事な人である。


「……になりますように……ブツブツ」

「え、絵菜? さっきから何か言ってるけど……?」

「あ、団吉と一緒のクラスになるように念を送っていたとこ」

「な、なるほど、うん、三年生は一緒のクラスになりたいね」


 そう、二年生の時は一緒のクラスになれなくて、絵菜がものすごく落ち込んでいたのだ。あの落ち込みはもう見たくないので、なんとか絵菜と一緒のクラスになれますようにと僕も祈っていた。

 玄関で靴を履き替えると、その先に人だかりが見えた。新しいクラスが掲示板に貼り出されているのだろう。僕と絵菜もその人だかりに混ざる。


「理系はまた五組からだね……えっと、日車……あ、あった、僕はまた五組みたいだよ。絵菜は?」

「……った」

「え?」

「……あった、私も五組だ!」


 あまり大きな声を出さない絵菜の声が少し大きくなった。改めて五組を見てみると、たしかに絵菜の名前もあった。よかった、一緒のクラスになれたようだ。


「や、やったね! 一緒のクラスだよ!」

「ああ、嬉しい……もう団吉と離れたくなかった……」


 絵菜がそう言って僕の腕にきゅっと抱きついてきた。こ、ここ学校だが……まぁいいか。絵菜が嬉しそうにしているのを見て僕も嬉しくなった。

 とりあえず絵菜と一緒に三年五組の教室に向かう。三階まで上がって教室に入る。教室にはそこそこ人がいた。さて自分の席はどこだと探していたら、


「あら、日車くんも五組なのね、また一緒ね」

「あ、日車さん……! やった、また一緒ですね……!」

「……あ、日車くんも五組なのか、よかった」


 と、声をかけられた。見ると、大島聡美おおしまさとみ富岡愛莉とみおかあいり相原駿あいはらしゅんの三人がいた。

 大島さんは一年生の時からずっと一緒のクラスで、生徒会でも一緒の仲である。富岡さんは図書委員長をしている本好きのおとなしい女の子で、相原くんは学校をサボりがちだったが、僕たちと仲良くなって学校に来るようになった運動ができる男の子だ。みんな二年生の時に僕と一緒のクラスだった。


「あ、みんなまた五組なんだね、よかったよ」

「そ、そうね、私も嬉しいわ……って、あれ? 沢井さんも五組なのね、ふ、ふーん、まぁよろしくね」

「……あ、ああ、よろしく……」


 よ、よろしくと口では言っているが、一触即発の雰囲気があるのは気のせいだろうか。絵菜と大島さんは以前からどうも合わないようで、ぶつかることも多かった。ちょっとだけ仲良くなったかな? と思うこともあったのだが……。


「ま、まぁ、二人ともせっかく一緒のクラスになったし、仲良くね……あはは」

「そ、そうね、まぁ日車くんがそう言うんだったら仕方ないわね」

「……別にどっちでもいいけど」

「す、ストーップ! そのへんでやめておこう……」

「……日車くん、大変な毎日になりそうだね」

「日車さん、頑張ってください……!」

「う、うん、助けてもらえるとありがたい……」

「おっ、日車じゃーん、日車も五組なのかー! あ、姐さん!!」


 急に大きな声がしたので振り向くと、杉崎花音すぎさきかのん木下大悟きのしただいごの二人がいた。杉崎さんは茶髪の今どきのギャルで、僕をよくからかってくるような……そして木下くんは本とアイドルが好きで僕もよく話す友達だ。ちなみにこの二人はお付き合いをしている。


「あ、あれ? 杉崎さんと木下くんも五組なのか、けっこう知っている人が多いなぁ、嬉しいよ」

「ひ、日車くんと一緒になるの久しぶりだね、よ、よろしく」

「あははっ、姐さんとまた一緒のクラスなんてマジ嬉しすぎます! あたし今度こそ空飛べそう~なんちって」

「あ、ああ……よかった」


 杉崎さんが絵菜の手をとってぴょんぴょんと跳ねている。そう、杉崎さんはなぜか絵菜を慕っていて、いつもこんな感じなのだ。


「な、なんかみんな五組に集まったわね……」

「う、うん、びっくりというか、なんというか」

「あ、日車くんに、大島さん、沢井さんもいる」


 また声をかけられたので見ると、九十九伶香つくもれいかがいた。九十九さんは生徒会長で、学年トップの頭の良さ、そして切れ長の目で美人でもある。なぜか僕の近くにいることが多い気がするが、きっと気のせいだろう。


「あ、あれ? 九十九さんもここにいるということは……」

「うん、私も五組なの。よかった、知ってる人がいて……」


 九十九さんがススっと僕の隣に来て、僕の右手を握ってきた。


「え!? あ、そ、そうだね、僕も知り合いが多くて嬉しいよ……あはは……い、いてっ!」


 急に左手に痛みが走ったと思ったら、絵菜が僕の左手を思いっきりぎゅっと握っていた。


「……団吉のばか」

「え!? な、何もないからね、何もないよ!」

「お? 生徒会長も一緒なのかー、生徒会長に副会長に書記がいて、なんかすげークラスになったような気がするなーなんちって」

「ほ、ほんとね……びっくりだわ、こんなに集まることってあるのかしら……」

「……みんな日頃の行いがいいからとか?」

「す、すごいですね……でも嬉しいです、みなさんと一緒になれて……!」

「う、うん、僕も嬉しいんだけど、こんなことってあるのかな……」

「おーい、みんなそろそろ席についてくれー」


 どうやら先生が来たようだ。みんな席につく。あれ? どこかで聞いたような声だな?


「さて、この五組の担任になった大西浩二おおにしこうじだ。みんな一年間よろしくなー」


 な、なんと、担任は大西先生だった。大西先生は数学教師で生徒のこともよく見てくれている熱い人。授業がハイスピードなのが玉に瑕だが……これで僕と大島さんは三年間大西先生が担任になるのか。それもまたすごい偶然だなと思ったが、もしかして見えない力が働いているのか? 見えない力って何だ?

 と、とにかく、絵菜とも一緒になれたし、話せる人が多くてよかったなと思った。高校最後の一年だ、元気に頑張っていきたい。

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