第117話「修了式」
桜が咲くのがだんだん早くなってきている気がする。それも今日みたいな暖かい日が増えたからかもしれないなと思った。
今日は修了式の日だ。午前中で学校は終わるようになっている。全校集会とホームルーム。いつもの流れは変わらなかった。
日向と真菜ちゃんと長谷川くんは、先日中学校の卒業式を迎えた。「三年間が終わっちゃった……」と日向は少し寂しそうにしていたが、すぐに「四月からはお兄ちゃんの後輩だからね、そう思うと元気出てきた!」と、切り替えが早かった。ま、まぁいいか。
そんな日向をふと思い出した今はホームルームの時間。大西先生が色々と話していたが、
「――まぁ、堅苦しいことつらつらと言ったが、みんな一年間よく頑張ったな。四月からはみんな三年生だ。今度は受験を控える者が多いだろう。勉強は今以上に大変になるかもしれないが、たまに息抜きをして、メリハリをつけてしっかり高校生活を楽しんでくれ」
と、締めくくった。そうだ、ついに最上級生、受験生になるのだ。これまで以上に頑張っていかなければと思った。
二年生もたくさんの思い出ができた。大切な仲間たちとともに、楽しいことも、大変なことも、色々と経験して、僕はまた一つ大きくなれた気がする。
「ふー、終わったか……」
放課後、背伸びをしながらふと独り言を言ってしまった。このクラスもこれで終わりだ、少し寂しい気持ちになった。
「日車さん、ついに終わってしまいましたね……」
隣の席から富岡さんが話しかけてきた。
「終わったね、色々あったけど、このクラスになってよかったよ」
「はい、日車さんと話すようになって、本の話もたくさんできて、勉強も教えてもらって……日車さんには本当に感謝しています……!」
富岡さんがニコッと笑った。いつもほわほわとしている富岡さんの笑顔に僕はドキッとしてしまった。うう、僕も男なんだな。
「いえいえ、本の話楽しかったね、また三年生でも一緒になれるといいなぁ」
「……みんなお疲れ」
「ついに二年生も終わったわね」
富岡さんと話していると、相原くんと大島さんもやって来た。
「あ、日車さんとも同じ話をしていました……!」
「ああ、終わったね、なんか寂しい気持ちになってたよ」
「……俺もだよ、みんなのおかげで俺は三年生になれる。本当にありがと。みんなと同じクラスになれてよかった」
「私もみんなと同じクラスになれてよかったと思ってるわ。ありがとう、楽しかったわ。また三年生でも一緒になれるといいわね」
「私も楽しかったです……! 本当にお世話になりました……ありがとうございました……!」
「うん、僕も最初は心配もあったけど、みんながいてくれたから楽しかったよ。ありがとう、三年生でも一緒になれるように祈ってるよ」
「……あ、最後にあれやらない?」
相原くんが右手を出してきたので、僕たちは四人で右手を出してグータッチをした。みんな笑顔だった。僕たちが一つになれた気がした。
「……日車くん、沢井さんが待ってるみたいだけど、行かなくていい?」
相原くんの言葉に「え?」と思って廊下を見ると、絵菜がじーっとこちらを見ていた。
「あ、ご、ごめん、それじゃあ帰るね、またね」
「日車さん、それではまた……あ、RINEしますね」
「そうね、RINEでまた話しましょ、日車くんまたね」
「……俺もRINE送るよ。それじゃあまた」
みんなに挨拶をして廊下に出て、絵菜の元へと行く。
「ご、ごめん、待たせてしまった」
「ううん、最後だからな、私も杉崎や木下と話してきた。杉崎は三年生でも絶対一緒になりましょうと今から気合い入れてたけど」
「あはは、杉崎さんらしいね。じゃあ帰ろうか」
「うん、あ、あそこに寄って帰らないか?」
「ん? あそこ?」
絵菜が僕の手をとり、どこかへと歩いて行く。でも途中で絵菜がどこに向かっているのか分かってしまった。それは――
「や、やっぱり私たちといったらここかなと思って」
「なるほど、うん、そうだね」
僕たちは体育館裏へ来ていた。僕と絵菜の始まりの場所。最近はもう来ることもなくなってしまったが、去年も修了式の日にここに来た。
絵菜が体育館を背にして座ったので、僕も隣に座る。コンクリートの地面が少しだけ冷たいのも変わらなかった。
「二年生も、終わっちゃったな」
「うん、楽しいことがたくさんあったよ。絵菜は?」
「私も楽しかった。こんなに学校が楽しいと思えるようになるなんて、中学の頃の私に言っても信じてもらえないかも」
「そっか、僕も一緒だよ。絶対に信じてもらえない自信があるよ」
「……やっぱり、団吉が私のそばにいてくれるから、私頑張れる。本当にありがと」
絵菜がそう言って、僕の左腕にくっついてきた。
「うん、僕も絵菜に支えてもらっているから頑張れるんだ、本当に感謝しているよ。ありがとう……って、け、けっこう恥ずかしいね」
「ふふっ、団吉が去年ここで、私と真菜を守るって言ったの覚えてる? 団吉は本当に私たちを守ってくれた。私も真菜もすごく嬉しい」
「うん、覚えてるよ。心の中ではこれから何があっても、二人を守っていくって決めてたんだ。あ、でも真菜ちゃんも可愛いから高校生になったらいい人が現れるかも……そ、その時までだね」
「ふふっ、そうかもしれないけど、日向ちゃんみたいに、『彼氏は彼氏、お兄様はお兄様』って真菜は言いそう」
「あはは、たしかにそうかも。じゃあ、こんな僕ですが、これからもよろしくお願いします」
「うん、私も、これからもよろしくお願いします」
二人で目を見て、恥ずかしくなってちょっと笑うと、絵菜も笑っていた。そして絵菜がきゅっと抱きついてきた。や、ヤバい、ここ学校だけど……ま、まぁ、ここに来る人はいないからいいか。
嬉しいこと、悲しいこと、楽しいこと、辛いこと、人はたくさんのことを経験して大きくなっていく。僕たち高校生も一つ一つの経験がどれも大事なのではないかと思う。
絵菜の綺麗な金髪をなでながら、僕はたくさんのことを思い出していた。これからも絵菜と、みんなと、一緒に大きくなっていきたい。
その想いを胸に、僕たちはまた歩き出す。
――笑われても、君が好きだ。
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作者のりおんです。
これにて、二年生編の終了です。
ここまで長いこと読んでくださって、本当にありがとうございました。
三年生編も続きますので、ぜひそちらも楽しんでいただけると嬉しいです。
今後のことは別途近況ノートにてお知らせいたします。
今後とも、よろしくお願いします。
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