第114話「最後の挨拶」

 三月一日。今年は水曜日だった。

 今日はうちの高校の卒業式が行われる。二年生の僕たちは在校生として出席することになっている。

 先に僕たちが体育館へ集まる。三年生の保護者の方々も後ろに座っている。生徒会としてやることは少ないが、生徒会長の九十九さんは三年生に向けての在校生代表の送辞がある。昨日九十九さんと話すと「さ、三年生のみなさんの前で緊張する……でも頑張る」と言っていた。いつもの九十九さんなら大丈夫だろうと思った。

 三年生か、来年は僕たちが主役になるんだなと思っていると、式が始まった。


「――卒業生の入場です」


 大きな拍手と吹奏楽部の演奏で迎えられ、三年生が並んで入って来た。あ、慶太先輩の姿が見えた。慶太先輩には本当にお世話になった。結局、他の元生徒会役員の方々とはあまり話すことができなかったんだけど、その分慶太先輩が色々と教えてくれた。僕たちのことをいつも気にかけて、たくさん褒めてくれた。

 最初、慶太先輩に話しかけられた時は、正直めんどくさい人だなと思ってしまった。でも、僕のことをまっすぐ見てくれて、僕のいいところ、悪いところを僕以上に分かってくれた気がした。本当にすごい人だ。つ、ついでになぜか絵菜のことを気に入られてしまったのだが……あれから僕の意識は変わった。絵菜をとられたくない、誰にも負けたくないという気持ちが大きくなった。そこは本当に感謝している。

 三年生が全員入って来て座った。これから卒業証書授与が行われる。一組から八組までの各クラスの代表が壇上へ上がって受け取る。続いて校長先生からの式辞があった後、九十九さんが前に出て在校生代表の送辞を行った。九十九さんはいつも通り落ち着いていて、しっかりと話すことができていた。

 その後、卒業生代表の答辞として、慶太先輩が前に出た。慶太先輩も九十九さんと同じく落ち着いた口調で話すことができていた。

 最後にみんなで校歌を歌う。三年生はこれが最後だ。いつもよりも歌声が大きく感じた。

 そして三年生が大きな拍手で見送られ退場した。これで式は終了だ。僕たちも解散となる。


「……終わったわね、ちょっと九十九さんのところ行かない?」


 解散となった後、大島さんが僕のところに来た。


「あ、うん、そうしようか」


 僕と大島さんは一緒に九十九さんのところへ行く。九十九さんは僕たちを見つけると、


「あ、お疲れさま」


 と言ってニコッと笑顔を見せた。その笑顔も美人で僕はドキッとしてしまった。ぼ、僕は何を考えているのだろう。


「お疲れさま、九十九さんさすがだね、送辞も完璧だったよ」

「あ、う、ううん、実はとてもドキドキしてたの……やっぱりみんなの前で話すのは緊張する」

「そうね、完璧だったのはいいんだけど……なぜあなたたちは手をつないでいるのかしら?」


 大島さんがプルプルと震えながら言った。そう、九十九さんがススっと僕の隣に来て手を握ってきたのだ。そ、そういえば久しぶりのような気がする。


「……? どうしたの?」

「あ、い、いや、いつの間にか九十九さんが隣にいたというか、その、あの……」

「……そろそろ沢井さんに報告した方がよさそうね」

「え!? い、いや、それだけはやめてください、お願いします……」

「……まぁいいわ、三年生が出てきたら、最後だし慶太先輩に挨拶しに行かない?」

「あ、そうだね、玄関のところで待っておこうか」


 僕たちは体育館から玄関の前へ移動した。しばらく待っていると、三年生が最後のホームルームを終えて出てきた。みんな笑顔だったり、ちょっと目に涙を浮かべていたりして、そんな三年生を見ていると、これで終わりということが伝わってきた。

 そんな中、慶太先輩の姿が見えた。色々な人と話をしていて、さすが元生徒会長だなと思った。


「――あ、やあやあ、伶香さんに団吉くんに聡美さんじゃないか」


 慶太先輩が僕たちに気づいてこちらにやって来た。


「あ、慶太先輩、ご卒業おめでとうございます」


 僕がそう言うと、九十九さんと大島さんも「おめでとうございます」と続けた。


「ありがとう、みんなに見送ってもらえるなんて、ボクは嬉しいよ」

「僕たちも慶太先輩にはお世話になったので、最後にご挨拶をと思って。色々とありがとうございました」

「いやいや、ボクは大したことはしてないよ。たしかに最初は声をかけたかもしれないけど、その後はみんなが決めて、みんなが頑張ったんだ。これからも頑張ってくれたまえ」

「は、はい、結局他の元生徒会役員のみなさまとはあまり話せないままでしたが……」

「ああ、みんなひどいよね、これからもこの青桜高校を引っ張っていくみんなと話さないなんてね。まぁその分、ボクがみんなのことをちゃんと見ていたんだけどね」

「あ、は、はい……」

「……うんうん、予餞会の時も言ったけど、三人ともいい目をしているね。ここにはいないけど蒼汰くんも一緒かな。これならボクは安心して卒業できるよ」

「は、はい……あ、そういえば、大学受験の方はどうなりましたか?」

「ああ、私立は一校受かって、本命の国公立の方は合格発表はもう少し先なんだ。もうしばらくドキドキしながら過ごすことになりそうだよ」

「そ、そうなんですね、きっと大丈夫ですよ」

「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいよ。じゃあボクはそろそろ行くね、あ、絵菜さんと会えなかったのが残念だけど……」


 や、やばい、慶太先輩が最後に爆弾を落とした。大島さんが「ん? 絵菜さん……?」と反応していたので、


「あ、あ、ありがとうございました!!」


 と、ちょっと大きめの声で僕が言った。九十九さんも大島さんも続けて「ありがとうございました」と言った。慶太先輩はニコニコしながら手を振って行った。


「……これで終わったわね、最後に気になること言ってたけど……」

「あ、い、いや、何かの聞き間違いじゃないかな……あはは」


 う、うう、最後の最後まで絵菜のことを気にしているなんて……僕は一人でドキドキしていた。

 でも、これからも四人で力を合わせて頑張っていきたいと思った僕たちだった。

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