第113話「二年生最後」

 二年生最後の定期テストの日がやって来た。

 僕は今回もしっかりと準備を行ってきたつもりだ。昼休みに絵菜や火野や高梨さんに数学を教えたり、放課後に五組のみんなで集まって勉強をしていたのはこれまでと同じだった。二年生最後のテストだ、みんな赤点もなくいい成績をとってもらいたいものだ。

 今日は古文、生物、数学、明日は英語、世界史、現代文、物理、明後日はその他副教科という日程でテストが行われる。


「じゃあ、テスト始まるから荷物を廊下に出してくれー」


 大西先生のいつもの言葉で、僕たちは動き出す。さて荷物を置いておこうかと思ったら、相原くんと富岡さんが立っていたので、僕は三人分のスペースをとって二人を呼んだ。


「……日車くん、今回もありがと、最後も赤点とらないように頑張る」

「日車さん、いつもありがとうございます……! 最後なので私も頑張ります……!」

「うん、みんなで頑張っていい成績をとって、気持ちよく三年生になろうね」


 三人で話していると、大島さんがニコニコしながらやって来た。


「ふっふっふ、日車くん、最後の勝負がやって来たわね! 絶対負けないわよ!」

「えぇ、また言ってるのか……と言いたいところだけど、うん、大島さんには負けないよ。九十九さんにもなんとか近づけるように頑張るつもりだよ」

「や、やっぱり日車くん、カッコよくなったわね……いいわ、そうこなくっちゃ。今回もみんなで頑張りましょ」

「……あ、いつものあれ、やっとかない?」


 相原くんが右手を出してきたので、僕たち四人は右手を出してグータッチをした。

 うん、これで気合いが入った気がする。二年生最後だ、みんないい成績になりますように。



 * * *



 数日後、いつものようにテストの結果が全部出揃った。

 僕は学年で三位だった。くっ、前回から一つ落ちてしまったか。でもかなりいい成績なのではないかと思う。

 数学がどんどん難しくなっている。二年生最後ということで、範囲が広かったのもあるのかもしれない。平均点も低めだった。しかし僕はいつも通り百点をとることができた。これは大満足だ。大西先生が「最後まで百点なのか……」と、涙目だったのはなぜだろうか。

 成績上位者の貼り紙を見ると、九十九さんがまた一位に戻っていた。前回は思わぬ事態で成績が落ちてしまったが、しっかりと一位を取り戻すところがすごいと思う。また九十九さんを目標に頑張りたいところだ。


「ひ、日車くんは三位なのね……くっ、また負けてしまったわ……」


 大島さんがやって来て、震える声で言った。たしか大島さんは五位だった。もしかしたら一番よかったのではないだろうか。


「大島さん、今回も勝たせてもらったよ。でも大島さんも一番よかったんじゃない?」

「そうだけど、あなたに勝てない五位なんて意味がないわ……どうしてかしら、一緒に勉強もしているし、家でも頑張っているのに……そろそろ打ち首かしら、私なんてもうどうしようもない女だわ……」

「お、大島さん落ち着いて……そういえば九十九さんはまた一位に戻っていたね。すごいなぁ」

「そうね、さすが九十九さんだわ。この前のはたまたまだったのかしら」


 そういえばこの前のことは大島さんは知らないのだった。でも僕が話すわけにはいかなかった。


「そ、そうだね、たまたまだったのかもしれないね」

「くっ、残念だけど、三年生になったら絶対に日車くんに勝つからね、油断しないことよ」

「うん、油断はしないようにするよ。また一緒に頑張ろう」

「ひ、日車さんと大島さん、すごいです……! さすがライバルなだけありますね……!」


 隣の席から富岡さんが話しかけてきた。


「あ、富岡さんはどうだった?」

「私は八十八位と、今までで一番よかったです……! 数学も物理も自分にしてはよくできたし、赤点もありませんでした。これも日車さんと大島さんのおかげだと思います……本当にありがとうございます……!」

「そっかそっか、みんなで勉強したのがよかったよね。理系科目がよくできてたようでよかったよ」

「……みんなすごいな、やっぱり俺はみんなには全然届かないや」


 相原くんがやって来て、ちょっと寂しそうな声を出した。


「あ、相原くんお疲れさま、どうだった?」

「……俺は百六十三位だった。みんなには及ばないけど、今までで一番よかったよ」

「おお、そうなんだね、あ、数学よくできてるね、平均点よりもずいぶん上だね」

「……うん、危ないのもあったけど、赤点も回避できたし、これは間違いなく日車くんと大島さんのおかげだよ。ありがと」

「いやいや、相原くんが頑張った結果だよ。最後のテストで赤点とったらめんどくさそうだもんね、よかったよ」

「……うん、去年は赤点が多くて課題や追試がめんどくさかった。まさか俺がこんな成績とれるなんて思わなかったよ」


 相原くんがポリポリと顔をかいている。ちょっと恥ずかしいのだろうか。


「相原くんもよかったじゃない。やっぱりちゃんと学校に来ているのが大きいんじゃないかしら」

「そうですね、相原さん、全然休まなくなりましたね……! 私も学校で会えて嬉しいです……!」

「……うん、それにもびっくりしてる。やっぱりみんながいるからかな」

「うんうん、やっぱり話せる友達がいると自然と学校に行きたくなるものだよね、気持ち分かるよ」


 そうだ、僕も一年生の最初の頃は友達もほとんどおらず、学校がめんどくさいと感じていた。こうして話せる友達が増えると嬉しいものだ。相原くんの気持ちがよく分かった。


「それにしても、これで二年生のテストも終わったのね」

「そうですね、なんかあっという間だったような気がします……」

「……うん、あっという間だった。もうすぐ三年生か、実感わかないけど」

「そうだね、みんな赤点もなく無事に三年生になれそうでよかったよ。また三年生でもみんなで頑張っていこう」


 そっと気合いを入れる四人だった。

 後から聞いたら、絵菜も火野も高梨さんも二年生で一番成績がよく、赤点もなかったらしい。よかったよかった。

 なんとか無事に終わることができて、ほっとしているみんなだった。

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