第111話「チョコレート」
「お、おい、何が行われるんだ……?」
「お、俺も火野に言われてきたから、何のことだか……」
「ひ、日車くん、一体何が起きようとしているの……?」
「さ、さぁ……僕もとりあえず来るようにしか言われてないから、何のことだか……」
二組の前の廊下で、僕と火野と中川くんと木下くんは、同じように頭にハテナを浮かべていた。とは言っても、僕は去年の経験からだいたいの予想はついた。今日は二月十四日、バレンタインデーだった。高梨さんに「男性陣は昼休みに私のクラスの前に全員集合だよー!」と言われて集まったのだ。となると行われることはただひとつ――
「ふっふっふー、みんな集まったねー、陽くん、今日は何月何日かな?」
「に、二月十四日です……」
「正解! ということは日車くん、何の日だか分かるね?」
「ば、バレンタインデーです……」
「その通り! というわけで、私と絵菜からチョコを配りまーす!」
高梨さんが「じゃーん」と言いながらチョコを取り出した。去年も同じようなことがあった気がする。
「まずは私からねー、はい、四人ともどうぞー」
「お、おう、サンキュー」
「あ、高梨さん、ありがとう!」
「はひ!? ぼ、僕も……!? あ、ありがとう」
「あ、ありがとう」
「ふっふっふ、去年は手作りだったけど、今年はさすがに時間がなくてねー、でも絵菜と一緒に色々見て選んだものだから、美味しいと思うよー」
そういえば去年はうちにみんな集まってチョコ作りをしていたなと思い出した。今年も女の子からチョコをもらってしまった。
「あ、わ、私からも、みんなに……その、優子のとはちょっと味が違うから、美味しいと思う……」
絵菜が恥ずかしそうにみんなにチョコを渡す。
「お、おお、沢井もサンキュー」
「沢井さん、ありがとう!」
「はひ!? あ、ありがとう」
「あ、絵菜、ありがとう」
「だ、団吉、今年はごめん、手作りできなかった……でも美味しいと思うから、食べて」
「ううん、嬉しいよ、ありがたくいただくね」
「はい、私と絵菜からは以上でーす、皆の衆、解散!」
「「「「は、はい……」」」」
こ、今年もなんかあっさりしているなと思ったが、言うと怒られそうなのでやめておいた。
僕はチョコを手にして五組の教室に戻っていると、
「あ、団吉さん!」
と、声をかけられた。振り向くと東城さんがニコニコしながら来ていた。
「あ、東城さん、こんにちは」
「こんにちは! ちょうどよかった、今日は団吉さんに渡したいものがありまして!」
東城さんが、「じゃじゃーん!」と言いながら可愛らしい袋を僕に差し出した。
「ふふふ、今日はバレンタインデーですからね、私から団吉さんへプレゼントです!」
「え!? あ、ありがとう、い、いいのかな……」
「もちろん! 今年は手作りはできませんでしたが、美味しいと評判のところのチョコなので、ぜひ食べてください! あ、他の人にも渡して来ないと! すみません、それでは失礼します!」
東城さんがペコリとお辞儀をして戻って行った。今年ももう三人の女の子からもらってしまった。火野の言う通り、僕もモテているのだろうか……いや、それは考えすぎか。
教室に戻って自分の席を見ると、なぜか可愛らしい袋が二つ僕の机の上に置いてあった。
「……あ、あれ? これは何だろう……?」
ついぽつりと独り言を言ってしまった。ピンクと赤の包みにどちらもリボンがついていた。ま、まさか……と思ったが、一体誰がここに?
「あ、日車さん、お疲れさまです……!」
隣の席から富岡さんが話しかけてきた。
「あ、富岡さん、これ誰が置いたのか知ってる?」
「あ、いえ、私は本を読んでいたのですが、気がついたらここにありました……」
「そ、そっか、うーんどういうことだろう……」
「……日車くん、お疲れ」
「あら、日車くん戻ったのね」
富岡さんと話していると、相原くんと大島さんがやって来た。
「あ、うん、戻ったのはいいんだけど、こ、これは何かなと思っていたところで……」
「ああ、ちょっと前に九十九さんと杉崎さんが来て日車くんを探していたわよ。いないって言うとこれを置いていったわ。まぁ想像つくと思うけど、チョコよ。九十九さんが恥ずかしそうにしていたわね」
な、なんと、九十九さんと杉崎さんだったのか。やはり想像通りこれはチョコらしい。しまった、二組に行っている間に来てくれたのか。後でお礼を言いに行かねばと思った。
「そ、そっか、いない時に来てくれたのか、なんか申し訳ないことしたな……」
「今日はバレンタインデーだからね、ありがたくいただいておいた方がいいんじゃない? ま、まぁ、私も日車くんと相原くんにチョコ持ってきたんだけど……もらってくれる?」
大島さんが恥ずかしそうにしながら僕と相原くんに可愛らしい袋を渡してきた。
「え!? あ、ありがとう……」
「……お、俺も? あ、ありがと……」
「ま、まぁ、今年も手作りはできなかったんだけど、また美味しいって評判のところのものだから、二人とも食べてね」
「そ、そっか、毎年大島さんも女の子なんだなと思う日になってきたよ……」
「な、なによ失礼ね、私だって男の子にチョコくらいあげるわよ……って、あれ? 去年も同じようなこと言ってたような……」
「あ、あの……じ、実は私もお二人に、ちょ、チョコを持ってきたのですが……」
富岡さんが赤くなりながら僕と相原くんに可愛らしい袋を渡してきた。
「え!? と、富岡さんも、あ、ありがとう……」
「……あ、ありがと……」
「い、いえいえ、わ、私、男の子にチョコあげるの初めてで……お、お恥ずかしいのですが、手作りしてみました……」
「そ、そうなんだね、よかったのかな、僕なんかが初めてで……」
「……お、俺も、何もしてないのに、いいのかな……」
「いえいえ、お二人にはいつもお世話になっていますので……や、やっぱり恥ずかしいですが……」
「と、富岡さんは手作りなのね、くっ、なんか負けた気がするのは気のせいかしら……」
「はわっ! そ、そんな、大丈夫ですよ、何も勝負してないので……」
富岡さんがあわあわと慌てている。そ、そっか、富岡さんは初めてチョコをあげるのか。嬉しいけど、本当にいいのかなという気持ちになってしまった。
あれ? よく考えてみると、これで七人の女の子からチョコをもらったことになる。どういうことだろう、やっぱり僕にもモテ期が来てしまったのだろうか。い、いや、たまたまだよな……。
あ、もうすぐ午後の授業が始まる。あれこれ考えても仕方がない。僕はありがたく思いながら鞄にチョコをしまった。
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