第109話「予餞会」

 寒い日が続いている一月も最後の日。明日から二月だ。

 今日は学校で予餞会よせんかいが行われる。簡単に言うと卒業が近くなった三年生を送る会だ。うちの高校は二年生と三年生が参加するようになっている。

 体育館に二年生と三年生が集まり、会が始まろうとしている。生徒会が中心となって動くため、司会進行は僕だ。またたくさんの人の前で話さなければならず、僕は緊張していた。


「――それでは、予餞会を始めさせていただきます。まず最初に、生徒会長の九十九さんより、三年生のみなさまへご挨拶があります」


 体育館に僕の声が響き渡った。よかった、なんとか噛まずに話すことができている。頭の中ではよくシミュレーションするのだが、実際に話すとまた違うのでドキドキだ。

 そんなドキドキの僕とは違って、九十九さんはいつも通り落ち着いた口調で挨拶を行う。本当にすごいなと思った。

 九十九さんの挨拶が終わり、僕が話すことになる。


「――九十九さん、ありがとうございました。それでは、吹奏楽部による演奏と、二年生有志によるダンスを行っていただきます」


 吹奏楽部による演奏と、二年生有志によるダンスが始まった。ステージ上と最前列で各メンバーが披露している。三年生が手拍子も始めた。僕はその様子を見ながらこの後の流れがどうだったか確認していた。

 演奏とダンスが終わり、また僕が話すことになる。


「――ありがとうございました。次は、三年生のみなさまが入学されてから今日までの思い出をまとめましたので、前のスクリーンをご覧ください」


 体育館の照明が落とされ、スクリーンに映像が映し出される。三年生が入学した直後や、三年間の写真がたくさん映し出され、三年生は時々歓声を上げていた。この映像は僕たち生徒会が中心となって、先生も加わって作ったのだ。みなさん懐かしい気持ちになっているのだろうか。

 続いて三年生がお世話になった先生方からのメッセージビデオが映し出された。保健の北川先生もメッセージを送っている。今はうちの高校を離れてしまった先生方からのメッセージもあって、三年生はここでも歓声を上げていた。

 メッセージビデオが終わった後、学年主任の先生が前に出てきて、挨拶をした。ちょっと面白いことも言っていて、この場は笑いに包まれた。

 学年主任の先生からの挨拶が終わり、また僕が話すことになる。


「――ありがとうございました。それでは最後に全員で校歌を歌いたいと思います。全員起立をお願いします」


 全員立って、校歌を歌った。高校生になると校歌を歌う機会も少ないが、三年生はあとは卒業式くらいだろうか。


「――以上で、予餞会を終了します。この後は自由時間となりますが、PTAの方々より豚汁とおにぎりが用意されています。ぜひみなさまお楽しみください」


 僕の言葉で予餞会は無事終了となった。みんなわいわいと話し出す。ふーっと息を吐いていると、九十九さん、大島さんが話しかけてきた。


「日車くん、司会お疲れさま、なんとか終わったわね」

「日車くん、お疲れさま、ちゃんとできててよかったよ」

「あ、お疲れさま、やっぱりみんなの前だと緊張するね、噛まずに話せてよかったよ。あ、僕たちも豚汁もらいに行こうか」


 三人でPTAの方々が用意してくれた豚汁とおにぎりをもらう。席について食べてみる。うん、温かくて美味しい。


「私たちも、来年の今頃はこうやって見送られる側になるわね」

「うん、ついに三年生かぁ、不思議な感じがする」

「うん、そうだね。まだあまり想像できないけど、あっという間なんだろうなぁ」

「やあやあ、伶香さんに団吉くんに聡美さん、お疲れさま!」


 三人で話しているところに、慶太先輩がやって来た。


「あ、お疲れさまです。慶太先輩ももうすぐ卒業ですね」

「ああ、写真やメッセージビデオを見ながら、色々思い出していたところだよ。懐かしいね、ボクもドキドキしながら初めて校門をくぐった日を覚えているよ……って、僕の話は置いておいて、みんなすごく成長したみたいだね、ボクは嬉しいよ」


 慶太先輩がニコニコしながら言った。


「あ、いえいえ、まだまだ勉強することが多くて大変ですが、生徒会は四人で力を合わせてやっているので」

「うんうん、やはり四人に声をかけて正解だったよ。ボクの目は間違いなかったようだ。これからも大変なことは多いと思うけど、四人で支え合っていけば大丈夫だよ」


 慶太先輩の言葉に、僕たちはそろって「はい」と答えた。


「うんうん、みんないい目をしているね。初めて会った時とはまた違って、すごくたくましい目だ。素晴らしいことだよ」

「ありがとうございます。あ、慶太先輩はもうすぐ受験日ですか?」

「ああ、私立が一校終わったんだけど、来月は国公立があるね。ボクはそちらが本命だから、油断しないように気をつけているところだよ」

「なるほど、頑張ってください、応援しています」

「ありがとう、みんなに応援してもらえると嬉しいよ。それじゃあボクは失礼するね」


 慶太先輩が離れようとして、「あ、そうだ」と言いながら僕の元にそっと近づいて、


「絵菜さんは元気かい? また会いたいな」


 と、小さな声で言った。


「え!? あ、は、はい、元気です……」

「そうかそうか、よろしく伝えておいてくれたまえ。それじゃあまたね」


 慶太先輩がニコニコして手を振りながら行った。


「ん? 日車くんどうかしたの?」

「え、あ、いや、なんでもないよ……あはは」

「そう、それにしても受験か、そういえば九十九さんは大学受けるのかしら?」

「う、うん、一応そのつもりだけど、まだハッキリとここというところは決めてないかも」

「そっか、みんな似たようなものだね、僕も大島さんもまだ迷ってるし……」

「そ、そっか、なんかホッとした……私だけかなって思ってたから」

「大丈夫よ、まだ時間はあるし、これからじっくり考えていきましょ」


 三人でうんうんと頷きながら話した。そっか、みんな迷うことも多いのだな。自分だけではないと分かって僕もホッとしていた。

 もうすぐ三年生が卒業して、今度は僕たちが三年生になる。この前絵菜と話したように、残りの高校生活を楽しんでいきたいなと思った。

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