第103話「進路」

 始業式の次の日、さっそく三学期の授業が始まった。

 僕は気合いを入れて授業に臨んだ。授業はどの教科も新しい単元に入って覚えることが多く、大変だ。でもへこたれるわけにはいかない。三学期もいい成績を残さなければならないのだ。

 四時間目が終わり、昼休みになる。今日は母さんがめずらしく寝坊してお弁当が作れなかったので、学食で何かを買うことにする。とりあえず学食に行くかと思って廊下を歩いていると、トントンと肩を叩かれた。振り向くと絵菜がいた。


「お疲れさま、団吉も今から行くのか、一緒行こ……って、あれ? 団吉手ぶらだな」

「お疲れさま、うん、今日は母さんが寝坊しちゃって、お弁当がないんだ」

「そっか、たまには学食で何か買うのもいいよな」

「うん、何にしようかなぁと迷ってるよ」


 二人で学食に行くと、奥に火野と高梨さんが座っているのが見えた。僕は先に食券を買いに行く。うーん、改めてみると色々あるな、人気なのは親子丼やカツ丼だが、カレーもいいな、かきあげうどんも美味しそうだ。僕は迷ったが、ちょっと贅沢にカツカレーにした。学食のおばちゃんに食券を渡して少し待つと、美味しそうなカツカレーが出てきた。受け取ってから火野たちの元へ行く。


「おーっす、お疲れー、お、団吉今日は弁当じゃないのか」

「お疲れさま、うん、母さんが寝坊しちゃってね、たまにはいいかなと」

「やっほー、お疲れさまー、あ、カツカレーか、美味しそうだねぇ、私も今度食べようかな」

「あ、団吉のカツカレー見たら、私も食べたくなってきた……」

「あはは、うちの高校は学食も人気だよね、どれも美味しそうだもんなぁ」


 そんなことを話しながら、僕はカツカレーをいただく。あ、辛さもちょうどよくて、カツも美味しい。また食べたくなる味だ。


「あー三学期が始まっちまったなぁ、みんな冬休みはどうだった? 俺は相変わらず部活で忙しかったぜ」

「私も部活の毎日だったよー、そういえば新人戦はうちのバスケ部もサッカー部も、いい結果だったみたいだねぇ」

「あ、そうなんだね、サッカー部もバスケ部も頑張ってるなぁ。まぁ火野や中川くんや高梨さんがいれば大丈夫か」

「ああ、でももう少し先まで勝ちたかったなぁ。団吉はバイトだったのか?」

「あ、うん、後半はバイト頑張ってたよ。あと日向たち三人の勉強見てあげたり」

「そっかー、入試もうすぐだもんねぇ。三人もうちの高校受けるんだっけ?」

「うん、うちにどうしても入りたいみたい。まぁ油断しなければ大丈夫かな、日向が心配だけど……」

「みんなすごいな……私なんて何もしてない」


 僕の横で絵菜が悲しそうな声を出した。


「そんなことないよー、絵菜はちゃーんと日車くんのそばにいてあげないと。『団吉、私の愛を受け取って……』ってさー」

「なっ、あ、ああ、団吉のそばにずっといたい……」


 絵菜がそう言って、僕の左手をきゅっと握ってきた。


「あ、う、うん、絵菜がそばにいてくれるのが一番嬉しいよ……はっ!?」


 ふと前を見ると、火野と高梨さんがニヤニヤしながら僕たちを見ていた。うう、この感じ久しぶりだな。

 ま、まぁ、三学期もなるべく絵菜と一緒にいたいと思う僕だった。



 * * *



 その日の五時間目は生物だった。僕と絵菜が早めに第一理科室に行くと、杉崎さん、木下くん、大島さんがいるのが見えた。


「おっ、二人ともお疲れー、仲良く登場かぁ、いいなーあたしもイチャイチャしたいかもなーなんちって」

「お疲れさま、い、イチャイチャしてるわけじゃないけどね……」

「お、お疲れさま、ひ、日車くんそういえばパソコン使ってる?」

「あ、うん、ちょくちょく使ってるよ。スマホよりも画面が大きくて便利だね。英語のメールも打ちやすかったよ」

「そ、そっか、よかったよ。分からないことあったら何でも聞いてね」

「あら、日車くん英語のメールって、誰かにメール送ってるの?」

「うん、修学旅行のファームステイ先の娘さんとメールしてるよ。今度相原くんを呼んでビデオ通話もやってみようかなって思ってて」

「そうなのね、英文打てるなんて、さすが日車くんね」

「まぁ、僕もまだまだ知らない単語があるから、ちょいちょい調べながらになるけどね。普段から英語を勉強していても、なかなか難しいもんだなぁ」

「そうね、私もファームステイでもっと英語勉強しようと思ったわ。まぁ、今でも日車くんには負けてないけどね」


 大島さんがドヤ顔を見せた。たしかに、大島さんの方が英語の成績が上の時もある。僕も負けられないなと思った。


「……大島がドヤ顔決めたところで、団吉には勝てないんだけどな」

「さ、沢井さん!? 聞こえてるわよ、ま、まぁ、三学期のテストは日車くんに負けないからね! 覚悟しておきなさいよ」

「えぇ、もうテストのこと言ってるの……まだまだ先だよ」

「はー、なんか頭のいい奴らは大変そうだなー、あたしバカでよかったよー、余計な争いはしたくないみたいな?」

「い、いや、好きで争ってるわけじゃないんだけどね……あはは」

「そ、そういえばみんな、進路は決めた? 今度また進路希望調査があるはずだけど」


 木下くんの言葉で思い出した。以前も一度あったが進路希望調査が行われるのだった。なんか難しそうな名前がついているが、希望する大学や専門学校、就職先を書いて提出して、先生と話すのだ。うちの高校は進学する人がほとんどだった。


「あ、そうだったね、僕はいくつか理学部系の大学を書こうと思ってるよ」

「私も理学部系と情報工学部系の大学かしらね、まだ決めかねているけど」

「日車と大島は大学かー、あたしどうしようかなー、介護系の専門学校にしようかなー」

「そっかそっか、専門学校というのも悪くないよね。絵菜と木下くんは決めてる?」

「ぼ、僕は臨床心理士にちょっと興味があって、人間科学部ってところを受けてみようかなって思ってるよ」

「おお、臨床……なんとか? なんか難しそうだなー、でも大悟を応援するよー」


 木下くんが少し恥ずかしそうにしている……のだが、絵菜がなぜかおとなしい。何か気になることでもあったのだろうか。


「え、絵菜? どうかした?」

「あ、いや、みんな偉いなと思って……私はまだ全然思いつかなくて」

「姐さん、大丈夫ですよ、あたしもまだ迷ってるし、これから決めていけばいいですよ!」

「そうよ、私だって迷ってるわ。まぁ、沢井さんもこれからやりたいことが見つかるかもしれないし」

「お、大島さんがめずらしく絵菜のこと励ましてる……」

「な、何よ、わ、私は思ったことを言っただけよ。沢井さん、あまりしょんぼりしなくていいわよ」

「う、うん……」


 お、おお、今までなかった大島さんの言葉だった。これは二人が仲良くなる日も近い……?

 でも、今日はちょっと元気がなさそうな絵菜だった。みんな頑張っていて自分が何も出来ていないように感じるのだろうか。絵菜とゆっくり話してみたいなと思った。

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