第102話「三学期」

 休みというものは、必ず終わりがやって来る。まぁ誰にでも平等なので、仕方ないと思うことにしよう。

 冬休みが終わり、今日から三学期が始まる。僕は去年と同じく勉強もバイトも頑張った。昨日は日向が真菜ちゃんと長谷川くんを家に呼んで、僕に勉強を見てほしいと言っていたので、とことん付き合ってあげた。実は絵菜も真菜ちゃんと一緒に来ていたのは、これも仕方のないことだと思うことにしよう。いや、密かに嬉しかったりする。

 今日は朝一緒に学校へ行かないかと、絵菜が言っていたので準備を済ませて待っていた。しばらくするとインターホンが鳴ったので、出ると絵菜が来ていた。


「お、おはよ」

「おはよう、は、早いね」

「うん、早く団吉に会いたくて、つい」

「あはは、そっか、じゃあ早めに学校行こうか」


 日向と母さんに「いってらっしゃーい」と見送られ、僕と絵菜は学校へと歩いて行く。今日も風が冷たかった。絵菜はニコニコしながら僕の左手を握ってきた。


「冬休みも終わっちゃったな……色々あったけど、楽しかった」

「うん、僕も楽しかったよ。昔は学校始まるのが嫌だったような気がするんだけどなぁ」

「私も嫌だった。先生たちには怒られるし、友達もほとんどいなかったから、めんどくさいと思ってた」

「そっか、今は違うの?」

「うん、団吉がいるから、とても楽しい。団吉のお父さんにもずっと一緒にいたいって言ったから、離れたくない」

「あはは、うん、僕はずっと一緒にいるから、安心してね」


 絵菜がニコッと笑顔を見せた。や、やっぱり可愛い……ああ神様、僕はなんて幸せ者なのでしょうか。あ、でも今後試練が待ち受けているとか、そういうことはありませんよね?

 ……と思っていたら、さっそく試練はやって来た。学校が近くなってもニコニコで手を離さない絵菜。学校が近くなるということは、当然登校している生徒も増える。ま、周りの人がこちらを見ている気がする……やばい、僕は生徒会に入ったことで、生徒の前に出ることもあってちょっとだけ僕のことを知っている人も増えたと思う。は、恥ずかしいな……でも、笑顔の絵菜を見たらどうでもよくなっていた。

 そんな笑顔の絵菜も、教室の前に来るとちょっとしょんぼりする。やはり別のクラスというのが寂しいみたいだ。


「じゃあ、また後でね」

「うん……」


 あ、明らかにしょんぼりしている……うう、すごく申し訳ない気持ちになるけど、ここは心を鬼にして教室に入る。ふと席を見ると後ろの富岡さんがもう来ていることに気がついた。富岡さんは本を読んでいるみたいだ。


「おはよう、富岡さん早いね」

「あ、おはようございます……! はい、たまには早く行こうと思って……」

「そっか、僕もだよ。何の本読んでたの?」

「え、あ、ひ、日車さんならいいか……あの、『純情アンバランス』の新刊が出て、昨日読んでたんですけど途中で寝ちゃったから、続きを楽しんでました……!」

「ああ、なるほど、そういえば去年アニメがあったみたいだね。ぼ、僕はさすがに見てないけど……」

「はい……! アニメもすっごく楽しかったです……! もう主人公も先輩も友達もワチャワチャで……はっ!? す、すみません、またドン引きされるところでした……」

「いやいや、好きな小説がアニメ化ってなると嬉しいよね、気持ちよく分かるよ」

「……二人ともおはよ」

「あら、みんなおはよう、早いわね」


 富岡さんと話していると、相原くんと大島さんが登校してきた。


「あ、おはようございます……!」

「あ、おはよう、みんな早いね」

「そうね、新学期ということで気合い入れて早く行こうと思ってね」

「……俺もだよ。まさか学校が楽しみになるとは思わなかった」

「そっか、学校が楽しいのはいいことだと思うよ」


 しばらく四人で話していると、大西先生が「おーい、みんなそろそろ体育館へ行ってくれー」と言いに来た。始業式が体育館で行われる。また校長先生の長い話を聞いて、いつも通りだなと思いながら教室に戻ってきた。


「よーし、新学期恒例の席替えをやるかー!」


 ホームルームで、大西先生が大きな声で言った。


「あ……そうか席替えですね、この席よかったのにな……」

「……うん、今度はみんな離れてしまうかもしれないね」

「そうね、さすがに二回連続で四人が集まるなんてことはないと思うわ……」

「たしかに、まぁ二学期が奇跡のような気がするから、仕方ないね……」


 みんな少ししょんぼりとした顔になった。大島さんの言う通り、さすがに二回連続でこの四人が集まることはないだろう。


「今回は窓側の人から順番にくじを引いていってくれー」


 なるほど、僕たちは真ん中の後ろあたりにいるから、くじを引くのも中間くらいでいいのかもしれない。

 順番でいくと四人で一番最初にくじを引くのは僕だ。どんどん進んでいって僕の順番がやって来た。


「日車は九番だなー、よし次ー」


 九番か、席の番号が書かれた黒板を見ると、今の席から左斜め前にひとつ移動しただけだった。まぁ今度も前過ぎず後ろ過ぎず、良さそうな気がした。


「私は十五番でした……あ! また日車さんと近いですね……!」


 くじを引き終えて戻ってきた富岡さんが嬉しそうな声を出した。あ、ほんとだ、今度は僕の右隣が富岡さんになった。ここまでずっと席が近いのはある意味奇跡だろう。


「ほんとだね、よかった、またよろしくね」

「はい、よろしくお願いします……! やった、また日車さんと本の話ができる……!」

「……あ、一番前になってしまった……」


 相原くんが悲しそうな声を出した。ふと見ると相原くんは十三番で、富岡さんの二つ前で一番前の席だった。


「相原くん、安心して、私も一番前よ。偶然にも隣同士ね」


 大島さんがそう言ったので見ると、大島さんは七番で僕の二つ前で一番前の席だった。たしかに相原くんとは隣同士だ。


「……そっか、よかった、話せる人が近くて。それにしてもおしかったね、もう少しでまた四人が集まれたのに」

「ほんとだね、まぁけっこうみんな近くて嬉しいんだけど、こんなに奇跡って起きるものかなぁ……」

「さぁ……やっぱりみんな日頃の行いがいいんじゃないかしら。話せる人が近いとありがたいわね」


 なんか不思議な感じがしたが、気にしないことにした。うん、なんとか三学期も頑張っていけそうだ。みんな密かに気合いを入れていた。

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