第101話「お墓参り」
一月七日。土曜日の今日は、特別な日だった。
何かと言うと、父さんの命日だった。僕が小学校三年生の時、父さんは病気で亡くなった。今よりはずっと小さかったが、病気のことももう帰って来ないということも分かった僕は、悲しくてわんわんと泣いた。日向は小学校一年生で、まだ病気のことはよく分からなかったようだが、僕が泣きまくるのを見て色々と感じたのか一緒に泣いた。
一番悲しかったのは母さんのはずだが、母さんは僕たちの前では涙を見せなかった。泣きまくる僕たちをずっと抱きしめていた。そのことは僕の記憶に鮮明に残っている。
去年は母さんが仕事になってしまって、一月七日にお墓参りに行けなかった。今年は土曜日で僕たちも母さんも休みのため、お墓参りに行こうと話していた。
昨日ふと絵菜とRINEをしていると、こんな話になった。
『団吉、明日はバイト?』
『ううん、明日は父さんの命日だから、お墓参りに行こうと思ってるよ』
『あ、そうなんだな……あの、よかったらなんだけど、私も一緒に行かせてもらっても大丈夫かな……?』
『え、あ、そっか、母さんに聞いてみないと分からないけど……うん、聞いてみるね』
『ごめん、ありがと、ダメだったら遠慮するから』
そのことを母さんに話すと、「あらあら、そうなのね、お父さんに絵菜ちゃんを紹介するのもよさそうね、あ、そしたら真菜ちゃんと健斗くんも呼んだらどうかしら?」と言ってくれた。僕はすぐに絵菜にRINEを送ると、『ありがと、真菜と一緒に行く』と言っていた。長谷川くんには日向が話していたみたいだ。
朝、準備を済ませてリビングでくつろいでいると、インターホンが鳴った。出ると絵菜と真菜ちゃんと長谷川くんが来ていた。
「いらっしゃい……あれ? また途中で会ったの?」
「お、おはよ、うん、さっきそこで偶然にも」
「お兄様、おはようございます。今日はすみません急に来てしまって」
「お兄さん、おはようございます。ぼ、僕までいいのでしょうか……?」
「おはよう、うん、母さんがいいって言ったから、大丈夫だよ」
玄関で話していると、母さんがニコニコしながらやって来た。
「あらあら、みんなおはよう、ちょっと早いけど行きましょうか」
みんなで駅前まで歩いて行く。今日も寒いが、父さんが亡くなった日も寒かった。僕はあの日のことを色々と思い出していた。
電車にしばらく揺られて、最寄りの駅に着く。墓地までちょっと距離があるのでいつもはタクシーに乗っているが、今日は人数が多いのでバスに乗ることにした。バスにしばらく乗って、墓地の近くまで着いた。そこから歩いて行く。
「みんな着いたわよー、久しぶりに来たわね」
みんなで父さんのお墓の前に並ぶ。それにしても日向がずっとおとなしい。いつもはうるさいくらいに話すのに、お墓参りとなると急におとなしくなるのが日向だった。
「日向、大丈夫か?」
「あ、う、うん、大丈夫……」
日向が僕の手をそっと握ってきた。あの日も僕の手をずっと握っていたな。全然変わっていなかった。
「お花は小さいのを持って来たから、後でお供えして……そうそう、お父さんはコーヒーが好きだったからね、今日も持って来たわ。団吉、ちょっとお掃除しておこうか」
母さんと僕がお墓を軽く掃除して、母さんがお墓にお花と缶コーヒーをお供えした。お線香をあげて、みんなで手を合わせる。
「……さてさて、お父さん、今日は賑やかでしょ、団吉も日向もね、大きくなってなんとお付き合いしている人がいるのよ。団吉、日向、お父さんに紹介してあげて」
「あ、うん……父さん、僕も大事な人ができたよ。こちらの沢井絵菜さんと、妹の真菜さん。あ、ごめん、二人とも話しかけてもらっていいかな?」
「……あ、は、はじめまして、沢井絵菜と言います……その、団吉くんと一年生の時からお付き合いさせてもらってて……あの、私、団吉くんとずっと一緒にいたいです……」
「お父さん、はじめまして、沢井真菜と申します。お兄様と日向ちゃんとお母さんにはいつもお世話になっていて、私とても嬉しいです。これからもよろしくお願いします」
絵菜と真菜ちゃんがお辞儀をした。次は長谷川くんかと思って日向の方を見ると、僕の手をぎゅっと握って今にも泣きそうな顔をしている。日向も色々思い出しているのだろう。
「日向、ほら、しっかりしないと父さんに笑われるぞ。日向はまだまだ子どもだなぁって」
「う、うう……うん……お父さん、私も好きな人がいる……長谷川健斗くんっていう……うう……」
日向が僕の右腕につかまって動かなくなった。
「日向……あ、ごめん長谷川くん、話しかけてもらっていいかな?」
「あ、は、はい……はじめまして、長谷川健斗と言います。日向さんとお付き合いさせてもらっています。その、僕も日向さんとずっと一緒にいたいと思っています。よろしくお願いします」
長谷川くんが姿勢を正して、お辞儀をした。
「日向、ほら、これで涙拭いて」
「うう……うん……ぐすん……ずびーっ」
「あーっ! 鼻かみやがったな! ぼ、僕のハンカチが……」
僕と日向のやりとりに、みんなクスクスと笑った。
「ふふふ、お父さん、団吉も日向もすごいでしょ、こんなに大きくなって私もびっくりしてるわ。これからもみんなを見守ってね。あ、日向と真菜ちゃんと健斗くんはもうすぐ受験だから、合格できるように祈っておいてね」
最後にもう一度みんなで手を合わせた。僕は父さんが亡くなる前に「団吉、母さんと日向を、よろしくな」と言って、優しく僕の手を握ってくれたのを思い出していた。あの時から僕はこの家の長男として頑張ろうと思った。ま、まぁ、勉強は頑張ったけど友達はあまりできなかったわけで……でも、高校では仲の良い友達ができた。以前よりも前向きで学校が楽しいと思えるようになった。それだけでも嬉しかった。
優しかった父さんの代わりに、僕はなれているかな。これからもみんなで頑張るから、そっと見守ってほしいなと思った。
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