番外編第3話「話したい」

 私には、気になっている人がいる。

 名前は日車団吉。今考えてもちょっとめずらしい名字と名前だなと思う。日車くんは一年生の時から一緒のクラスだった。

 最初はほとんど話すこともなく、日車くんはいつも一人でいて、ちょっと暗そうな子だなと思っていた。でも、一年生で初めての定期テストで私は衝撃を受けた。日車くんは学年で七位で、私よりも成績がよかったのだ。このクラスで一番になるのは私だと勝手に思っていたため、ショックだった。

 それからしばらく、放課後に残って勉強をしていくことにしていた。日車くんに負けたくない、その思いは強かった。

 ある日、いつものように放課後残っていると、日車くんが忘れ物を取りに戻ってきた。その頃日車くんはクラスでもちょっと噂になっていた。勉強ができて、実はよく見ると可愛い顔をしていると。その時初めて日車くんと二人きりで話したのだが、たしかに可愛い顔をしていた。

 私は少しだけドキドキさせてやろうと思って日車くんに近づいた。近くで見るとほんとに可愛い……私も胸がドキドキした。日車くんの唇にそっと触れた時、教室の入り口から声がした。なんと同じクラスの沢井さんが見ていたのだ。日車くんは逃げた沢井さんを追いかけて行った。

 沢井さんか、彼女ともほとんど話したことはなかった。沢井さんも日車くんと一緒でいつも一人でいる。綺麗な金髪をしていて、笑ったところをほとんど見たことがない。日車くんと沢井さんに接点があるようには思えなかったが、まぁいいかと思って、それから日車くんを目で追いかけるようになった。

 そんな一年生の夏休み、ショッピングモールで偶然日車くんと沢井さんに会った。二人は手をつないでいて、まさか付き合っているのかと思ったが、日車くんは付き合っていないと言った。でもデートか、沢井さんに先を越された気がして悔しかった。それから沢井さんのことも気になって目で追いかけるようになった。


(……ふふふ、なんだか懐かしいこと思い出しちゃったわね)


 私は部屋でスマホを眺めながら心の中でそう思った。RINEの画面には『青桜高校生徒会役員』の文字と、ハンバーガーの画像があった。そう、生徒会のみんなでRINEのグループを作ったのだ。当然日車くんもグループに入っている。


(こ、ここはやっぱりグループで話す方がいいのかしら……でも日車くんと二人で話したい気持ちもあって……こ、こういう時どうすればいいのかしら……)


 スマホの画面を見ながらぐるぐると考えていると、ピコンとスマホが鳴った。グループRINEにメッセージが来たみたいだ。


『今日はありがとう。初めてハンバーガー食べたけど、美味しかった』


 九十九さんが送ってきたみたいだ。そういえば彼女とはまだ知り合って日が浅いが、どうも日車くんに近づいている気がする。思わぬところからライバルが出現した。九十九さんも切れ長の目で美人だし、私はちょっと焦っていた。

 ……とは言っても、日車くんには沢井さんという彼女がいるのだが。


『お疲れさま、九十九さんも楽しんでもらえたようで、よかったよ』


 今度は日車くんが送ってきた。彼はたぶんみんなに対してだと思うが、本当に優しい。私はそこにも惹かれていた。


(ひ、日車くんがRINE送ってきたということは、時間はありそうね……あ、わ、私も送らないと不自然かしら……)


『お疲れさま、よかったわ、またみんなで行きましょ』


 とりあえずグループRINEに送った後、私は日車くんのアカウントをタップしていた。


(こ、ここから日車くんに送れるわね……どうしよう、いきなり個別に送ったら怪しまれるかしら……)


 五分くらい考えて、やっぱり私は日車くんにRINEを送ってみることにした。


『こんばんは、お疲れさま、今いいかしら?』


 ストレート過ぎるかと思ったが、そのまま送信ボタンを押す。すぐに返事が来た。


『お疲れさま、うん、大丈夫だよ、どうかした?』


 ど、どうしよう、日車くんと話したかったなんて言えないし……私は頭をフル回転させてRINEでの会話を続けた。


『あ、いや、友達とRINEできるのが嬉しくて、ちょっと送ってみたかったというか』

『そっかそっか、もしかして大島さん友達いないの?』

『あはは、そうねだいたいいつも一人……って、うるさいわね、私だって友達くらいいるわよ』

『大島さん、強がらなくていいよ、僕も以前は一人だったから』

『そうね、日車くんはよく一人でいたわね……って、強がってなんかないわよ、私くらいになるとみんな寄って来るんだからね』

『そうかなぁ、大島さんが友達とワイワイ楽しんでるとこ、あまり見たことないような……』

『あ、あれ? もしかして私が勝手に友達と思っているだけなのかしら……』

『大島さん、涙を拭いて、僕たちがついてるよ』

『ま、まぁ、日車くんがいればそれでいいわ』


 その時、私はハッとした。ひ、日車くんがいればいいなんて、私が日車くんのこと気になってるってバレバレじゃない。あれ? でももうバレているような気もする。ドキドキしながら返事を待つと、


『うん、僕も大島さんには色々感謝してるから。ありがとう』


 と、送られてきた。私は飛び跳ねそうになるほど嬉しかった。やっぱり優しい……彼に惹かれる私がいた。


『そうなのね、私も日車くんと出会えてよかったと思ってるわ』

『うんうん、これからもよろしく。そうだ、大島さんは好きな人とかいないの?』

『え!? いや、今はいないかなーなんて……』

『そっか、大島さん美人だからモテそうなんだけどなぁ。もしかしてみんな避けてる……?』

『あはは、そうね避けられてるのかもね……って、うるさいわね、そんなことないわよ』


 い、言えるわけないじゃない……彼女がいるあなたのことが好きだなんて……。

 私と沢井さん、何が違うのかしら……勉強は私の方ができるけど、運動は沢井さんには負けるわね、五分五分か、顔は……沢井さんもよく見ると可愛い顔してるけど、私だって負けてないと思う。よく分からなくなってきた。

 その後しばらくグループRINEと日車くんとの個別のRINEで色々と話していた。私はずっと日車くんとのRINEを眺めてニヤニヤしていた。

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