番外編第2話「中学生の日常」

「真菜ちゃん、健斗くん、一緒に食べよ!」


 ある日のお昼ご飯、私は真菜ちゃんと健斗くんと一緒に食べる。ここ最近は三人で食べることが多くなった。健斗くんも女子と一緒だと恥ずかしいかなと思ったのだが、全然気にしていないようだ。私と健斗くんが付き合い始めたことを知っている友達も多く、みんなニコニコしながら見てくれているような気がする。


「そうだね、食べよっか」

「うん、食べよう」

「あ、真菜ちゃんのお弁当可愛い! もしかして作ったの?」

「うん、今日は早く起きたから、お母さんとお姉ちゃんの分も作ってみたよ」

「わ、沢井さんお弁当作れるのか、すごいなぁ」

「ううん、大したことはないよ、簡単なもの詰めるだけだから」


 簡単なものと真菜ちゃんは言うが、きんぴらごぼう、ウィンナー、卵焼きなど、真菜ちゃんのお弁当は美味しそうだった。私もまた頑張って作ってみようかなという気持ちになった。


「簡単なものには見えないよー、私もまた頑張って作ってみようかなぁ」

「日向ちゃんも前に作ってきてたよね、あ、長谷川くんの分も作ってあげるっていうのはどうだろう?」

「え!? あ、そ、それもいいかもしれないね……」

「な、なるほど、日向に作ってもらうのか……は、恥ずかしいな……」

「ふふふ、それにしても二人は付き合っているのに、なんか雰囲気変わらないね、今までと一緒というか」

「え、そ、そうかな、ま、まぁ、今までもよく話してたからね……あはは」

「そ、そうだね、僕も決して意識してないとか、そういうわけではないんだけど……あはは」


 私と健斗くんが慌てるので、真菜ちゃんがクスクスと笑った。今までも友達だったから、たしかに雰囲気は変わらないのかもしれない。こうして三人で一緒にいれるというのが嬉しいのだが、け、健斗くんを急に意識すると顔が熱くなりそうだった。


「ふふふ、二人を見てるといいなぁって思うよ。私もいつかいい人ができるのかなぁ」

「うん、真菜ちゃん可愛いから大丈夫だよ、今はいなくても、高校に行ったらモテるんじゃないかなぁ」

「どうかなぁ、あ、私はお付き合いするならお兄様みたいな優しい人がいいなぁ」

「そ、そうだね、お兄ちゃんみたいな人がきっと一人はいるはず……」


 私と真菜ちゃんが話していると、健斗くんがクスクスと笑った。


「な、なんか可笑おかしかった?」

「あ、ごめん、二人ともお兄さんのこと好きなんだなぁって思って」

「そうだね、お兄様は優しくてカッコよくて、とっても素敵な人……日向ちゃんも大好きだからね」

「うん! お兄ちゃん大好き……って、こんなこと言うと健斗くんに失礼なのかな」

「あはは、いやいや、お兄さんが素敵な人だというのはもちろん分かってるよ。僕も尊敬してる」


 今頃お兄ちゃん、くしゃみしてないかなと思った。うん、健斗くんももちろん大事だけど、お兄ちゃんも大事だからね。


「あー、さっきの授業のとこ難しかったね、またお兄ちゃんに教えてもらおうかなぁ」

「あ、お兄様が近くにいるっていいよね、神様だから何でも教えてくれそう」

「ほんとだね、僕もお兄さんにまた勉強教えてもらいたいな……」

「あ、じゃあさ、うちで一緒に勉強しない? お兄ちゃんもいるだろうし、教えてもらえるよ」

「まあまあ、それも楽しそうだね! やろうやろう!」

「うん、みんなで勉強するとやる気出るよね、頑張らないとな」


 勝手にお兄ちゃんを巻き込む私たちだった。



 * * *



「日向、一緒に帰らない?」


 その日の放課後、健斗くんが私に話しかけてきた。


「うん、帰ろっか」


 二人で一緒に校門を出たところで、健斗くんが「あ、そうだ」と言って立ち止まった。どうしたのかなと思ったら、


「て、手、つながない……?」


 と言って、左手をそっと差し出して来た。え!? あ、なるほど……。


「う、うん……」


 私はそっと健斗くんの手を握る。お兄ちゃんと一緒で大きな手だ。私が小さいのかもしれないけど。健斗くんはお兄ちゃんと背が変わらないから、手が大きく感じるのも当たり前なのかもしれない。


「あ、あのさ、お兄さんのことが大事なのはもちろん分かるんだけど、ぼ、僕も大事にしてほしいというか、なんというか……あれ? 僕何言ってるんだろう」

「え、あ、うん、もちろん、お兄ちゃんだけじゃなくて、健斗くんも大事だよ……」

「あ、ありがとう……お兄さんに負けないように頑張らないとな……お兄さんがすごすぎて勝てる気は全然しないんだけど」

「あはは、健斗くんは健斗くんらしく、今までと一緒でいいんだよ。そ、そんなところが、す、好きというか……」

「う、うん……分かった、僕も日向が大好きだよ」


 健斗くんがストレートに言うので、私は顔が熱くなった。うう、は、恥ずかしい……今顔が真っ赤になっているのではないだろうか。


「あ、ありがとう……私も嬉しい……」

「うん、それにしてもどんどん受験の日が近づいているね、このままで大丈夫かなって不安になるよ」

「たしかに……健斗くんも青桜高校受けるの?」

「うん、文化祭とか見てるといいなーと思ってね。生徒の自主性を尊重しているところがいいと思うし、お兄さんの後輩になりたいっていうのもあるかも」

「そうだね、私もお兄ちゃんたちの後輩になりたい。そ、そのためには勉強頑張らないといけないんだけど……」

「あはは、日向も成績上がってきたから、大丈夫なんじゃないかな? まぁ油断はしちゃいけないと思うけど」

「うん、お兄ちゃんにも勉強教えてもらって、自分なりに頑張ってはいるんだけど……油断しないようにしないとね」

「うん、一緒に頑張ろう。沢井さんも一緒に三人で合格しないとね」


 私は嬉しくなってぎゅっと健斗くんの手を握った。勉強は大変だけど、お兄ちゃんが教えてくれるし、健斗くんや真菜ちゃんも頑張っている。三人で一緒に合格するんだ。その気持ちはとても大きかった。

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