第100話「新年」
お正月。新しい一年が始まる。
昼におせちをいただいた。今年も母さんと日向が頑張って作っていた。僕も手伝おうとしたが、「お兄ちゃんは座ってていいよ!」となぜか日向に言われて少しだけになってしまった。
黒豆、かずのこ、伊達巻、かまぼこ、筑前煮など、色々な品が重箱に詰められている。日向はまたかずのこをたくさん食べているようだ。去年お腹壊しそうになったのを忘れたのだろうか。「やっぱりかずのこってお正月以外はあまり見ないね、もったいないなー」と日向が言っていた。好きな食べ物になると止まらなくなるのは昔から変わらなかった。
「うおー、食べた食べたー、お腹いっぱいだよー」
「おいおい、後で初詣に行くのに大丈夫か?」
「大丈夫だよー、ねぇお兄ちゃん、今年もイカ焼き買って?」
日向が僕の右腕に絡みついて甘えた声を出す。こ、こいつ、今年も食べる気なのか。
「えぇ……まぁいいけど、今お腹いっぱいって言ってたような……」
「やったー! お兄ちゃん大好き!」
「ふふふ、二人とも楽しそうね、絵菜ちゃんたち来るの?」
「あ、うん、もうすぐ来ると思う」
三人で話していると、インターホンが鳴った。出ると絵菜と真菜ちゃんと長谷川くんが来ていた。
「あけましておめでとう……って、あれ? 待ち合わせて来たの?」
「あ、あけましておめでとう、いや、さっきそこで偶然一緒になった」
「お兄様、日向ちゃん、あけましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いします」
「あ、あけましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いします!」
「みなさんあけましておめでとうございますー! お兄ちゃん、みんな揃ったし行こっか!」
「ああ、そうだな、じゃあ行こうか」
母さんに「気をつけてねー行ってらっしゃい」と見送られ、五人で家を出て駅前へ歩いて行く。神社は駅前から六駅隣だったか。学問の神様が祀られていることで有名な神社だ。今年も人が多そうだなと思った。
「ああーついに今年になっちゃったねー、本番が近いから緊張する……」
「日向ちゃん、大丈夫だよ、三人で絶対に青桜高校に合格しようね!」
「うん、そうだね! 健斗くんも頑張ろ!」
「うん、で、でも緊張するのなんか分かる気がするよ。初めての経験だから……」
後ろで三人が盛り上がっている。この中では「健斗くんも頑張ろ」って言ってる日向が一番頑張らないといけないのだが、言わないでおくことにした。
駅前から電車に乗り、しばらく揺られて目的の駅に着く。ここから歩いて十分くらいのところに神社がある。途中に出店が並んでいるのは去年と変わらなかった。
「イカ焼きのいいにおいがする……美味しそう……じゅるり」
「おいおい、なんか高梨さんみたいだな……まずはお参りしてからだぞ、何しに来たか分かんなくなるな」
「ふっふっふー、大丈夫だよー、分かってるから!」
日向がドヤ顔で言った。いや、ふらふらとイカ焼きのお店に行ってたのはどこのどいつだ。
手水で手と口を清めて、社殿に行く。今年もけっこう人が多かったが、人の流れはあるのですぐに賽銭箱の前に来た。みんなでお賽銭を入れてお参りする。今年は何といっても日向たち三人が無事に合格できますように、そして僕も学校の成績が落ちることなくいいものでありますように、さらに絵菜やみんなと仲良くできますようにと、心の中でお願いした。ちょっと多かっただろうか。
「お兄様、なんだかニコニコしていますね、どんなお願い事したのですか?」
「え、そ、そうかな、まずは真菜ちゃんたち三人が合格できるようにと、自分の成績が落ちないようにと、みんな仲良くできるようにとお願いしたよ」
「まあまあ、ありがとうございます、お兄様に応援してもらったらもう大丈夫です」
「よし! ちゃんと青桜高校に合格できますようにってお願いできた! 健斗くんは?」
「あ、僕も一緒だよ、三人で一緒に合格できますようにってお願いしたよ」
「ふふっ、団吉、あの三人なら大丈夫そうだな」
「うん、大丈夫そうだね、絵菜はどんなお願い事した?」
「あ、三人の合格と、団吉と今年も、その先もずっと一緒に仲良くできますようにって」
「そ、そっか、そのお願いは叶うから大丈夫だよ……はっ!?」
ふと前を見ると、日向と真菜ちゃんがニヤニヤしながら僕たちを見ていた。うう、久しぶりにニヤニヤされたな。
「そうだ、今年もおみくじ引いてみようか」
みんなでおみくじを引いてみることにした。僕は……あ、大吉だ。お正月から縁起がいいな。学問、健康、その他色々と問題ないようだが、恋愛が『積極的にせよ』と書いてあった。な、なるほど、僕ももっと積極的になってもいいのかもしれないな。
「あ、団吉も大吉か、私も大吉だった。恋愛に『良い人なので信じよ』と書いてあった」
「そ、そっか、うん、恥ずかしいけど、僕を信じてもらえれば嬉しいよ」
「うん、良い人は団吉にピッタリだな、ずっと信じてる」
絵菜が笑顔でそう言った。うん、絵菜に信じてもらえるというのは嬉しいものだ。
「お兄ちゃん! さぁお待ちかねのイカ焼き行くよー!」
「お、おう、急に元気になったな……あ、絵菜と真菜ちゃんと長谷川くんも食べる? おごるよ」
「え、い、いいのかな、じゃ、じゃあ私も……」
「お兄様、ありがとうございます、私も食べたいです」
「え、あ、あの、僕もいいのでしょうか……?」
「うん、いいよ、みんなで食べようか」
みんなでイカ焼きを買って食べることにした。日向が嬉しそうな顔をしている。しかしこいつは本当によく食べるな。まぁよく食べて元気な方が日向らしいか。でも背はあまり伸びないんだよな、幼稚園の頃からずっと小さい。そのことを言うと怒られそうなので言わないようにしている。
今年も一年が始まった。去年と同じくいい年になるといいな。
----------
作者のりおんです。
みなさまの応援のおかげで、100話まで来ることができました。本当にありがとうございます。
次から4話ほど、番外編をお送りします。いつもの団吉くんの視点から離れて、ある人たちの視点となるお話です。
誰が出て来るかは、お楽しみに。
これからも、よろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます