第99話「今年最後」

 大晦日になった。

 今年も去年と同じく我が家は三人で大掃除をすることになった。僕はリビングと玄関、日向は風呂場とトイレ、母さんはキッチンとベランダを入念に掃除する。日向が「ピッカピカにしてやる!」とまたテンションが高かった。

 それぞれの持ち場が終わった後、自分の部屋の片づけや掃除をすることにした。まぁわりと綺麗な方だと思うが、本棚が手つかずだったので本を取り出して棚も綺麗にした。机周りも整理する。

 片付けや掃除をしながら、今年のことを思い返していた。今年も去年と同じくたくさんいい思い出ができた。二年生になって、まさか学級委員をするとは思わなかった……と思っていたら、なんと生徒会にまで入ってしまった。最初は僕なんかにできるのか不安だったが、周りの人もみんないい人なので、楽しく自分の役割を果たすことができていると思う。今までいろいろなことから逃げていたので、自信にもなった。

 体育祭や修学旅行や文化祭もいい思い出になった。そして今年も、絵菜の笑顔がたくさん見れた。僕はそれが一番嬉しかった。来年もまたたくさん一緒にいたい。

 

 コンコン。

 

 部屋の掃除が終わりかけた時、扉をノックする音が聞こえた。「はい」と言うと、日向と母さんが入ってきた。


「団吉、部屋の掃除は終わった?」

「あ、うん、もうあとこの本を片付けてしまえば終わりかな」

「そう、今年も家がピカピカになったわね、二人のおかげよ」

「ふっふっふー、私がお風呂場とトイレはピッカピカに磨き上げたからね! もうほおずりできるくらいだよ」

「うえっ、日向本気で言ってるのか? 想像したらゾッとするんだが……」

「ち、違うよ! 例えばでしょ、例えば!」

「ふふふ、そんな二人におねがいがあって。ちょっと買い物に行ってきてくれないかしら? 今日の夜は年越しそばにしようと思うんだけど、色々と買い忘れちゃって。うっかりしてたわ」

「ん? ああ、いいよ、何買えばいい?」

「このメモに書いてあるから、お願いね。家のお財布も持って行って。あ、あとお菓子買ってきていいわよ」

「よーし、お兄ちゃん行こ行こ! お菓子何にしようかなー」

「おいおい、幼稚園児じゃないんだから……まぁいいか。じゃあ行こうか」


 上着を着て、日向と一緒に家を出る。僕がバイトしているスーパーでいいか。外は寒いのであまり遠くまでは行きたくなかった。

 日向はというと、ニコニコしながら僕の左手を握っていた。これが普段のお買い物デートというやつか……って、なぜ隣は絵菜じゃないのだろうか。

 十分ほど歩いて、スーパーに着く。もちろん今日が年内最後の営業だった。僕は昨日バイトに入っていたので、店長やパートのおばちゃんたちに「よいお年をお迎えください」と挨拶していた。新年は三日から開く予定だ。


「えーっと、海老天と、みりんと、かまぼこと、短いラップと、牛乳か……ほんとに色々買い忘れてるな、母さん」

「まぁ、そういうこともあるよー、お母さんも完璧じゃないんだから」

「あら、日車くん?」


 ふと名前を呼ばれて振り向くと、よく一緒になるパートのおばちゃんがいた。


「あ、こんにちは」

「こんにちは、お買い物? こちらは彼女さんかしら?」

「はい、彼女です!」

「なっ!? 嘘をつくなよ、こっちは妹です、母が色々と買い忘れたらしいので、買い物に来ました」

「あはは、可愛い妹さんね。二人とも偉いわね、うちの子も見習ってほしいわ。じゃあ日車くん、また来年ね」

「はい、またよろしくお願いします」


 おばちゃんが手を振りながら裏の方に行った。僕と日向はメモに書いてあったものと、お菓子をそれぞれ一つずつ買って帰った。うう、帰りも寒い。そういえば絵菜はプレゼントしたマフラーを使ってくれていたな。

 家に帰ると、母さんが温かいコーヒーを入れてくれた。


「おかえり、二人ともありがとう、ちょっと休憩しましょうか」

「あ、クッキー買ってきたから、食べようか」

「わーい、クッキー美味しそうだったんだよねー」

「そうだ、日向、明日初詣に行くか? 合格祈願したくないか?」

「あ、そうだね! 神様にもお願いしておかないと……」

「うん、絵菜と真菜ちゃんにも声かけてみようか、あ、長谷川くんも行くかな?」

「あ、うん! 私健斗くんにRINE送ってみる!」


 僕はスマホを取り出して、絵菜にRINEを送った。


『こんにちは、明日日向と初詣行こうかなと思っているんだけど、絵菜と真菜ちゃんもどうかな?』

『あ、うん、私たちも行きたい』

『分かった、じゃあ午後から行こうか、長谷川くんも来るかもしれない』

『そっか、分かった。受験生だし、合格祈願だな』

『うん、なんとか三人が合格できるようにお願いしておかないとね』

『そうだな、真菜にも話しておく』


「お兄ちゃん、健斗くんも行きたいって! いいかな?」

「ああ、いいよ、絵菜と真菜ちゃんも行くってさ、三人が合格できるように神様にお願いしておかないとな」

「うん! あーついに本番が近づいてるなぁ、ほんとに青桜高校に入れるかな」

「日向も今まで頑張ってきたんだから、大丈夫だよ。後は自信を持つことだよ」

「ふふふ、そうね、日向は勉強嫌いだったもんねぇ、よく頑張って来たわよ。合格したら団吉にもお礼しないとね」

「うん! お兄ちゃん何がいい? ハグ? ほっぺにチュー?」

「ば、バカ! そんなのいいよ、それよりも、ちゃんと合格するんだぞ」


 う、うーん、やっぱり日向は兄から離れる気がなさそうだ。長谷川くんもいるんだしもう少し離れてくれてもいいのだが……って考えると、なぜかいつも寂しくなってしまう。自分にとっても大事な妹なんだな。

 夜に年越しそばをいただいて、みんなでのんびりとテレビを見ていた。年末の特番が多くて面白い。ああ、今年も終わるのだなと思うと、ちょっとだけ寂しい気持ちになってしまうのはなぜだろうか。

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