第98話「アルバム」
次の日、目が覚めると絵菜の寝顔が目の前にあった。
そうだった、また一緒に寝たのだった。あれからくっついて見つめ合ったりキスをしたり、絵菜がかなり積極的だった。でもたしかに、最近あまりくっつけていなかったことを考えると仕方ないのかもしれない。
時計を見ると六時になろうとしていた。まだ起きるには早かったが、そっと絵菜の金色の髪をなでてから、絵菜が起きないようにゆっくりと起き上がる。うーんと背伸びをしてベッドに背を向けて座った。けっこう寒いので暖房をつけたその時だった。
「――あれ? 団吉……?」
絵菜の声が聞こえた。どうやら起きたみたいだ。
「こっちにいるよ、ごめん、起こしたかな」
「ううん、大丈夫……あれ、いつの間にか寝ちゃってた……」
「うん、僕もいつの間にか寝てたよ。絵菜の可愛い寝顔見ちゃった」
「……もう、ずるい」
絵菜が起き上がって僕の隣に来て、ぎゅっと抱きついてきた。
「やっぱり起きてからすぐ団吉がいるの、嬉しいな……」
「うん、僕も嬉しいよ、一緒に暮らしたらこれが普通になるのか……」
「そうだな、でもたまにあるから嬉しいのであって、毎日となると嬉しさ半減しちゃうかな……いや、でも毎日がいい」
「あはは、あ、着替えようか、絵菜は起きたばかりだから、先に着替えていいかな?」
「うん、今日こそ団吉が着替えるところ見ようかな……」
「え!? だ、ダメだよ、向こう向いててね」
絵菜がちょっと頬を膨らませて部屋の入り口の方を向いたので、僕は急いで着替えた。な、なんでそんなに見たがるのだろうか。
「お、終わったよ、大丈夫」
「そっか、じゃあ私も」
絵菜が急にパジャマを脱ごうとするので、僕は慌てて部屋の入り口の方へ移動した。うう、やっぱり大胆というかなんというか。でもそれだけ信頼されているのかもしれない。とはいえ、見てはダメだよな……。
絵菜も着替えが終わり、二人でリビングへ行く。母さんがもう起きていて朝食の準備をしていた。日向と真菜ちゃんはまだのようだ。
「二人ともおはよう、絵菜ちゃん眠れた?」
「おはようございます、はい、いつの間にかぐっすり眠っていたようで」
「そう、よかったわ、二人ともごめんね、今日お母さんはお仕事だから行ってくるわね、お昼はどうする?」
「あ、僕と日向が作るよ、大丈夫」
「そう? 分かったわ。二人とも座ってて、日向と真菜ちゃんが起きたら朝ご飯にしましょう」
テーブルの椅子に座って話していると、日向と真菜ちゃんが起きてきた。
「おはよー……あ、お兄ちゃんたち起きてたんだねー……」
「お、おう、おはよう、日向、すげー寝癖ついてるぞ」
「え!? きゃー恥ずかしい!」
バタバタと洗面所に向かう日向だった。
「みなさんおはようございます、お兄様とお姉ちゃん早いですね、もしかして寝てないとか?」
「お、おはよう、い、いや、ちゃんと寝たよ、大丈夫」
やっぱりずっとくっついて寝てたとは言えなかった。
みんなで朝食をいただいた後、母さんが仕事に行くのを見送って、僕たちは四人で談笑していた。
「あ、お兄様、また勉強教えてくれませんか? 理科と英語も気になるところがあって」
「あ、団吉、私も物理教えてほしい」
「ああ、いいよ、そしたら今から日向も勉強な」
「えぇ!? わ、私はお昼の準備があるからなー……あはは」
「何言ってんだ、まだ早いよ、はい準備して」
「う、ううー、お兄ちゃんのアンポンターン」
ぶーぶー文句を言う日向を見て、絵菜と真菜ちゃんがまた笑った。
みんなで勉強をする。絵菜は物理、真菜ちゃんは理科、日向は英語を進めていた。僕はちょいちょい呼ばれるのを覚悟しつつ数学を進めた。うん、数学はほとんど終わったかな。まだ課題は他にもたくさん出ているので油断はできない。
お昼が近づいてきたので、僕と日向は勉強を切り上げて昼ご飯の準備をする。たしか麺がいくつかあったから、焼きそばでも作ろうか。キャベツやピーマン、もやしやウィンナーなどを入れてもいいだろう。
二人で力を合わせて焼きそばを作った。ソースのいい香りがする。
「できたよ、食べようか」
「い、いただきます……あ、すごく美味しい」
「お兄様、日向ちゃん、美味しいです!」
「そっか、よかった、美味しいって言ってもらえるとやっぱり嬉しいな」
「すごいな団吉……私ももっと作れるようになりたい」
「うんうん、作ってみるとけっこう簡単だから、今度教えるね」
「お姉ちゃん、一緒に練習しよう! またお兄様と日向ちゃんに食べてもらわなきゃ」
「あ、ああ、もっと頑張っておく……」
みんなで焼きそばをいただいた後、僕たちはまた勉強をしていたのだが、
「あ、そうだ、お兄様、以前話していましたが、お兄様と日向ちゃんの小さい頃の写真ありますか? 見てみたいです」
と、真菜ちゃんが言った。
「あ、私も見てみたい」
「え!? あ、まぁ、写真はあるといえばあるけど……」
「ふっふっふー、私の出番だね! 取って来る!」
「お、おい、ちょっと待――」
僕の言葉を聞かずに日向がダッシュで母さんの部屋に行き、アルバムをいくつか持って来た。
「これに色々残ってるよー、あ、これはお兄ちゃんが小学校一年生になった時だね」
「わ、だ、団吉可愛い……! こんなに小さかったのか」
「わぁ! お兄様可愛いです! 今とはまた違う可愛さがあるというか」
「え、あ、そうかな、恥ずかしすぎるんだが……」
「どれも可愛いな……あ、これお父さんか? 団吉に似てるな」
「あ、うん、まだ元気だった頃だね、優しかったよ」
「まあまあ、お兄様の優しさはお父さん譲りだったのですね!」
「そ、そうかな、まぁ、父さんに似ていると言われるのは嬉しいよ」
久しぶりに父さんの写真を見た気がする。避けているわけではなく、僕も写真を持っているが、見ると色々思い出してしまうところがあるのかもしれない。
「このへんは中学の頃だねー、あ、火野さんも写ってる」
「火野は中学の頃から爽やかだな」
「うん、背は中学三年間でぐんぐん伸びたし、イケメンなのは変わらないよ」
「そっか、団吉も日向ちゃんも可愛い……優子が食べたいって言ってた気持ちが分かる気がする」
「え!? ぼ、僕はさすがに違うんじゃないかな……あはは」
うっ、この前の長谷川くんへの接し方といい、もしかして高梨さんは男の子でも……い、いや、さすがにそれはないか。
しばらくみんなで写真をあれこれと見ながら話していた。は、恥ずかしすぎる……でも、久しぶりに父さんの姿を見れたから、いいか。
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