第97話「くっついて」

「みんなー、お風呂入ったわよ、順番に入ってね」


 しばらくテレビを見ながら談笑していると、母さんがお風呂を入れてくれた。


「あ、はーい! 順番どうしよう、またじゃんけんしよっか!」


 日向の一言でじゃんけんが始まる。結果、絵菜、真菜ちゃん、僕、日向の順にお風呂に入ることになった。


「絵菜ちゃんからかな? どうぞ入ってきてー。あ、団吉、タオルとかドライヤーとか準備してあげて」

「え!? な、なんで僕!? 日向にやらせた方が……」

「ふふふ、何慌ててるのよ、準備するだけでしょ、さぁ行った行ったー」


 母さんに背中を押されて、僕と絵菜は脱衣所へと行く。おかしいな、前の時は日向がやってたのに。


「あ、タオルとドライヤーここに置いておくね」

「あ、ありがと……なぁ、一緒に入る?」

「え!? い、いや、さすがにそれはまずいから、や、やめておくよ……」

「ふふっ、本当は裸見てみたいんだろ?」

「え!? い、いや、そんなことは……あ、ぜ、全然興味がないとか、そういうわけではないよ……って、僕は何を言ってるんだろう」

「ふふっ、団吉が可愛い。いつか一緒に入れるといいな」

「あ、う、うん、まぁ、そのうちに……」


 や、ヤバい、顔が熱くなってきた。絵菜が服を脱ごうとしたので、慌てて僕は脱衣所を出て行く。うう、絵菜って妙なところ大胆な気がする……あれ? 今に始まったことではないような。

 リビングに戻ると、日向がニヤニヤして僕を見ていた。


「あ、お兄ちゃん一緒にお風呂入っちゃうんじゃないかと心配したよー」

「なっ!? そ、そんなことしないよ……」

「まあまあ、お兄様もついにお姉ちゃんの裸を見ちゃうんですね」

「え!? あ、ま、まだ見たことないよ、ん? まだって何だ?」


 日向と真菜ちゃんがクスクスと笑う。うう、やっぱり男一人というのが辛いものがある。

 しばらく話していると、絵菜がお風呂から戻ってきた。あ、やっぱりパジャマ姿が可愛い。僕はドキドキしてしまった。


「あ、お兄ちゃんまた絵菜さんに見とれてる~」

「なっ!? い、いや、まぁ、いつもと違うから……な、なんでもないよ」


 どうして日向にはバレてしまうのだろうか。分かりやすいのかな。

 続いて真菜ちゃんがお風呂に入り、僕の順番がやって来た。脱衣所で服を脱いで、ちょっとお湯が減ってぬるくなっていたので足し湯をして温めた。真菜ちゃんは大丈夫だったかな。しかしここでまた僕は考えてしまう。


(あ、あの二人が入った後なのか……ここにいたんだよな、もちろん裸で……ん? ぼ、僕は何を考えているんだろう)


 ゆっくりと湯船につかりながら恥ずかしくなってしまう僕だった。



 * * *



 全員お風呂に入り、またのんびりと談笑していた。そういえば今日はクリスマスだった。クリスマスらしいことって何だろう? まぁ、二人が来てくれただけで十分か。


「んー、テレビもつまんなくなってきたね、そろそろ部屋に行こっか。あ、いつも通り絵菜さんはお兄ちゃんの部屋で、真菜ちゃんは私の部屋で寝ることになっていますので!」


 日向がニコニコしながら言った。いつも通りって何だよと思ったが、口にするのはやめておいた。


「そ、そうか、じゃあ僕たちも寝ることにするか……」

「お兄ちゃん、また襲っちゃダメだからね! おやすみなさーい」

「お兄様がまた襲ってしまうのかと思うとドキドキですが……おやすみなさい」

「ふふふ、団吉、絵菜ちゃんに優しくしないとダメよ、おやすみ」

「お、おやすみなさい……」

「み、みんな何言ってるの……おやすみ」


 一気に恥ずかしくなってしまった。僕と絵菜も一緒に僕の部屋に行く。また布団がいつの間にか持ち込まれていた。


「絵菜、眠い?」

「ううん、まだ大丈夫……でも」


 絵菜が僕にぎゅっと抱きついてきた。


「嬉しい……また団吉と一緒に寝れるなんて」

「あはは、そうだね……って、え!? い、一緒に寝るの?」

「……ダメか?」


 絵菜が上目遣いで僕のことを見てくる。うああ、か、可愛い……親バカとはよく聞くが、彼氏バカ? 彼女バカ? なんてあるのだろうか。


「い、いや、ダメじゃない……よ」

「ふふっ、よかった」


 二人でベッドに入る。寒いのでくっつくと暖かいけど、し、刺激が強すぎる……絵菜がぴったりとくっついてきて、顔が目の前にある。


「私、夢ができた」

「夢?」

「うん、早く団吉と一緒に暮らして、こうやって毎日くっついて寝たい」

「あ、な、なるほど……うん、僕も一緒に暮らしたいな。毎日楽しそう」

「うん、私の裸も見れるしな」

「え!? い、いや、その……あ、僕も男だから興味がないというわけではないよ……って、僕は何を言っているんだろう」

「ふふっ、ちょっと触ってみる?」


 絵菜がそう言って、僕の手をとって自分の胸にぴとっと当てた。や、やわらかい……杉崎さんよりは小さいと思うけど、絵菜もそれなりに胸があるんだな……って、そうじゃなくて! あわわわ、僕はなんてことをしてしまったのか! ああ神様、僕はいつからこんなに悪い子になってしまったのでしょうか!


「あ、ご、ごめん!」

「ううん、団吉なら全然大丈夫だよ、他の男だったらぶん殴ってるけど」

「そ、そっか、ぶ、ぶん殴るのはよくないんじゃないかな……あはは」

「……団吉は本当に優しいよな、私を襲ったりしないし……でも、ちょっと寂しかったりもする……」


 ふと絵菜が寂しそうな顔を見せた。


「あ、そ、その……胸やお尻を触るのは、だ、ダメなのかと思ってて……でも」


 僕は絵菜にさらにくっついて、全身でぎゅっと抱きしめた。


「こうやってくっつくのは、大好きだから……」

「そっか、嬉しい……私もくっつくの大好き……団吉のにおいもたまらない」


 ちょっとだけ離れて二人で見つめ合って、そっとキスをした。一度離れて目を開けると、絵菜がニコッと笑ってもう一度キスをしてきた。


「ふふっ、団吉が大好き過ぎてヤバい、おかしくなってしまいそう……」

「うん、僕も大好きだよ、絵菜……」


 それから眠くなるまで見つめ合っていた。でもそうか、優しすぎるのも問題なのかもしれないな。

 今は押されっぱなしのような気がするけど、少しずつ絵菜をリードしていけたらいいなと思った僕だった。

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